「……クロード様、わたくしも一晩色々と考えてみました。そのうえで、これからわたくしの気持ちをお伝えしたいと思います」
私の言葉に、クロード様は一度大きく目を開くと、覚悟を決めた様子で頷く。
それを了解の合図と受け取り、私は言葉を続ける――。
「クロード様に、一つ提案させていただきたい事があるのです」
「提案……?」
「はい。――良ければわたくしと、もう一度婚約関係に戻りませんか?」
私は躊躇なく、一晩考えた結論をはっきりとお伝えする。
昨晩クロード様は、私に対してお気持ちを伝えてくださった。
その思いに対して、私はしっかりと向き合いたいと思っている。
しかし、今の私達の現状はというと、周囲には秘密にしながらの婚約解消状態……。
故に、向き合おうにも向き合えない中途半端な状態なのである。
だから私は、まずは関係を元通りにすることからのスタートだと考えた。
今度は本当の婚約相手として、改めてお互いに向き合うべきだと思ったから――。
「しかし、それでいいのか? 婚約相手に戻るという事は、もう立場上逃れられなくなるのだぞ? ……俺は正直、メアリーを縛ってまで自分のものにしようとは思っていない、というか……」
クロード様のおっしゃる通りだ。
私が婚約相手に戻るという事は、再びどちらかが解消を申し出ない限りそのまま結婚する事となる。
でもそれは、クロード様の本意ではないのだろう。
きっとクロード様は、私が自由に選択できる状態のうえで、正々堂々と私と向き合おうとしてくれているのだ。
……でもそれは、私の意思でもない。
そんな形にばかり拘って、本当に大切にすべきものを見失っては本末転倒だと思うから。
それにどのみち、今の私達は中途半端な状態なのだ。
だから今更取り繕おうにも、私達にできる選択は二つしかないのである。
一つは、私達が婚約解消している事を公表すること。
そしてもう一つは、再び婚約関係に戻ること。
仮に前者を選んだ場合、私達は正式に婚約解消状態となるだろう。
そうなれば、私はきっと自由な状態になる事ができる。
でもそれは同時に、再びクロード様と向き合う事が困難になる事も意味する。
やっぱり元に戻りますだなんて、きっと周囲は許してくれないだろうから。
つまり婚約とは、本来それぐらい重たい契りなのだ。
だからこそ、私達が本当の意味で向き合おうと思うなら、取れる選択は最初から一つしかないのである。
頭のいいクロード様も、すぐにこの結論にも気付いたのだろう。
納得はせずとも、それしか選択肢がない事に悔しさを露にする。
だからこそ私は、そんなクロード様へ言葉を付け足す。
「クロード様は、何か勘違いをされているようです。私は今、私の気持ちをお伝えしたのですよ? つまり、それしか選択肢がないからではなく、私がそうしたいと思ったからそうしたのです。――もう一度クロード様と、今度は本物の婚約相手として向き合いたいと思っているから」
そう、これこそが私の意思――。
これまでの仮初の婚約相手ではなく、今度は本当の婚約相手としてお互いを理解し合う。
そのうえで、もしそれでも上手くいかないのであれば、その時こそ正式に婚約解消を公表すればいいのである。
「……なるほどな。そうだな、それしかないわけだ」
「そういう事です」
「分かった。――それから、ありがとう」
私の考えを理解してくださったうえで、クロード様は納得するように微笑んだ。
こうして私達は、再び婚約関係に戻る事となった。
けれど、戻ると言ってもゼロに戻ったわけではない。
だって、今度こそ私達は本当の意味で婚約相手となるのだから。
これまで色々とあったからこそ、今の私たちがある。
随分と遠回りはしてしまったけれど、そのおかげで今の私達があるのだ。
こうして私達は、再び婚約関係という元の鞘に収まるという形で、本当の意味で互いに向き合う約束を交わすのであった――。