「……すまない、クロード。まさか、こんな事になるなんてな……。お前には、あの日あった事を全て話そうと思ってな」
別室へ移動すると、キースはそう前置きして語りだす。
しかしその表情には、少し影が落ちているように見えるのはきっと気のせいではないだろう……。
つまりあの日、キースとメアリーとの間で何かがあった。
でもそれが、今回の件の原因に関係しているのかどうかは分からない。
それでもキースは、これから何か大切な事を話そうとしているのだろう。
そして、こうして改めて話を切り出してくる以上、それはきっと俺にも関係している。
だから俺は、これからキースが何を話そうとしているのかは分からないが、全てを聞き届けるという覚悟を固める。
そしてキースは、少し躊躇うような表情を見せたあと、覚悟を決めるように口を開いた――。
「……あの日俺は、メアリーに告白をしたんだ」
「告、白……?」
「ああ、そうだ。俺はずっと、メアリーに惹かれていたんだ」
キースの言葉を受けて、胸がキュっと締め付けられる。
俺はきっと、焦りを感じているのだ……。
俺にとって、メアリーが幼馴染ならキースは兄のような存在。
だからキースがどんな人間かは、他でもない俺自身が一番よく分かっている。
故に俺は、キースが自分のライバルである事に恐怖してしまっているのだ。
もしかしたらメアリーは、自分ではなくキースを選んでしまうのではないかという恐怖を……。
だからその先の話は、今はまだ聞きたくない。
今すぐこの場から、立ち去ってしまいたい。
そんな弱音が、心の内を侵食していく……。
――でも、逃げている場合ではない。
俺はもう、メアリーと向き合うと決めたのだ。
キースの口から何を告げられようと、俺はそれを全て受け止めなければならない。
そんな覚悟とともに、キースの言葉を待った。
そして――、
「……まぁ告白をした結果、しっかりとフラれちまったんだがな」
苦笑いを浮かべながら、結果を口にするキース。
そんなキースを前に、俺は何て声をかければ良いのか分からなかった。
ここで嘘を付く必要もないため、今言った事は恐らく事実なのだろう……。
何故断ったのかは、メアリー本人にしか分からない。
それでも、キースの言葉に安堵している自分がいた。
「まぁ、こんな時にする話でもなかったのは承知のうえだが、クロードにはちゃんと伝えておこうと思ってな。……だってお前も、メアリーのことが好きなんだろ?」
「……ああ、そうだ」
しっかりと打ち明けてくれたキースに、俺も真っすぐ答える。
まさかお互い同じ相手に恋をする事になるとは思わなかったが、それだけメアリーは魅力的な存在なのだから仕方ない。
「しかし、まさか人の婚約相手に告白するとは思わなかったな」
「“元”婚約相手、だろ?」
「違うな、“元“元婚約者だ」
「一緒だろ」
「全然違うな」
「ははは、なんだよそれ」
可笑しそうに笑うキースにつられて、気付けば俺も一緒に笑っていた。
メアリーが気を失ってから、こんな風に笑うのは初めてのこと。
思えば俺は、今日までずっと気を張っていた事に気付かされる。
だから理由はどうあれ、キースのおかげで張りつめていた心が少し軽くなった。
「まぁそういうわけで、俺は告ってフラれておしまい。その日はそのまま帰ったから、その後の事は本当に何も知らないんだ」
「ああ、分かっている」
「……大丈夫だ、メアリーはきっと目を覚ますさ」
「そうだな……」
キースだって、まだ色々と整理が付いていないに違いない。
それでも、こうしてここへ駆けつけてくれて、挙句打ち明けなくても良い事まで知らせて励ましてくれているのだ。
だからこそ俺も、もうこれ以上くよくよなどしてはいられない。
しかし、そう気持ちを改めたその時だった――。
「クロード様!!」
勢いよく扉が開けられると、部屋へ駆け込んできたのはフローラだった。
随分と慌てている様子で、俺の姿を見つけると言葉を続ける。
「良かった、いた!!」
「どうしたっ!?」
「メアリー様が!! メアリー様が、目を覚ましました!!」
メアリーが、目を……!?
フローラの報告を受けた俺は、急いでメアリーの寝室へと駆けだすのであった。