夜中になり、店内は静寂に包まれる。ユースは一階で寝袋に入って寝ていた。寝ている、と言っても完全に寝ているわけではなく、窃盗犯がいつ現れてもいいように意識ははっきりとしている。
カロンもすぐに寝付けるわけではなく、布団の中で寝返りを繰り返していた。いつもはなんとも思わない家の中の静けさも、今はなんとなく不安をかき立てる。
(大丈夫だよね、ユースさんもいてくれるし。でも、ユースさんの身に危険なことが起こるのは嫌だな。何も起こらないといいんだけど)
ユースは強い。騎士団長が認めるだけの実力を持っているのだから大丈夫だ。分かってはいるのに、それでもカロンはやっぱり不安になってしまう。店のことだけではなく、ユース自身のことも心配で仕方がないのだ。
(……気分転換に何か飲み物でも飲んでこようかな)
カロンは起き上がるとベッドからおりて部屋を出る。ダイニングルームへ向かおうとしたその時、ふと廊下の奥から物音が聞こえた。
(?ユースさんかな)
定期的に家の中を見回ると言っていたので、ユースだろうかと音のする方へ歩こうとしたその時。
(!?)
背後から手が伸びて、カロンの口元を塞ぐ。そのままカロンは近くの部屋に引き摺り込まれた。
「静かに。俺だ、驚かせてすまない」
カロンの口元に手を置いたまま、ユースが小声で背後から耳元に囁く。
(ユースさん!)
「侵入者がいるようだ。カロンはここでじっとしていてくれ。すぐに捕まえてくる」
カロンは目を見開いて小さく頷くと、ユースは微笑んでからすぐに真剣な顔になり、そっと部屋から出ていく。少し経ってからガタガタと物音がしてすぐにそれは止んだ。
「カロン、他にいないか確認してくる、まだそこから出ないでくれ」
「わ、わかりました」
ドアの外から聞こえるユースの声にカロンが返事をすると、ユースの気配が遠ざかる。
(本当に、うちに侵入者が来たんだ。やっぱり窃盗犯なのかな)
カロンはいつの間にか小さく震えている。震える両手を胸の前でギュッと握り締めると、ユースが無事であるように、早く戻って来ますようにと願った。
「カロン、もう大丈夫だ」
少しして部屋のドアがゆっくりと開く。部屋の中にユースが入ってきて、カロンはホッとする。
「よかった、ユースさん無事だったんですね」
「ああ、他に侵入者はいなかった。外に見張がいたようだが、中の様子を察知して逃げたらしい。とりあえず中にいた二人は確保して縄で繋いでいる」
(二人も!?)
カロンが驚いていると、ユースはカロンの震える手に気づいてカロンの手をそっと握りしめた。
「怖かっただろう、もう大丈夫だ」
「……っ!すみません、大丈夫です。あの、騎士団に連絡した方がいいですよね?」
「ああ、そうだな」
「魔導警報器があるので、それで騎士団に連絡します」
カロンが慌ててそう言うと、ユースは躊躇いがちにカロンの手を離して小さく頷いた。
カロンの通報で騎士団がすぐに駆けつけ、ユースが捕獲した窃盗犯は騎士団に連行されていった。ユースとカロンはその場で簡単な事情聴取を受けたが、詳しいことは後日改めてということになった。
「盗まれたものはなさそうですか?」
「はい、一通り確認しましたけど、全て無事のようです」
「それならよかった」
騎士団員もユースも安堵したように目を合わせて頷く。その様子を見て、カロンもホッとして微笑み、お辞儀をした。
「ありがとうございました」
「いえ、我々は呼ばれて駆けつけただけです。ユース団員のおかげですよ」
「見張の人間はおそらく二人だ。逃げたがそう遠くまでは行っていないと思う」
「分かった、こちらで追おう。周辺の警戒も強くしておく。それでは」
ユースにそう言うと、騎士団は店から出て行った。騎士団がいなくなると、店内は一気に静かになる。
「被害がなくて本当によかった」
「はい、ユースさんのおかげです!本当にありがとうございました」
カロンが嬉しそうにそう言って微笑むと、ユースはカロンの顔を真剣な顔でじっと見つめている。
(ユースさん?)
カロンが不思議そうな顔で見つめ返すと、ユースはカロンの肩にそっと手を伸ばし、引き寄せて抱きしめた。
「っ、ユースさん!?」
「まだ少し震えている。もう俺しかいない、大丈夫だ。怖かっただろう」