「帰ったわよー、シェオの様子はどうかしら?」
授業が終わり、ペリーニェとの予定を詰め終わったチマは帰宅し、ここ数日の間リンとバラに礼儀作法を仕込まれているシェオの様子を伺う。
「おかえりなさいませ、チマ姫」
「おぉ…」
普段とは異なり髪型をポンパドールヘアにし、先日新調した衣装、そして完璧な所作を目の当たりにして、チマは小さく唸った。
「…。えっと…どうでしょうか、お嬢様?」
「いつものシェオに戻ったわね。ただいま」
「おかえりなさいませ」
照れ照れとするシェオの手を取り、隣に並んでは部屋にいたリンとビャス、バラに見せれば。
「やはり制服姿のお嬢様でも、隣にいるのが着飾ったシェオでは天秤が傾いてしまいますね。…長い事お二人を見てきた影響でしょうが」
「ならリンとビャスの意見を聞こうかしら」
「私は悪くないと思います、いえ全然アリですアリ。いいですかシェオさん、何が何でもチマ様の隣を離れず、政の話しが分からなければ適当に微笑んでて下さいね!」
「は、はい!」
「しぇ、シェオさんは、器用になんでも熟しますし…大丈夫だと思います。っ衣装も似合っていますので!」
「ありがとうございます、ビャス」
部屋に入ってきたゼラは、二人を眺めてから考え込み。問題ないと笑顔を作っていた。
「こっちで失敗した所で大きく響くことはないから、ドゥルッチェで何れ行う本番の予行演習として、一緒に頑張りましょ。ね、シェオ」
「…。はいっ!」
「いい返事ね。ああそうだ、明日マカローニの画廊へ行くじゃない。その前に友人を拾っていくから場所と時間は―――」
ペリーニェとの約束を伝えれば、シェオは頷き手帳へ書き込んでいく。
「同行者が一人増えたくらいなら問題ないわよね、貸し切りだし」
「大丈夫かと思われます。必要であれば入館料はこちらで持ちましょう」
「そうね。それじゃあバラとリンとビャス、ここ数日シェオの面倒を見てくれてありがとうね。明日は自由にしてくれていいから、遊んでらっしゃいな」
「はーい」「はい」「ありがとうございます」
「そうそう。明後日に学校の友人と十柱戯をしに行くのだけど、リンとビャスを一緒に来ない?一応頭数には入れてもらっているけど」
「ボウリングですか!いいですね、行きたいです!」
大はしゃぎするリンを見てチマは笑みを零し、ビャスへと視線を向ければ頷きが返ってくる。
「それじゃあ決まりね。楽しい休日になるわ」
―――
「帰りました」
「ピッケーリさん、久しいですね。学園の方はどうですか?」
ピッケーリが自宅へ戻り、書斎へ向かうと食前だというのに酒を嗜んで庭を眺めるピッツォーリの姿があった。
「問題ありません。アゲセンベの従者に接触なさったようですが、何故こちらに連絡が届いていないのですか?」
「…。おや、アゲセンベの姫様に聞かされてしまいましたか、…いやあなに、探りを入れようと思っていたのですがね、思った以上に口が固くアゲセンベの姫様に関することは、お食事の好き不好きくらいしか聞けなかったのですよ。長い事政務に努めてきましたアタシですがね、恥ずかしいばかり」
たはは、と悪びれるピッツォーリの姿は滑稽そのもので、侮蔑の対象にもなりそうな態度だが、ピッケーリは少しばかり考え込んで納得する。
(何かしら思惑があるのだろう。降り注ぐ矢をのらりくらりと躱してきた、“家柄だけが取り柄のサボり魔”なんかではないのだから)
「アゲセンベの姫様とお話しをなさったのなら聞いておきたい事があるのですがね」
「何でしょう?」
「誰と仲良くしていましたか?」
「勇者のスパゲッテとその仲間内が主な顔触れでしたよ。食事中に様々な人が挨拶をしに足を運び、気さくに返していたところを鑑みると、ジェノベーゼン学園の多くの生徒と顔見知り程度の仲を構築しているようですが」
「(やはり)勇者ですか」
(やはり?)
「彼女たちに矢が降り注ぐ自体になったら、案山子になれとはいいません。手助けをしてあげて下さい。そんなことは無い方がいいのですがね」
「そうなんですけど、意味あり気な言葉はやめてくださいよ」
「ははっ。どう、一緒に飲みますか、ピッケーリさん」
「飲みませんよ。まだ卒業していないんですよ?」
「待ち遠しいですね。息子と一杯酌み交わす、その時が」