「どう、して」
目を大きく見開いて絶句するカロンの目の前には、騎士服に身を包んだユースがいた。
(どうして?なんでユースさんがいるの?え?夢?っていうか待って、ユースさん、騎士服着てる!な、かっこいい……!ってそんなこと思ってる場合じゃなくて、ああでもかっこいい!)
目の前の状況にカロンは頭が追いつかない。口をぽかんと開けてただただ驚いた顔でユースを見上げるカロンを、ユースは真顔で見下ろしていた。
「あ、の?え?」
(落ち着け、一旦落ち着こう。うん、落ち着こう、私)
カロンはゆっくりと後退りながら、握ったままのドアノブをそっと引いて、店内に入ろうとした。
ガッ!
(ひいっ!)
閉めようとしたドアに手がかかり、ユースがドアの横から顔を覗かせる。
「なぜ閉めようとするんだ?」
「い!?いえっ?あの?えっと、ちょっと状況が、飲み込めないと言いますか」
あっけなくドアが開かれ、カロンはまた店の前に姿をあらわすことになった。
(ダメだ、よくわかんないけどこのままはダメだ。ちゃんとユースさんに聞かないと)
意を決してカロンは尋ねる。
「あの、ユースさん、どうしてここに?」
「サインズから、今日君が採掘へ出かけると聞いたから来た。俺も一緒に行く」
さも当然という顔をして答えるユースを、カロンはぱちぱちと瞬きして見つめる。
(ん?一緒に行く?)
「……えっと、騎士に、なられたんですよね?騎士のお仕事があるのでは?」
「騎士にはなったが、王都専属ではなく、自由に行動できるよう騎士団長に交渉した。いわば遍歴騎士のようなものだ」
「えっ……えっ!?そんなことできるんですか?」
「前例がないから手続きに時間がかかってしまったが、ちゃんと認められた。俺を騎士に戻したいなら自由に動けることが条件だと言ったら、騎士団長が各方面に掛け合ってくれた。もちろん、重要な任務の際には任務に赴く」
最初は当然騎士団内でもそんなことは認められないと拒否されたが、ユースの騎士としての実力を知ってほしいと願う騎士団長の提案で、とある任務へ行かされる。
それは騎士団が苦戦していた魔獣の討伐だったが、ユースがその魔獣をあっさりと討伐すると、手のひらを返したようにユースの待遇は認められたという。
(そこまでして騎士団長さんはユースさんに騎士として戻ってきてほしかったんだ。てゆーか、やっぱりユースさんってすごい人だったんだ)
カロンは話を聞いて、ほうっと感銘のため息をついた。
「そういうわけで、俺は今まで通りカロンの採掘に同行できる。店に常駐することはさすがにできないが、月に何日かは店にもいることはできる」
「そ、そんなにしてもらって良いんですか?」
いくら自由な行動が認められたとは言え、騎士ということには変わりがない。何より、話の展開が急すぎてカロンはまだ戸惑っていた。
「この店を中心に、周辺の見回りや取締も兼ねることになった。だから、俺に遠慮することはない」
「そうなんですね……!」
これからもユースが店に来てくれる。もう二度と会えないかもしれないと思っていたのに、こんな奇跡のようなことがあっていいのだろうか。
嬉しさと戸惑いが入り混じって、カロンはどう反応していいかわからない。そんなカロンを見て、ユースは眉を下げた。
「俺の勝手な思いでこうなったけれど、カロンにとっては迷惑だったか?」
「そんなっ!迷惑なんかじゃないです!むしろ嬉しくて、でも本当にいいのかなって、なんかあまりに突然で……」
バッ!とユースを見上げて、そこまで言ってからカロンは言葉を失い、顔を赤らめる。見上げたユースの表情は、あまりにも美しく優しい微笑みで一気に心臓が跳ね上がった。
「それならよかった」
そう言って、ユースはさらに微笑む。
(ん、な、そんな笑顔、反則ですって!!)
ああああ、とカロンは両手で顔を覆い、ユースはそんなカロンを優しく見つめていた。