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第98話 終幕

 祭りを終えた後、コトハたちは宝玉で本当に穢れが浄化できるか確認を行っていた。

 宝玉はズオウの母であるキッカに託され、彼女が宝玉の管理者となる。彼女が宝玉の管理者になったのは、長老代理の母である事も勿論だが、実は彼女もアカネと同様、穢れが見えているらしい。

 祭りにより浄化の力が溜まった宝玉は、ほんのりと光を纏っていた。丁度その時、の集落で穢れが発生しているとアカネから聞いたため、キッカは宝玉を利用して浄化を行ったのである。

 周囲が見守る中、キッカが宝玉に祈りを捧げる。周囲の観客たちもキッカと共に祈りを捧げると、宝玉が光るのと同時に水面も光り輝いた。コトハが浄化した時と同じような現象が起きたのだ。

 その瞬間、周囲の者たちの喜びようと言ったら……やはりズオウの言葉があっても、半信半疑だったのだろう。実際浄化されたところを見た村人たちは水面が光ったのを見て、「浄化されている」と実感したようだった。


 それから数日後。

 コトハたちはの集落の近くにある転移陣を訪れていた。以前とは違い、見送りに来た五ッ村の者たちは満面の笑みでコトハたちを見ている。正直言えば、村の行末が心配だ。けれども、長老となったズオウとキッカ、そして年寄衆であり長老の右腕になったセイキもいる。きっと彼らが村を良くしてくれるだろう、コトハは彼らに村の未来を託した。


 コトハとイーサン、マリとヘイデリク、アカネとジェフの六人が転移陣の上に立つ。


「皆様、村を助けていただき、ありがとうございました。皆様のお力添えにより、村は救われました……ここに感謝の意を」


 キッカの言葉に全員が頭を下げる。手前にいたズオウが顔を上げた後、イーサンは困惑した表情を隠す事なく告げた。


「ズオウ殿、本当にいいのか?」


 イーサンが訊ねているのは、コトハについてではない。ヘイデリクとジェフが持っている本についてだった。この本は呪術について書かれている本である……しかも禁術についての、だ。

 ズオウは禁術について書かれている本を処分する事に決めた。どう処分をするか考えていた時に、興味深く読んでいたマリを見てズオウは閃いたのだ。帝国に戻る面々へ託す事を。


「ああ、構わない。お前たちであれば、悪用する事もないだろうからな」

「あら、信用してくれているのね?」


 マリが少し揶揄うように言えば、ズオウは肩を竦めた。


「元巫女姫である彼女が信頼している者たちだ。それだけで信用に値する。それに……村を救ってくれたからな」


 マリたちは彼の言葉に微笑んだ。ズオウはぶっきらぼうに答えているが、これが彼にとって最上の褒め言葉だという事を理解したからだ。生温かい視線を送られている事に気づいたズオウは、照れを隠すかのようにコトハへ顔を向けた。


「今までのお役目、ご苦労様でした。こちらの事は我々に任せて下さい」

「……ありがとうございます、長老様」

「あなたの人生に……幸多からんことを願っております」

「私も、五ッ村の繁栄を祈っております」


 わだかまりが無くなったであろう二人は、満足そうに微笑み合う。二人のやり取りを見ていたイーサンが、コトハに話しかけた。


「では、戻ろうか」

「はい、戻りましょう。帝国へ!」

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