一月一日。
今日からまた、一年が始まる。
例年であれば、今日ぐらいは家でゆっくりと過ごしているところだが、今年は城下町で開かれるお祭りへと向かうことになっている。
理由は、二学期も終了間近のこと。
廊下を歩いていると、偶然メアリーとフローラがこのお祭りへ遊びに行くという会話を耳にして、俺も首を突っ込んでその遊びに同伴させて貰うことになったのだ。
まぁ偶然とは言ったが、それは嘘になるかもしれない。
何故なら俺は、いつだってメアリーのことを目で追ってしまっているからだ。
だからあの時も、メアリーを見つけた俺は迷う事も無く近づいていったのである。
その理由なんて、今更言うまでもない。
俺がメアリーに、惹かれているからだ――。
俺は以前、魔法実技祭で優勝して気持ちを打ち明けようと思っていた。
けれどその計画は、先輩によって打ち砕かれてしまった。
自信はあったのだけれど、二位ではさすがに格好がつかないからと見送るしかなかった。
だから俺は、魔法実技祭の後もずっと機会を伺っていたのだ。
まずはメアリーと、二人きりになれるキッカケを――。
しかし、中々良いキッカケを作ることが出来ないでいた。
他の女の子であれば、俺がこんなにも悩む事も無かっただろう。
けれど相手がメアリーとなると、自分がこんなにも不器用になるとは自分でも思わなかった……。
そんな中、一緒にお祭りへ出かける約束を交わした今日は、俺に与えられた数少ないチャンスなのである。
だから今日こそは、必ず決める――。
そんな強い覚悟を抱きつつ、まずは一緒にお祭りを楽しむことに徹していたのであった。
そして、転機は訪れる。
ゲールとフローラがはぐれ、その結果図らずも俺はメアリーと二人きりになる事ができた。
これが多分、俺にとって最初で最後のチャンス。
そう思うのは、他でもないクロードの存在だ。
クロードは、間違いなくメアリーに惹かれている。
そして現状、メアリーの最も身近な存在もクロードだと言える。
しかし二人は、一度婚約破棄をしている関係。
故に、もうクロードは関係ないと思いたいところだが、残念ながら現実はそんなに簡単ではない。
俺が公爵家の人間なら、クロードは王家の人間。
故に互いの立場上、俺がメアリーに近づく事自体が本来はご法度と言える。
しかし、それ以前の問題もある。
婚約破棄をしてからの方が、二人は互いのことを意識し合っているのだ。
そう確信したのは、魔法実技祭の時のこと。
あの時二人には、確実に何かがあった。
だからきっと、このまま時が経つにつれて二人の距離はどんどん近づいていく事だろう。
そんな不安が、俺の中で日に日に大きく膨れ上がっていた。
俺にとってクロードは、昔から弟みたいな存在。
そんなクロードと俺が、まさか同じ女性に惹かれてしまうなんて思いもしなかった。
けれど、理屈ではないのだ。
どんな環境や状況であろうと、俺はきっとメアリーに惹かれてしまっていたと思うから――。
メアリーには、他の女性には無いものが沢山ある。
いつも自然体で、誰に対しても分け隔てなく接する真っすぐな性格。
それでいて、分かりやすい性格もしており、ちょっと抜けているところだって愛らしい。
容姿に優れている事だって、もちろん彼女の魅力の一つであると言えるのだが、それだけではない沢山の魅力が彼女の中には詰まっているのだ。
だから俺は、無自覚にもメアリーを求めてしまっていた。
傍にいるだけで、また何か新しい表情を見せてくれるのではないか。
そんな期待を抱き続けてしまう程、俺はもう夢中にさせられてしまっているのである。
そして今日、俺はメアリーと二人きりになれた。
きっとメアリー自身は、自分の魅力の自覚なんてしていないだろうし、そんな無自覚なところもメアリーの魅力だと思っていた。
……しかし、今目の前にいるメアリーはそうではなかった。
これから俺に、何を言われるのかを分かっているのだろう。
そのうえで、メアリーは真っすぐ俺のことを見つめ返してきているのである。
その変化を前に、俺は察してしまう。
もうメアリーは、以前のメアリーではなくなっているということを――。
そして無駄に察しの良い俺は、それが何を意味するのか分かってしまう。
けれど、それでも言いたかった。
どんな結末が待っていようと、ここで一歩踏み出さない限り俺自身が先へは進めないと思うから――。
だから俺は、こんな自分にしっかりと向き合ってくれている事に対する感謝の気持ちとともに、メアリーへ想いを告げるのであった――。