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六話 学園と学友と! ①

 ジェノベーゼン学園に短期入学するチマは、宿で学園の制服を身に纏っては姿見の前でくるりと回った。シェオが学園から受け取ってきて直ぐに、バラが尻尾通しを開けて、下着が見えないよう通し布を新設、その他にも夜眼族であるチマの為に様々調整されている。

「尻尾に違和感等は有りませんか?」

 腰部と臀部の間ほどから伸びる尻尾があるので、尻尾を通す為の穴を衣服に用意せずにスカートの内へ尻尾を流すと無意識で捲れてしまい、ズボンの内にいれると違和感が凄く、下衣の上から出そうとすると胴長短足に見えてしまう。

 なのでチマの衣服にはどれも尻尾を通す穴が開けられ、その穴から下着が見えてしまわないように隠す為の布が用意されているのだ。

「ええ、問題ないわ。仕事が早いわね」

「丸一日あれば恙無く終わらせることが出来ます」

「それじゃあ、私が学校へ行っている間に、流行りの衣装の購入をリンとビャスと一緒にお願いね」

「「はい!」」「は、はいっ!」

 学園へ同行する護衛は二名。基本をゼラかシェオ、そしてビャスとリンがどちらかと入れ替わりで入ることとなっている。チマの立場的に護衛が必要な身分ではあるのだが、学園的には武装者を必要以上に入れたくないとのことで、最大人数は二人という決定が下りた。

 これに不服を思うチマではなく問題ないと判断。然し押しかけは学園側が対処するという提案を学園側が呑む事で双方合意、正式にジェノベーゼン学園への一時入学が叶った。

「行ってくるわね!」

「行ってらっしゃいませ、お嬢様」「お気をつけて」「お帰りをお待ちしてますお嬢様」

 宿を出てシェオが準備していた蒸気自動車にゼラと共に乗り込んで、三人はジェノベーゼン学園へと向かう。


 駐車場から玄関口へと向かっていけば、多くの生徒とすれ違って彼是と噂が広がっていく。初日に現れた貴族や議会員たちと比べれば、遠巻きに眺めている程度の対応ということもあり、すんなりと校舎に入ることが出来た。

 NCU以南の中央系純人族が二人、護衛として張り付いている夜眼族。耳聡い者を除けば意味不明な組み合わせに噂が方々へ広がっていき、一部のドゥルッチェ王国へ理解のある生徒が王弟宰相の娘だと述べた事で、正体が爆速で判明していく。

 校舎へと入って教員室の場所を三人で確かめていると。

「うおぉ、夜眼族!?激マブじゃん!なあカリントって国から来たん?」

 明朗快活そうな男子生徒がチマを見つけては、大きく手を振って近寄ってくる。ゼラとシェオが警戒を露わにすれば、一応のこと必要以上に近寄ることはせず、やや離れた位置から会話を試みた。

「ドゥルッチェ王国から秋季休暇期間中、遊学に来ましたアゲセンベ公爵家のアゲセンベ・チマですわ」

 にこり、小さく笑みを浮かべて礼をすれば、男子生徒は輝かんばかりの満面の笑顔を咲かせた。

「俺はスパゲッテ・スパ・バキュー、この学園で一番イケてる男だぜ!」

 キリッとした表情を作るも、何処か大型犬っぽいスパゲッテがイケているとは思えずにいたのだが。

九刃星くじんせい候補の一人で、『勇者』を所有する方だったかと)

 ゼラがスパゲッテに対して知り得ている情報をチマに耳打ちする。

「何々、そっちの綺麗なお兄さんは俺のこと知ってる口?なははー、有名人で照れちゃうな。なんて伝えたかは分からないけど改めて自己紹介をさせてもらえれば、『勇者』と『槍聖』を所持するコインズ九刃星に最も近い大型新人とは、この俺スパゲッテ・スパ・バキューの事よ!」

「おー」

 演劇めいた、よく練習された動きにチマは拍手を贈ってから、「教員室の場所、教えてもらってもよろしいですか?」と案内を頼み歩き出す。


「綺麗なお兄さんかと思ったら、男装のお姉さんとは失礼しました!」

「。」

 気にする必要はない、と手振りで示している。

「というかチマさんが同い年っていうのも驚きだったぜ!てっきり超優秀で幼いながらも異国で学びを深めている、すっげー偉い女の子とばかり。あっいや、同い年でも長期休暇に他所の国で勉強するのは偉いけどよ!」

 照れ隠しか申し訳無さか、後頭部をガシガシと掻いているスバゲッテの眼は泳いでいた。

(やっば、失言とか無いよな…。そういや中央とか南方系は俺らより小柄な純人族が多いの忘れてたし、正直夜眼族と純人族の混血だなんて微塵も思わなかった。ドゥルッチェ、ドゥルッチェ王国っていったらコインズ基準でお隣じゃねえの)

「私的にはスパゲッテさんが年上に、三年生くらいに思えてましたし、お相子で収めましょうか」

「助かる!そうそう、同い年ってことなら同学年だし、わかんないこととかあったらバンバン尋ねてくれよな!それに畏また話し方も必要ないぜ!」

「そう、じゃあ気軽に話させてもらうわね。…ここが教員室みたいだから案内ありがとう、また会いましょ」

「どういたしまして」

 チマから差し出された手を、スパゲッテは一分の迷いもなく握り、勢いよく振っては満面の笑みを見せる。

(うん。大型犬ね)

 こうしてチマは学園に知己を得てから教員室の扉を叩く。

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