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九話 多忙な休日の一歩! ①

 明くる日。

「いたいた、校門前に止めて頂戴」

 車輌を校門前に停めるとお洒落をしたペリーニェが小走りで寄ってきて笑顔を見せる。

「お待たせ」

「時間ピッタシ、全然待ってないよ〜」

「ふふっ、良かったわ。それじゃ乗って頂戴な」

「おじゃましまーす」

 扉を開けて足を踏み入れると、本日の同行者は見慣れたシェオとゼラの組み合わせ。年上な二人なので少しばかり退屈感はあるものの、チマがいるので問題ないようでちょこんと座席に腰を下ろす。

「チマちゃんとマカローニさんってお知り合いなの?」

「一度だけ会ったことのある顔見知りといったところね。どちらかといえば娘さんと縁があるのよ」

「あー、有名だよね。孤児を引き取ったり、慈善事業へ寄付をしたり」

「猫も拾ってくるみたいよ、お庭でお昼寝してて気持ちよさそうだったわ」

「猫ちゃんの絵画を主に扱ってるもんね」

「ペリーニェは画廊へ行ったりは?」

「今日が初めてだよ。少し遠いし、あんまり一緒に行こうって子いなくってさ〜。渡りに船って感じ」

「なら楽しまないとね」

「うんっ。ところで入場料っていくらくらいなの?」

「いくらなのかしら?あまり詳しく聞いてないの。今回は貸し切りだから細かいことは気にしなくて大丈夫だと思うわ、必要だったらこちらで用意してあげるし」

「貸し…切り…?」

「そう、貸し切り。自分で言うのもなんだけど、ドゥルッチェでもそこそこの地位にいるように見えるから、縁つなぎをしたいって人が多くて、絵画鑑賞の邪魔にならないようマカローニの方から貸し切りにしてくれたのよ。助かるわ」

(ひょえ〜。普通の私服で来ちゃったけど大丈夫かな?…、いや、そんなしっかりとした服なんて持ってないんだけど!)

 ペリーニェは頭を抱える。自分の迂闊さに。


「御足労いただきありがとうございます、アゲセンベ・チマ様」

「御機嫌ようトネッテさん、本日はお招きいただきありがとうございます。事前連絡と異なり、友人を一人同行させたいのだけど問題はなくって?」

「御友人であれば問題ございません。それではどうぞ」

 マカローニの養子、その年長であるトネッテがチマを迎えるに相応しい正装で出迎え、画廊へと案内を行う。

「ふふっ、気軽にいきましょ」

「あっはい。ラザーニャから多々伺っていたのですが、どうにも他所の王族と聞くと肩肘を怒らせてしまうといいますか」

「パスティーチェの王家や他NCU王家からも来客があるの?」

女王じょおう様は年に一度ほどお見えになられますね。他王家の方々もお越しになられることはあるのですが、一部には面倒な方もいらっしゃって、…マカローニが追い払おうとするのです」

「へぇー」

「聞いたことあります、数年前にマカローニさんがどっかの王族を追い払ったって」

「あー…、あの時はじゃれてきた猫を足蹴りことが原因なんですよ。人懐っこくて困っちゃうんです」

 なんて話しをしながら手入れの行き届いた庭を歩いていれば、早速猫の一匹が一行に歩み寄ってきて、チマが手先を差し出す。

 鼻を近づけ匂いを識別した猫は、チマの足に身体を擦り付ける。

「あらあら、甘えんぼさんなのね。いらっしゃい」

 アゲセンベの家族たる大猫のマカロと比べれば、全然小さい猫へ両手を伸ばし優しく抱え込むように抱っこをすると、スンと大人しくなり欠伸を一つ。

「そのー、お召し物に毛が付いてしまわれるのですが、…大丈夫ですか?」

「内側からも付くし、次に予定へは着替えていくから問題ないわ」

(猫が、猫を抱えている…)

(――なんて思ってそうね)

 そんな視線を気にする風もなく玄関口へ歩いていけば、杖を携え椅子に腰掛けたマカローニが待っており、猫を抱くチマをみれば目を丸くしていた。

「御機嫌ようマカローニ」

「ようこそお越しくださいましたチマさん。…中々様になる姿、今直ぐにでも素描したいところだが、今日は絵画鑑賞ということだから我慢しましょう」

「賢明な判断で助かるよ…親父」

「帰郷する前にもう一度足を運ぶ予定だからその時にね」

「助かる。…そちらのお嬢さんは?」

「友人のペリーニェ、ジェノベーゼン学園で出来た友人でね。マカローニの絵が好きだっていうから連れてきたのよ」

「御学友ということであれば問題ない。興味を持った絵画、篤と楽しむといい」

「ありがとうございます〜」

 出迎えた養子の顔触れを見回していけば、端っこで縮こまっているラザーニャの姿があり、「どうもどうも」と後頭部を掻いて頭を下げていた。

 本日は絵画鑑賞の場なので、マカローニとラザーニャの関係がどうなったか等は話し合われず、知り合い同士の簡単な会釈のみを終える。

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