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第37話 大好きな気持ち

「どこにも行かないで、一緒に寝てほしいって言ったら、困りますか?」


 カロンの言葉に、ユースは大きく目を見開く。そのまま、何も言わずにカロンをただ見つめているだけだ。


(やっぱり、困らせちゃったな)


「ごめんなさい、今のは忘れてください。やっぱり大丈夫です」


 ふにゃりと微笑むカロンの顔は、笑っているのに悲しそうだ。そんなカロンの笑顔を見て、ユースはハッとして口を開いた。


「いや、こちらこそすまない。ちょっと驚いてしまっただけだ。困ったりなんかしない。むしろ、カロンがそれを望むなら俺はずっとここにいる」


 慌てているのだろう、珍しく早口なユースに、今度はカロンが驚く番だった。


(ユースさん、焦ってる?いつも落ち着いてるのに、なんだか珍しい)


 いつもと違う様子のユースに、カロンはなんだか嬉しくなった。


「でも、本当に良いのか?」


 ユースの質問に、カロンは小さく頷く。そして、体を少しずらして、自分の横にスペースを作った。


「狭いかもですけど……」



 ユースは一瞬だけ固まっていたが、すぐにカロンの横へ体を忍ばせた。そして、カロンを腕の中へそっと包みこむむ。


(ユースさん、やっぱりあったかいな。安心する、けど……)



 よく考えてみると、今ユースと同じベッドの中にいて、ユースに抱きしめられている。こんな状況になっているのも、カロンが一緒にいたい、一緒に寝たいと申し出たからだ。なんて大胆なことをしてしまったのだろうと今更ながらカロンは思う。


(ど、どうしよう、私、すごいこと言ってしまったのかもしれない!?)


 どんどん心臓が早くなり、顔も熱くなっていく。だが、今さらどうすることもできず、カロンはただただユースの胸元に顔を埋めるしかない。


「カロン、苦しくないか?」


 ユースがそう言って腕の力を弱め、カロンの顔を覗き込む。そして、目を見張った。


「!」


 ユースは絶句したままカロンを見つめている。ユースの瞳に映るのは、顔を真っ赤にして瞳を潤ませているカロンの煽情的な顔だ。思わずユースはカロンから体を離し、くるりと後ろを向く。


「ユースさん……?」

「すまない、そんな顔を見せられたら、どうしていいかわからなくなる」


 背中を向けたユースは表情が見えないが、伸びた髪の毛の隙間から見える耳は赤く染まっている。


(ユースさん、照れてるんだ)


 ユースの様子に、緊張していたカロンの心は少しだけほぐれる。そして、嬉しくなって思わずフフッと微笑んだ。


(緊張してるの、私だけじゃなかった)


 自分と同じように、ユースも緊張して照れてくれている。そのことがカロンは嬉しくて、ユースの背中にそっと寄り添った。カロンが触れた瞬間、ユースの背中がビクッと大きく揺れるが、すぐにおちついた。


「ユースさん、私、ユースさんに出会えて本当によかったです。初めは無口で何を考えているのかわかりにくかったですけど、それでもとても優しくて強くて、あたたかくて。私みたいな、貴族でもないおしとやかでもない令嬢らしくない人間を好きになってくれて、守りたいって思ってくれて、本当に嬉しいです。ユースさんと出会ったおかげで、いつもと同じはずの景色も違って見えて、すべてが新鮮でキラキラしてるんですよ。怖いことも、ユースさんと一緒なら乗り越えられるし、怖くないんです。本当に、ありがとうございます」


 ユースの服をほんの少しだけ掴んで、カロンは額をユースの背中にくっつける。


「ユースさんのこと、大好きです」




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