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七話 お喋りと告白と! ①

 初登校から数日して。

 制服を整えたチマは姿見の前で一回転、問題がないと部屋を出る。

「私も学校に慣れてきたことだし、昨日に伝えた通り護衛はビャスとリンに頼むわ」

「…は、はい!お任せください!」

「頑張ります」

「シェオは車での送り迎えを」

「承知しました」

「シェオは私を贈った後、ゼラは今日一日、短い時間だけど自由にしてくれていいからね」

 釣り道具を取り出したゼラに笑みを向け、一同は学園へと出発する。


「色々学園での生活を伺ってはいますが、実際に足を踏み入れるとなると緊張します」

「意外。養子になっているとはいえ貴族だらけの学校に通う方が緊張したんじゃないの?」

「あー、同じ国内なんで意外にも緊張しませんでした」

(何が起こるか分かっていたってのもあるけどね)

「そういうものかしら。皆、気のいい同級生たちだから気楽にやって頂戴。ゼラなんて壁にもたれて大欠伸おおあくびしてるんだから」

「…そ、それでいいのですか?」

「いいんじゃない?必要な時に動ければ問題ないわ」

 リンとビャスはゼラの実力を思い浮かべては『居眠りしていても問題なさそうだ』と結論と付けて頷く。

「それじゃあシェオ、また帰りに宜しくね」

「はい。お嬢様のこと、お願いしますね」

「お任せください」

「っはい!」

 車で去っていくシェオを見送り、チマたちが学園の玄関へと向かうと、生徒たちは親しげの挨拶をして通り過ぎていく。

(すっごい人気。ゲームの方のチマと変わらないくらい?いやそれ以上か)

「おはようさん、チマさん!」

「おはよう、スパゲッテ」

「今日の護衛はシェオさんとゼラさんじゃないのか?」

「そうよ。親友のリンとアゲセンベ家に仕えてくれているビャス」

「はじめまして。ブルード男爵家の養女、ブルード・リンと申します」

「はは、はじめまして。…、アゲセンベ家でお嬢様の護衛を務めている、ティラミ・ビャス、です」

 二人は礼を欠かないよう丁寧な所作で挨拶をしてから、スパゲッテへ握手を求めると嬉しそうな笑みを見せて自己紹介を返した。

「二人はチマさんと同年代?」

「私は同い年の同学年で、」「僕は一つ下です」

「そうなんだ、なら気楽に行こうぜ!軽くスパゲッテと呼んでくれよ」

「ではスパゲッテさんと」

「おう、宜しくな」

 ぶんぶんぶん、と握手をし賑やかしい四人は校舎を歩いていく。

「二人は護衛?付き人?」

「護衛よ。実力は折り紙付きの、自慢の親友と護衛なんだから」

「へぇー」

 興味津々といった視線をビャスへ向けたスパゲッテは、握手した手を見つめてから。

「ビャスってさ、『勇者』とか持ってたりしないか?」

「っ!?」

「分かりあったりするものなの?」

「まあな。何となくだが、そんな感じがしたんだ」

「。僕も、何かこう、じんわりとしました」

 チマが隠す風でない事を確認したビャスは、すんなりと『勇者』スキルを所有することを認めつつ、感応したことを伝えた。

「スパゲッテって、貴方自身以外の『勇者』持ちとあったことはある?」

「ないな。ないけど、なんとなく神聖スキルじゃない特殊なスキルを有していると確信できた」

「なんか羨ましいわねぇ、そういうの」

 ちらりと自分の手を見たチマはビャスへと手を差し出して、彼は軽く握り返すもこれといった感覚はお互いに無い。

「チマさんにも特殊なスキルが?」

「ふふっ、どうかしらね」


―――


(学園の雰囲気的に問題はなさそうですし、お嬢様から離れる機会もあります。……ですが不安というかなんというか、心配性が過ぎますかね)

 適当な店で軽食を購入したシェオは公園の駐車場に車輌を停めて、ゆったりと歩き出す。

(お嬢様にも余裕ができましたし、私の心も漸く決心が付きました。今晩お嬢様に私の出生をお話ししましょう。………あっさりと受け入れてくれて、笑い飛ばしてくれるのでしょうね)

 野良猫が木陰で寝転がっている姿を見つけたシェオは、そこらへんの草を一本手折り目の前で左右に振ってみる。最初こそ興味がなさそうだったのだが、次第に気分が乗ってきたのかやや気だるそうな面持ちで捕まえようと前足で叩く。

(…、楽しいものですね。マカロももうちょっと愛嬌があれば)

 飽きて寝転がった野良猫を触ろうと思ったシェオだが、病気や害虫のことを考えて踏みとどまる。

「ふぅー…」

「こんにちは」

「うおあ!?」

「あぁ、すみません、唐突に声をかけてしまって」

 立ち上がったシェオに声をかけたのは五〇代の男で、特徴が無いのが特徴、と言わんばかりの相貌そうぼうで、ドゥルッチェ系純人族のシェオを不思議そうに眺めていた。

「お綺麗な衣服を纏った方が公園で暇をつぶしていましたので、同類かと思ってお声をかけさせていただきました」

 ピシッとした衣装を身に纏った、どこか貴族然としている男。

「休憩時間みたいなものです、半日ほどですが。…私はドゥルッチェ王国のアゲセンベ家にお仕えするキャラメ・シェオと申します」

「これはご丁寧に。私はピッツォーリ・ピツォ・テリーナ、現在のパスティーチェ元首を任されている者です」

「…?へ?」

「ご存知ありませんか?矢避けの案山子なんて呼ばれてるんですけどね」

「責任逃れのために元首に仕立て上げられた、っていう」

「おお、流石アゲセンベ家の従者殿」

 シェオが白手袋を嵌めようとすると。

「わっ、待って下さい。私がここにいるのは仕事を怠けているだけで、アゲセンベの姫君に接触を図ろうとしたわけでは御座いません」

 元首ピッツォ―リは着席を促すように長椅子へ視線を向けた。

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