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第34話 困惑

 風呂場でユースはシャワーを浴びながら目を瞑り、カロンから言われた言葉を思い出していた。


(俺にされて嫌なことはないなんて、しかもあんなはっきりと言われてしまったら俺は……)



 首を大きくぶるぶると振ると、ユースの長い髪から水がはねる。シャワーを止めて湯船に入ると、ユースは背をもたれかけて天を仰いだ。


 本来はカロンに先に風呂に入ってもらうべきだと思ったが、自分がカロンの後に入った場合、直前にカロンが入っていたのだと思った途端におかしくなりそうだと思って先に入らせてもらったのだ。元に、普段この風呂場をカロンが使っているのだと思っただけで体も心も一気に熱を帯びてしまう。


(俺は一体何を考えているんだ……)


 異性に対して感じたことのない自分の変化に、全く追いつけない。長居するとどうにかなってしまいそうだと、ユースは大きくため息をついて早々に風呂から上がった。





(あ、ユースさん上がってきた)



 ダイニングルームに戻ってきたユースを見て、カロンは顔を赤くする。湯上がりのユースはいつも以上に色気を纏っているように見えて、カロンは動揺して視線を逸らした。


(いつも結んでいる髪の毛はおりてるし、すごくラフな格好だし、……温泉に行った時にも見た光景だけど、やっぱり慣れない!イケメンの破壊力すごい!どうしよう!?)


「カロン、ありがとう。いい湯だった」

「あ、いえ、それならよかったです!わ、私もちゃっちゃと入ってきちゃいますね!あ、冷たい飲み物とか冷蔵庫に入ってるので好きなもの飲んでください。それでは!」


 カロンは慌てて笑顔を作りそういうと、そそくさとその場から退散していく。その後ろ姿を見ながら、ユースはほんの少し困ったような顔をして小さくため息をついた。





(いやあああ無理!ユースさんカッコ良すぎて無理!しかも、さっきまでここにユースさん入ってたってことでしょう!?無理!どうしよう!?)


 お風呂場でカロンは激しく動揺していた。


(私、すごく変態みたいな思考してない?でも、ユースさんがカッコ良すぎるんだもん、仕方ないじゃん!……って、ユースさんと私って付き合ってるんだよね?両思いなんだよね?本当に?私、こんなでユースさんの彼女なんて務まるのかな)


 ううう、と湯船に浸かりながらカロンは項垂れる。いちいち心臓が激しく動いて仕方がない。ユースに告白される前までユースとちゃんと会話できていたはずなのに、今はユースの顔を見るのでさえもままならない。一体、今までどうやって会話をしていたのだろうかと自分で自分に問いたくなる。


(変に緊張しちゃうの良くないよね。ユースさんだって困るだろうし……。何より、今は窃盗犯を捕まえることが一番大事だもの)


 そのためにユースは泊まりにきてくれているのだ。何を浮かれているのだ、とカロンは両頬をパチン!と両手で叩いた。





「お帰り」

「あ、上がりました」


 カロンがダイニングルームに戻ってくると、ユースは椅子に座ってカロンに微笑みを向けた。


(うっ、ユースさんの微笑みの破壊力!)


 カロンは胸がドクンと高鳴るのを抑えながら、ユースに微笑み返した。


「俺は一階で寝る。何かあれば大声で呼んでくれ」

「えっ、空いている部屋ありますよ?」

「窃盗犯が狙ってるのは魔鉱石や鉱石花だ。どこから侵入してくるかはわからないが、すぐに捕まえることができるようにしたい。寝袋を持参したから大丈夫だ」


 真剣な顔のユースに、カロンは胸がギュッと締め付けられる。


「わかりました、もし何か必要なものがあればなんでも言ってくださいね」


 カロンが言うと、ユースは静かに微笑んで頷いた。





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