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六話 学園と学友と! ④

(ビバ、外国!前世でも遠くへの旅行なんて修学旅行くらいで、海外旅行なんて人生初!チマ様の為の流行り服探しって名目だけど、お買い物が出来るってことだし~)

「リン様、お嬢様から頼まれたお仕事ではありますが、周囲の探索も兼ねてお買い物としましょうか。異国の服飾なんて中々見られませんから」

「はい!私もそうしたいと思っていました」

「実は…アゲセンベ家の同僚たちからも、彼是買ってきて欲しいと金子を渡されてしまいまして。お手伝い願えるでしょうか?」

「あぁー、やっぱそうなるんですね」

「奥様とお嬢様は他の女性と比べてお世話の手間は段違い、女性陣が多く必要になるので、必然的に頼まれ事はもう…」

「…大変ですね…。というかチマ様のお世話は、私とバラさんで大丈夫なんですか?」

「私一人でもなんとかなりますよ。長く仕えておりますから」

「頼りになります~」

「さあ、ビャスを荷物持ちにして買い物にでましょうか!」

「はーい」

(いざとなったら金箍根きんここんに籠でも通して荷物を担ぎながら帰ろうかな)

 居残り組三人はパスティーチェの街へ繰り出す。


 異国であるパスティーチェの街並みには野良猫、いや街猫が散見され、人懐っこい猫は住民たちに可愛がられている。

(なんかこういう、街中に猫がいて猫の街と化している場所は前世の…SNSで見た気がする。どっかの国の首都だっけなぁ)

 もしもリンが思い浮かべている場所がイスタンブールであれば、トルコの首都はアンカラだ。

 そんな事は扠置き、一行が向かうのは高級品一級品を扱うような小売服飾店ブティック。外つ国ということもあり事前の調査精度がやや低く、道行く人に尋ねてはたどり着く。

「『天上の絹糸』へようこそ、お嬢様方。本日は如何なお召し物をお探しでしょうか?」

「パスティーチェで流行りの衣装を見繕ってほしいのです。…然しながら本人は不在でして、此方の寸法と特徴を元に選んでいただくことは可能でしょうか?」

 バラが差し出した、チマの仔細を記された紙面を手渡せば、店員は中身を一度確認し。

「あちらでお待ち下さい、最高の逸品をご用意いたしますので」

「承知しました」

 三人が用意された椅子に腰掛けて待っていれば、店の奥ではこれ以上なく賑やかしい声が三人の許へと届き、嵐を予感させるのである。

 他国の貴族や上流階級の女性が訪れることは然程珍しくない服飾店『天上の絹糸』、ドゥルッチェからの客人も何人か相手をしたことは確かだろう。…が、それが王族であり夜眼族のチマとなれば話は別。万が一の失態も許されず、然れどチマのお眼鏡に叶えば店にこれ以上ない箔が付く。

 一世一代の大勝負だと店長や店員は臨時の会議を開いては、銀の体毛を持つチマに似合うであろう衣装を構成する。

「チマ様本人に来てもらうのが一番丸いんでしょうけど」

「お嬢様が市井に出たら大騒ぎですよ、驚天動地とでも言いましょうか」

「あー、まあそうですよね」

「…。」

 ビャスも鷹揚に首肯く。

「この後は何処を回ります?いい感じのお店に目をつけましたか?」

「手頃な店はいくつか。同僚への土産物は質より量、役に立ってもらいますよビャス」

「っはい!」


(………、一フィナンが六アールム半。チマ様の衣服を用意するのにバラさんが支払ったのは一二万アールム…。ハイブランド品は前世でももっと凄い値段してた気がするけど、こっちでも随分なお値段だなぁ…)

 険しい表情で紙袋を抱えるビャスに引きつった微笑みを向けてから、三人は別の買い物へと出向く。

「お嬢様はリン様を自陣に加えること、いえ加わっていると確信していますから、目を慣らし嗅覚を養っていた方がいいですよ。本物の知識、その有無は大きな差ですから」

「あっはい。自信はそこまでですが、チマ様の隣を歩けるの未来は私も見たいので、…お勉強させてもらいます」

「この遊学中は色々と教えて差し上げますよ。私は公爵家に仕える使用人ですからね。出身は孤児ですが」

「むしろ心強いです、お願いしますねバラさん」


―――


「はぁ~、大変でしたね、お買い物」

「……う、腕が重いです」

「ご苦労さまですビャスさん。これ、途中で買ってたティラミス味のクリームパンをどうぞ」

「あ、ありがとうございます。…半分、どうぞ」

「いいんですか?」

「っはい」

「それじゃ遠慮なく、はむ」

 宿に戻ってきたリンたちは共有の部屋で一息つきながら今日の戦利品を眺める。

「随分と…随分と凄まじい量ですね。私やバラさんも最後は持ってましたし」

「…アゲセンベ家に仕える方は沢山、いますので。っ特にお嬢様と奥様の身の回りのお世話をする方々は本当に大変そうで、…お二人の綺麗な体毛を維持しないといけないから」

「あー…、今回はバラさんと私だけで大丈夫なんでしょうかねぇ」

「換毛期じゃなければ大丈夫ですよ、多少の大変さはありますがね」

 部屋に戻ってきたバラはドーナツを齧りながら腰を下ろす。

「…換毛期、ですか」

(そういえば入学式の時のチマ様は結構なもふもふ度だった気がする)

「凄いですよ。お嬢様、奥様、そしてマカロ、屋敷中に毛が舞います…。…私、お嬢様も奥様もマカロも好きなのですが、換毛期だけは心が折れそうになりますね」

「「……。」」

 最近友人になったリンと、同じく最近仕えるようになったビャスは、遠い目をするバラを見ては多少の覚悟を決めた。

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