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第34話 オウマ王国の使者 〜帝国側〜

「第一王女殿下の成人祝いパーティで、アーベル殿下の番を見つけ、新たな神子であるコトハ嬢の紹介もする、か……」

「ええ。もし可能であれば、その時に王女殿下へ番の儀式を行なっていただきたいと思っております」

「それであれば、問題はないと思いますが……王女殿下のパーティが茶番のような形になってしまうのでは?」

「王女殿下はそれを楽しみにされる方ですので」


 カルサダニア側との話し合いが終わった後。イーサンたちは応接間を借りてラウレンツと話し合いをしていた。話の流れをコトハが聞いた限り――。


 控室でアーベル殿下へ番の儀式を執り行う。

 会場へと向かい、入場。

 ここでコトハの紹介を行い、アーベル殿下と王女殿下の儀式をする。

 そして舞踏会へ。


 そんな流れらしい。

 ちなみにもしアーベル殿下の一度目の儀式で番の名前が判明しなかった場合は、番は貴族ではないと判断し、会場での儀式は王女殿下のみとするそうだ。詳細はまた教えてくれるそうな。

 「ご協力いただけますでしょうか」とラウレンツがイーサンに頭を下げると、彼がチラリとコトハを一瞥する。自分の返事を確認したいのだろうと判断したコトハは、イーサンに向けてひとつ頷いた。


「我々が力になるようでしたら」

「ありがとうございます」


 という話を経て、コトハは協力する事となった。ちなみにその会談の二日後にファーディナントからも返事が届いたが、「協力するように」と書かれていたので、コトハたちがオウマ王国へ向かうのは確定となった。


 ラウレンツが去った後、イーサンたちは話し合っていた。ラウレンツの話によれば、オウマ国王陛下から竜化して飛行での移動が許可されているらしく、あちらへは竜化状態で移動すれば、二日で問題なく辿り着くとの事だ。

 イーサンたち全員でオウマ王国に向かう予定ではあるが、そんな時にレノがこう声を上げたのである。


「あたしは舞踏会に参加するのは勘弁してほしいさね。メインはお嬢ちゃんだけだろう? バーサと共に控室で侍女として待たせてもらおうかね」

「おや、レノ様。盛大な茶番をこの目で見なくてもよろしいのですか?」

「ニック……あたしはそんなに野次馬根性はないからねぇ」

「そうでしたか、失礼いたしました」


 レノとニックの間で軽口が飛び交っている中、イーサンは話し出す。


「では、舞踏会自体に参加するのは俺、コトハ嬢、ブラッド殿。デイヴ殿も宰相補佐として参加してもらおう。後はニックとマリさん、ヘイデリクだが……」

「護衛ならイーサンがいる。可能であれば、俺たちも控え室で待たせてもらいたい」


 どうやらヘイデリクやマリもこのような場は苦手なようだ。レノの護衛という形で控室に留まる事になった。それを聞いて手を上げたのはニックだ。


「でしたら、私は参加しましょう。女性のあしらいは任せていただきたい」

「確かに、嬢ちゃんとイーサン様はペアで参加するとなると、一人女性慣れしている者がいた方がいいさね。ブラッドは今回教会側として参加する事になるから、裏方のようなものだろうし、デイヴは挨拶回りかい?」

「ええ。パウル様より指示を戴いています」

「ならそのように」


 当日の立ち位置が決まり、概ね希望通りになったと胸を撫で下ろす。そんな時、ふとコトハはレノの言葉を思い出した。


 ――嬢ちゃんとイーサン様はペアで参加する。


「……あの、レノ様。舞踏会とはどんなものでしょう?」


 コトハの故郷に似たような催しはあっただろうか……と頭を巡らせて思い出すのは、年に一度の祭りである。その時に巫女姫として舞を踊った事はある。何となくではあるが、それとは違うだろうと思ったコトハはレノへと尋ねた。


「ああ、舞踏会というのは踊りや食事を楽しむ会さね。流れを簡単に言えば……参加者全員が着飾って、食事を軽くした後に楽団の奏でる音楽に合わせて踊りを踊るさね」

「そうそう。参加する際は、男女でペアになって参加するの。例えば、既婚者は夫婦で参加するし、婚約者がいれば婚約者と参加をするの。だから踊りも男女ペアで踊るのが一般的よ」

「そうなのですか」


 やはり故郷であった祭り、とは違う類のものらしい。


「そっか、コトハさんの故郷では舞踏会がなかったのね」

「マリさんの国ではあったのですか?」

「ええ。私の元いた世界にも舞踏会はあったけれど……参加していたのは上流階級と呼ばれる方々だけだったわね。私自身は参加した事はないわ。今回の舞踏会と同じね」


 今回の舞踏会、というものは、 オウマ王国の貴族と呼ばれる階級の者たちが一堂に集まる催しだ。故郷で言えば、長老を筆頭に役職を持つ者たちの家族が集まって、会を開くようなものなのだろう、と考えれば何となく理解できた。


「ちなみに服装はどのようなものなのでしょうか?」


 と尋ねれば、それに答えたのはブラッドだった。


「神子様は基本教会から支給されるローブが正装となるのですが、今回は舞踏会ということもありますので、ドレスの上にローブを羽織る形で良いかと。ローブはこちらで用意しておきますので、ご安心ください」

「ありがとうございます」


 後は任せてしまっても問題なさそうだと判断したコトハ。ブラッドにお礼を告げた後に、レノから声が掛かった。


「ちなみにお嬢ちゃんはダンスを踊った事があるのかい? ……いや、なさそうだね」


 レノの言葉に思い切り首を振るコトハ。二人で踊るダンスなど、初めて聞いたくらいだ。


「なら、踊りを教わった方が良いかもしれないねぇ……オウマ王国に行くまではこちらで滞在させてもらうのなら、時間が空いているはずさ。簡単なワルツだけでも習っておいたらいいさ」

「それは良いかと。帝国でも節目で舞踏会に参加する事もありますからね」

「では、ヘクター殿に部屋を貸してもらえるよう手配しよう。講師は……」

「イーサン様、恐れ入ります。ワルツでしたら私が指導できますし、マリ様は男性パートが踊れると伺っております。部屋のみ手配していただくのは如何でしょうか?」

「では、それで行こう」


 どのようなダンスなのか、思いを馳せているコトハは気づいていない。当日のダンスの相手がイーサンである事に。

 その事に気づいて頬を染める事になるのだが、それはもう少し後の話。

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