「マジマジ、激マブな夜眼族だったぜ…。小柄だけど俺達と同い年らしいから、こっちに編入してくるんじゃね?」
「へぇ~、噂になってた夜眼族ちゃん一年生なんだ」
「どんな感じだったん?」
「気品があって俺ら基準だとめちゃくちゃ可愛い、そんで髪と体毛がもう綺麗ですっごい気合い入れて手入れしてるんだなって理解できたな、うん」
「スパゲッテ基準かぁ、どんな子でも可愛いって言いそうなんだよな」
「まあでも遠目でも可愛かったくない?」
「わかる、めっちゃ可愛かった。うちの子にそっくりに見えた」
「…夜眼族に限らず西大陸の他種族って近い動物、猫とか犬とかとして扱われるの嫌いって聞くし、そういうの気をつけろよ」
「そうなの!?」
「詳しいじゃん、スパゲッテのくせに」
「ほら、俺の家さ港の近くだから、昔に
「へぇ~」
スパゲッテは教室で学友たちにチマの事を簡単に説明していた。
「カリントから遥々ねぇ…」
「いや、なんだか知らないがドゥルッチェ王国の出身なんだってよ」
「あの地味のドゥルッチェ?」
「
「そういう感じではなかったんだよな。何にせよ、自分で確かめるのが一番だぜ」
先に顔合わせを終わらせたスパゲッテは、自慢気に腕組みをしてわかった風に頷いた。
「ドゥルッチェ王国から一時入学という形で遊学にきましたアゲセンベ公爵の娘、アゲセンベ・チマと申します。外つ国ということで分からないこと、そして迷惑を掛けてしまうかもしれませんので、ご享受をいただければ幸いです」
「おーい、チマさんこっちこっち!へへっ、やっぱり一緒の学年だったな」
「また会ったわねスパゲッテ」
「スパゲッテの知り合いでしたか。ならば彼の隣へお掛けくださいアゲセンベの姫様」
「分かりました。皆さん、短い間ではありますが、これからよろしくお願いしますね」
かつかつと生徒たちの間を抜けていきスパゲッテの隣へ腰掛け、護衛の二人には教室の後方へ待機してもらう。
「勉強で分からないことあったら、何でも教えてやるから。気兼ねなく聞いてくれ」
「ありがと」
同い年で異性の友人を得たチマ、そして積極的に関わろうとするスパゲッテを眺めていたシェオは、もやもやとした心持ちで職務を全うする。
(嫉妬、ですね。公にできていないとはいえ、私は婚約者の地位にあるのだからどっしりと構えていないと。
悩み多きシェオは悶々と授業を聞き流しながら周囲の警戒を行う。
「へぇ、パスティーチェでは一年から蒸機学を学ぶのね」
「ドゥルッチェだと二年とか?」
「そうよ。そこの式、間違えているわよ」
「え、何処?」
「ここよここ、ここはね―――」
(…?チマさんが言うには蒸機学は二年からなのでは…?)
三年、というより学校での就学内容を全て家庭教師からの勉強で終えているチマは、易々と授業を理解していき、自身の程に対して然程学力の高くなかったスパゲッテへと勉強を教える側になっていた。
(とりあえずこのくらいの授業なら付いていける、…どころか退屈しそうね。NCUとかパスティーチェの歴史、文化辺りを密に学べれば良いのだけど、…個人学習じゃないし多少妥協は必要よね。…スキルが無くても得られる武器はある、諦めはしないけど力は付けないと)
貪欲なチマは、難しそうな表情で勉学に励むスパゲッテの間違いを指摘しながら、自身も復習をする。
「おーいスパゲッテ…、なんでお前さんがアゲセンベ・チマさんに迷惑かけてるんだよ…」
「いやあ面目ない!」
「全然大丈夫よ、人の振り見て我が振り直せって言うでしょ」
「俺は反面教師…」
「冗談よ冗談」
授業が終わるやいなや周囲を取り囲まれそうになったチマの許へ、ゼラとシェオが即時駆けつけ周りへ距離を置かせる。
「申し訳ございません。我々の目の届くよう、近づきすぎないようお願いします」
「。」
「ごめんなさいね、一応立場が立場なもので…」
「こちらもすみません、ついつい気が早ってしまいまして。ドゥルッチェ王国国王の姪、なんですよね?」
「ええ、そうです。王族で且つ王位継承権も持つ一人ですが、ドゥルッチェの慣わしでは殿下を付ける必要がありませんので、気軽にチマとお呼びください」
「「おおっ」」
やや堅苦しい挨拶ではあるが、それ以上にパスティーチェの生徒たちは物珍しい夜眼族を目にして興奮頻り。
「じゃあチマちゃんって呼んでもいい?」
「良いですよ」
「硬い硬いって、スパゲッテにするみたいに私にも砕けた話し方でお願~い。眼福♡」