(同じ『勇者』持ち、レベルが上がりにくいだろうに随分と腕が立つ。だが間合いの広さ、んでお師匠に鍛えられた俺にはッ)
素早く、そして靭やかな攻撃を繰り出していたビャスであるが、攻撃を確実に打ち落とし的確な反撃を入れてくるスパゲッテを前に苦戦を強いられていた。
(なんとなく、リンさんを相手にしている感じだけど。…たぶん、リンさんよりも強い。…的確な間合いの維持、そして余裕のある立ち回りは厄介)
両手で握っていた木剣を片手で握り直し、力いっぱいに飛び出したビャスは、スパゲッテの懐に入り込み足払いを行うのだが、それを軽々と飛びのけて石突で脇腹を打てたれては地面を転がる。
「なんだ今の。瞬発力と間合いに入り込む軌道には驚いたが、…なんつうんだろう、身体に合ってない戦い方だ。無理をしてる。あんまし使わないほうがいいぜ、それ」
「は、はい…」
強く打ち込んでいないので直ぐ様に立ち上がったビャスであるが、「もう終わり」とチマからの視線を受けて、木剣を腰に納める動作をしてから頭を垂れて礼をする。
「…。ありがとうございました」
「おう、またやろうぜ兄弟」
「きょ、兄弟?」
「武器を交え語り合った『勇者』二人、これを兄弟と言わずしてなんていうんだよ。チマさんは未だ遊学期間があるんだし、また手合わせしてくれよ」
ニッと快活な笑みを浮かべるスパゲッテを見て、同性の友人ができたビャスはぎこちなく、だけども感情のしっかりと籠もった笑顔を返すのであった。
「はい、はーい!私もスパゲッテさんと戦ってみたいです、似たような得物使うんで」
金箍根を伸ばしたリンは勢いよく飛び出していき、ビャスへウィンクをしてからスパゲッテへ勝負を挑む。
(一戦交えただけで兄弟とか、ちょっと妬けちゃうし)
賑やかな放課後は続いてゆく。
「はぁぁー、くたくたです。私とビャスさん二人がかりで敵わないって、スパゲッテさん強すぎますよ」
「…っ」
帰りの車内でリンとビャスは力尽き、お互いに凭れ掛かっている。
「リン様が
「私なら手も足も出なかったわね、きっと。…いや、ナツと戦ったときのアレを出せれば未だ可能性はあるかもしれないけど、…結局出せず仕舞いだから関係ないか」
「…。レベル差、スキル差、というよりかは実力差の世界でしたから、それこそトゥルト・ナツ様がいい勝負をなさるのではないでしょうか?」
「ちょっと見てみたいわね。剣聖対槍聖勇者、ちょっとした催しになりそう、ふふっ」
楽しげに笑みを浮かべて雑談をしていると、後部座席の二人から返事がなく、チマが振り返ってみれば仲良く寝息を立てている。
(静かにした方がいいみたいね)
(そうですね)
(シェオは今日何をしていたの?)
(後でお話しする内容もあるのですが、お嬢様の役に立てるようホーク―の街を散策して情報収集と土地勘を培っていました)
(情報収集の成果は?)
(あんまり。ここ最近、学園と宿との往復でお嬢様の姿が市井の目に触れるようになり、『ドゥルッチェの猫姫様がお越しになられた』と噂になっております)
(ドゥルッチェの。カリントではないのね)
(国家間の関係が拗れないよう、情報を意図的に流し統制しているのかと。かなり歓迎的な雰囲気を作っているようです)
(パスティーチェは猫好きだし、期待に背かないよう頑張らないとね)
窓の外を見つめ、ふと目が合った者へ手を振ると、相手は目を丸くし手を振り替えしてくる。
(……立場がなければ、居着いてしまったかもしれないわね)
(…。今からでも、その選択は遅くありませんよ)
(っ)
(私は努力するお嬢様が好ましく、お仕えできていることを誇りに感じています。ですが、ドゥルッチェへと戻れば辛いこともありますし、私との婚約で庶民を重用しようという現体制に反意を持つ派閥からは目の敵にされてしまうでしょう。…パスティーチェであれば、お嬢様は心穏やかに、そして幸せな道を歩める可能性もあるのです。…………、なんて、そんな選択肢を取らないことはよく知っております。何処へでも同行いたしますので、私をお傍に置いてくださいね)
(…。)
(お、お嬢様?)
(つくづく従者に恵まれているのだと実感しただけよ。シェオは一生、私のなんだから絶対に離さないわ)
「はいっ!」
(声が大きい)
(すみません)
後ろを振り返るも、二人は寝息を立てたまま。
チマとシェオは密々と二人っきりを満喫しながら宿へと戻る。