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第35話 捕獲

 夜中になり、店内は静寂に包まれる。ユースは一階で寝袋に入って寝ていた。寝ている、と言っても完全に寝ているわけではなく、窃盗犯がいつ現れてもいいように意識ははっきりとしている。


 カロンもすぐに寝付けるわけではなく、布団の中で寝返りを繰り返していた。いつもはなんとも思わない家の中の静けさも、今はなんとなく不安をかき立てる。


(大丈夫だよね、ユースさんもいてくれるし。でも、ユースさんの身に危険なことが起こるのは嫌だな。何も起こらないといいんだけど)


 ユースは強い。騎士団長が認めるだけの実力を持っているのだから大丈夫だ。分かってはいるのに、それでもカロンはやっぱり不安になってしまう。店のことだけではなく、ユース自身のことも心配で仕方がないのだ。


(……気分転換に何か飲み物でも飲んでこようかな)


 カロンは起き上がるとベッドからおりて部屋を出る。ダイニングルームへ向かおうとしたその時、ふと廊下の奥から物音が聞こえた。


(?ユースさんかな)


 定期的に家の中を見回ると言っていたので、ユースだろうかと音のする方へ歩こうとしたその時。


(!?)


 背後から手が伸びて、カロンの口元を塞ぐ。そのままカロンは近くの部屋に引き摺り込まれた。


「静かに。俺だ、驚かせてすまない」


 カロンの口元に手を置いたまま、ユースが小声で背後から耳元に囁く。


(ユースさん!)


「侵入者がいるようだ。カロンはここでじっとしていてくれ。すぐに捕まえてくる」


 カロンは目を見開いて小さく頷くと、ユースは微笑んでからすぐに真剣な顔になり、そっと部屋から出ていく。少し経ってからガタガタと物音がしてすぐにそれは止んだ。



「カロン、他にいないか確認してくる、まだそこから出ないでくれ」

「わ、わかりました」


 ドアの外から聞こえるユースの声にカロンが返事をすると、ユースの気配が遠ざかる。


(本当に、うちに侵入者が来たんだ。やっぱり窃盗犯なのかな)


 カロンはいつの間にか小さく震えている。震える両手を胸の前でギュッと握り締めると、ユースが無事であるように、早く戻って来ますようにと願った。



「カロン、もう大丈夫だ」


 少しして部屋のドアがゆっくりと開く。部屋の中にユースが入ってきて、カロンはホッとする。


「よかった、ユースさん無事だったんですね」

「ああ、他に侵入者はいなかった。外に見張がいたようだが、中の様子を察知して逃げたらしい。とりあえず中にいた二人は確保して縄で繋いでいる」


(二人も!?)


 カロンが驚いていると、ユースはカロンの震える手に気づいてカロンの手をそっと握りしめた。



「怖かっただろう、もう大丈夫だ」

「……っ!すみません、大丈夫です。あの、騎士団に連絡した方がいいですよね?」

「ああ、そうだな」

「魔導警報器があるので、それで騎士団に連絡します」


 カロンが慌ててそう言うと、ユースは躊躇いがちにカロンの手を離して小さく頷いた。




 カロンの通報で騎士団がすぐに駆けつけ、ユースが捕獲した窃盗犯は騎士団に連行されていった。ユースとカロンはその場で簡単な事情聴取を受けたが、詳しいことは後日改めてということになった。


「盗まれたものはなさそうですか?」

「はい、一通り確認しましたけど、全て無事のようです」

「それならよかった」


 騎士団員もユースも安堵したように目を合わせて頷く。その様子を見て、カロンもホッとして微笑み、お辞儀をした。


「ありがとうございました」

「いえ、我々は呼ばれて駆けつけただけです。ユース団員のおかげですよ」

「見張の人間はおそらく二人だ。逃げたがそう遠くまでは行っていないと思う」

「分かった、こちらで追おう。周辺の警戒も強くしておく。それでは」


 ユースにそう言うと、騎士団は店から出て行った。騎士団がいなくなると、店内は一気に静かになる。


「被害がなくて本当によかった」

「はい、ユースさんのおかげです!本当にありがとうございました」


 カロンが嬉しそうにそう言って微笑むと、ユースはカロンの顔を真剣な顔でじっと見つめている。


(ユースさん?)


 カロンが不思議そうな顔で見つめ返すと、ユースはカロンの肩にそっと手を伸ばし、引き寄せて抱きしめた。


「っ、ユースさん!?」

「まだ少し震えている。もう俺しかいない、大丈夫だ。怖かっただろう」




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