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第23話 騎士団長

「最近、事業がうまく行ってなくて大変らしいぞ?俺がカロンと結婚する代わりに援助してやると言ったら喜んでお前を俺にくれるってさ」

「そんな……!私は施設に預けられてあの夫妻とはそもそも何も関係ありません!全く連絡だって取っていないのに!」

「ああ、でも俺と結婚するとなると身分は必要だろう。だからあの夫妻の家にお前が入るように手続きしてもらうことになった。数週間はかかるらしいが、それが終われば晴れてお前は俺のものだよ、カロン」

「そんな……!」


 カロンはジェダの言葉を聞いて絶句する。この男はどこまで身勝手なのだろう。それに、自分たちの事業が傾いているからといって、断りもなく勝手に話を進めている親戚夫婦も信じられない。震える両手を握り締めカロンはジェダを精一杯睨みつけた。


「勝手なことしないで!あなたに私の人生を左右される筋合いはないわ!」

「カロンは成人している。いくら親戚とはいえ、本人の同意もなく身分の変更はこの国ではできないはずだ」


 震えるカロンの体を優しく両手で支え、ユースも加勢に入ってくる。だが、ジェダは胸の前で腕を組んでふん、と鼻で笑った。


「それがなんだ?俺にはそんなこと関係がない。俺の親父は国の中枢で働いている。親父に言えばできないことなんて何もないんだよ!」

「貴様……それでも本当に騎士か」


 ユースが心の底から軽蔑するような声でそう言い、ジェダを睨みつける。


「悔しいか?お前は育ちも悪く、騎士でもない。家柄もなく身分も低いお前なんかが、カロンを幸せにできるとでも思ってるのか?お前みたいな男より、全てを持っている俺の方がカロンに相応しいだろうが!ざまあないな、お前はそうやって底辺を這いつくばって指咥えて悔しがっているのがお似合いだ」


 はははは!とジェダが心底嬉しそうに笑う。


(この人、どこまで最低なの?人をそうやって家柄や身分だけで馬鹿にして、自分の家柄にのさばってるだけで自分は何もできていないくせに……!ユースさんの方が実力もあって人柄も素敵な人なのに何なのよ!)


 カロンはショックを通り越して怒りが沸々とわいてくる。その怒りのまま抗議しようと口を開いたその時。


「ふざけるな!この用心棒さんはどんな時だってカロンちゃんを守ってくれているんだぞ!」

「そうだ!カロンちゃんのこともこの店のことも、クソみたいな客やお前みたいなクズ騎士からちゃんと守ってくれてる!この男こそカロンちゃんにふさわしいだろうが!」


 突然、周囲にいた常連客たちが騒ぎ出し、そうだそうだ!と他の常連客たちも騒ぎ始める。


「いいか、お前みたいな奴は俺たちが認めない!この店も、店主のカロンちゃんも、俺たちにとって大事な存在だ!お前みたいなクズに奪われてたまるか!」

「カロンちゃんみたいな優しくて頑張り屋な子はね、あんなみたいなクズじゃなくて、この用心棒さんみたいな誠実な男と一緒になった方が幸せなんだよ!さっさと諦めて帰りな!」


 カロンの常連客たちだけでなく、騒ぎを聞きつけた近くの商店の女性店主や女性店員たちまで集まってきて、カロンとユースを擁護している。


(みなさん……!)


 周囲を見渡して、カロンは嬉しさと驚きのあまり、両目に涙をいっぱい浮かべている。そして、その光景を見ながら、ユースもまた目を見開いて驚いていた。


「貴様ら……!俺に逆らってただで済むと思うなよ!お前ら全員この街で生きていけなくしてやる!店は潰すし家も全部没収してやるからな!」

「それは無理だな」


 ジェダが額に青筋を立てて捲し上げた次の瞬間、どこからともなく別の声がした。その場にいた全員が一斉に声のする方へ視線を向ける。そこには、ジェダと同じ騎士団の制服を着た男性がいる。赤みががかった短い茶髪に、がっしりとした体格で、後方に二人騎士を連れていた。

 ユースはその男の姿を見て一瞬目を見張る。その男もユースの姿を見て、ほんの一瞬だけフッと口角を上げるが、すぐに真顔でジェダを見る。


「ヴァン騎士団長……!どうしてここに!?」

「騎士の一人が魔鉱石店の前で騒ぎを起こしていると通報があった。やはりお前か」

「こ、これは俺とこの店主の痴話喧嘩みたいなものですよ。団長には関係ありません。な、カロン」


 ジェダが慌ててカロンにそう言うが、カロンはキッと厳しい視線を向けたままだ。ジェダはチッ、と舌打ちをしてヴァンを見る。


「とにかく、団長がわざわざ来るほどのことではありません。お引き取りください。さもなくば、父上に、団長が俺の邪魔をしてくると一言報告しますが」


 ジェダが口の端を上げてニヤリと笑う。


(この人、騎士団長にまで圧力をかけているの!?最低すぎる!だから今までも身勝手なことばかりしてこれたのね)


 カロンは唖然としてジェダを見つめ、ユースは冷ややかな視線をジェダに向けた。


「したければすればいい。今までの騎士団長はそれで黙らせることができたかもしれないが、俺は違う。それに、その頼みの綱の父親はもう頼れないぞ」


 表情の読めない顔で、ヴァンはジェダへ言った。

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