カロンがユースと付き合うことになって数週間が経った。
カランカラン
「いらっしゃいませ!」
「よう、カロンちゃん!ユースもいつもご苦労様」
店に来た客が、カロンとユースに挨拶をする。ユースはすっかり店の常連客たちの顔馴染みになっていた。客の挨拶に、ユースは少し微笑んで会釈をする。
「それにしても、用心棒の兄ちゃんがいつの間にか騎士になって、この街を守ってくれてるんだからびっくりだよな。この店も安泰だし、カロンちゃんも良い男を捕まえたもんだ!」
(なっ!その言い方!)
思わずカロンが赤面すると、ユースはそんなカロンを見てフッと微笑む。そしてそんなユースを見て、カロンはさらに顔を赤くした。
「最近、隣街で窃盗が起こってるらしいんだが、ついにこの街の店でも一件被害が出たそうなんだよ。ここも気をつけた方がいいぞ」
「窃盗、ですか?」
「ああ、夜中に店に忍び込んで、店のものを盗んでいくらしい。店は魔道具や魔鉱石屋が主に狙われてるらしいから、マジで気をつけてくれよ。まあ、ユースがいるから大丈夫だろうけど」
「そうなんですか……」
カロンが不安げに客に言うと、ユースはカロンと客を見て静かに口を開く。
「騎士団でも街の巡回を強化するそうだ。なるべく早く捕まえられるよう尽力する」
「ああ、そうしてくれ。どこかに窃盗犯が隠れてるかもしれないと思うと気持ち悪くて仕方がねぇからな」
(窃盗犯がこの街に……。この街で魔鉱石屋はここだけだし、珍しい鉱石花もここにはあるから、気をつけないと。でも、その前にちゃんと接客しなくちゃ)
不安そうな表情から一転して、カロンは笑顔を客に向ける。
「心配してくださってありがとうございます。くれぐれも気をつけますね。それで、今日はどんな魔鉱石をお探しですか?」
「ああ、そうだな、あの……」
カロンが客と品物の話をしているのを、ユースは真剣な表情で見つめていた。
「ありがとうございました!」
カランカラン、とドアのベルが鳴って、客が帰っていく。カロンは笑顔で見送ってから、ふうっと小さく息を吐いた。
「お疲れ様」
「ありがとうございます。お客様の目的の品があってよかったです」
えへへ、とカロンはユースに笑顔を向ける。この店に来る客が求める魔鉱石は、他では手に入らない鉱石花の場合も多い。目的の品を手にした時の客の嬉しそうな顔を見れるのが、カロンは嬉しくてたまらない。
そんな嬉しそうなカロンをみて、ユースも嬉しそうに微笑んだ。
「そういえばカロン、さっきの客も言っていたが、この街にも窃盗犯が現れたようだ。確か、カロンはこの店の二階に住んでいるんだよな?」
真剣な顔でユースが言うと、カロンは少し困ったような顔で頷く。
「きちんと施錠をしているとはいえ、窃盗犯はどこから入ってくるかわからない。カロン一人だけなのは心配だ。それで、今日から俺もここに寝泊まりさせてもらうことはできないだろうか?」
「……えっ!?」
(今、なんて言ったの?ユースさん、ここに寝泊まりするって言った?)
カロンが目を丸くしてユースを見つめると、ユースは真剣な顔でカロンを見つめ返す。
「もしもカロンが一人の時に窃盗犯が来たら、カロンは危ない目に遭うかもしれない。そうならないためにも、俺がここに一緒にいるべきだと思う。騎士団には許可もとってあるし、団長もそうした方がいいと言っていた。あとはカロンがいいと言ってくれるかどうかだ」
「そ、れは……ユースさんがいてくれるなら安心ですけど」
だが、ユースが泊まりに来ると言うことは、夜も二人っきりになると言うことだ。突然すぎてカロンは戸惑いを隠せない。
「なら決まりだ。店を閉める前に、俺は必要な荷物を取ってくる」
戸惑うカロンをよそに、ユースはニッと口角を上げて力強く頷いた。