翌朝。
使用人の方々に身の回りのお世話をしていただきつつ、私は朝の支度を済ませる。
スヴァルト家も豪華だが、王家となると更にすごい。
それもそのはず、ここにいる使用人は国中から選び抜かれたエリート中のエリート達。
全員が慣れた手つきでテキパキと、一切の無駄なく身の回りの事を全て済ませてくれるため、毎回感心してしまう。
――誰か一人でもいいから、うちに講師として招きたいわね。
別にスヴァルト家に仕える者達に不満があるわけではないけれど、きっと使用人達も多くの学びが得られることだろう。
そうして、使用人スキルをマスターした人材が増えていけば、そのうち他の貴族へ使用人派遣サービスとかも出来ちゃったりして?
……なんて、謎のビジネス案を考えていると、あっという間に身の回りの支度は全て完了していた。
「おはようメアリー。支度は終えたか?」
すると、頃合いを見計らったかのようにクロード様が部屋へとやってくる。
その表情には優しい笑みが浮かんでおり、何ていうか自然な振る舞いだった。
でも私の脳裏には、昨晩の言葉が蘇る。
私は昨晩、クロード様に思いを打ち明けられたのだ。
一晩経った今、言われた時以上にクロード様の事を意識してしまう……。
「どうした?」
「い、いえ! なんでもございませんわオホホ!」
……いかん、咄嗟に誤魔化してみたものの下手過ぎる。
ここ異世界でも、オホホだなんて嫌な笑い方をする人物なんて、一部の性格の悪い悪役令嬢ぐらいなものだろう。
――つまり私かっ!
「そうか、別に焦らなくてもいいからな」
明らかに挙動不審な私に対して、クロード様は気にせず尚も優しい言葉をかけてくれる。
しかし、その口元は明らかに笑いが含まれており、絶対に私の反応を見て楽しんでいる。
というか、そもそもの原因は貴方が私に告白なんてしてきたからですけどねっ!?
……と抗議をしたくもなるが、そんな事この場で言えるはずもない私は、不満を抱きつつもお口にチャックをするしかなかった。
「……すみません、お待たせいたしました」
「別に、それほど待ってはいない」
「それほど、ですか……」
「そうだ、それほどな。――では、行くとしよう」
「行くって、どこに……?」
「朝に行くと言ったら、朝食に決まっているだろう?」
ほら行くぞと、私の手を取るクロード様。
その姿は、一瞬幼少の頃の姿と重なって見えた。
それはきっと、以前と違いクロード様が自然な笑みを浮かべているおかげだろう。
今までの無表情とは違い、自然に表情を緩めている今の姿の方が、私はやっぱり好きだ。
もしもその変化の理由が、昨晩の告白にあるのだとしたら、やっぱり意識をせずにはいられない……。
「どうした? 考え事か?」
「い、いえ、何でも」
「そうか」
私を見て、またしても自然に微笑むクロード様。
どうして告白した方が余裕綽々で、された私の方がドギマギしていなくてはならないのだろうか……。
そんな不満を抱いていた私だけれど、そんな不満もすぐにどこかへ消え去る。
何故なら、王家で食べる朝食はどれも本当に美味で、気付けば私の気分もすっかりご機嫌にされてしまっているのであった。
◇
王家での朝食を食べ終えた私は、帰宅するための馬車へと向かう。
でもその前に、私にはすべき事があるため足を止める。
「メアリー?」
「あの、クロード様。少しお話をさせていただいても、よろしいでしょうか……?」
改まった私の様子に、クロード様は初めてその表情に動揺の色を見せる。
やはりクロード様も、内心ではずっと気にされていたのだろう。
まさか一晩明けてすぐ、私から話を持ち掛けられるとは思っていなかったご様子で、ゴクリと喉を鳴らす。
「できれば、他に人のいない場所がいいのですが……」
「あ、ああ、分かった。案内しよう……」
帰りはもう少しだけ遅くなる事を使用人へ伝えると、ぎこちない様子で案内してくれるクロード様。
そうして連れてこられたのは、まさかのクロード様の自室だった。
「ここって……」
「だ、誰も来ない場所と言ったら、ここぐらいしか思いつかなかっただけだ」
少し戸惑う私に、クロード様は咄嗟に言い訳をされる。
別に私は、部屋へ入っていいかと戸惑っただけなのに、取り乱すクロード様の反応がおかしくてつい笑ってしまう。
「わ、笑うな!」
「ふふ、すみません」
「もういいから入ってくれ!」
さっきまでとは、完全に攻守逆転。
こんな風に取り乱す姿は、中々見られるものではないから貴重だ。
こうして私は話をすべく、幼少の頃ぶりにクロード様の自室へと足を踏み入れるのであった。