「お、おはようございます、チマ様」
「っおはよう、ございます、お嬢様」
「おはよう、リン、ビャス。…改まってどうしたの?」
明くる日の朝、共同部屋で朝食を食んでいるチマの許へとリンとビャスがやってくるのだが、どこか畏まった所作でチマの対面に座し昨日の報告を行う。
「実はビャスくんとお付き合いする事になりまして、先ず先にチマ様へと報告に参りました」
「リンとビャスが?」
「はい」
「は、はいっ」
「仲が良かったしなんら不思議でもないわね、おめでとう」
優しげな笑みを浮かべたチマは二人の関係を祝う。
「許可をいただける、ということですかね?」
「許可も何もアゲセンベ家の従者に恋愛の制限なんて言い渡してないから、こちらは問題ないわよ。逆にブルード家は大丈夫なの?」
「はい、養父からは好きな相手を選びなさいと言われておりますし、アゲセンベ家にお仕えしチマ様の護衛を務めるビャスくんであれば養父も本望かと」
「なら後は祝福するだけということね。…子供ができちゃうと休学しないといけないから、そういったことは卒業後まで待ってくれると嬉しいのだけど」
「えっ!?当たり前じゃないですか!!ビャスくんは未だ一四歳なんですから犯罪ですよ!?」
「別に本人同士の同意があるなら犯罪じゃないのだけど…、私としては助かるわ。流石にリンのいない状態で学校へ通うのは、ちょっと厳しいから」
(こちらとしても途中退場で状況把握ができないのは困るからね)
「リン、ビャス」
「「はいっ!」」
「二人共、私にとって大切な友人と従者なの。こういう事は言いたくないのだけど、人と人とのことだから上手くいかなくなる可能性はある。だけどね、悲しい結末にはしてほしくないの。…私自身が恋愛経験なんてないから的確な助言はできないけど、困ったことがあったら頼ってくれていいから。私経由でお父様とお母様に相談してもいいし!」
「ありがとうございます。…ただ、そのぉレィエ宰相とマイ様への相談はちょっと遠慮したいです、恐れ多くて」
「っ。恐れ多いです」
「そう?まあいいけど」
(この後のスパゲッテたちと遊びに行くけど、途中でお祝いの品でも購入できないかしら。シェオに相談してみましょ)
パクリと朝食を食みながら、頬を染める二人の反応を楽しんでいた。
動きやすい衣服を身にまとったチマは、護衛四人を引き連れてホーク―の街を初めて歩く。
「大注目ね」
「車輌に乗っている状態でも人目を集めていましたから、徒歩で行くとなると仕方ありません」
「おはとうございまーす」と通行人たちに手を振れば、彼ら彼女らからも挨拶が返ってきて話題が伝播していく。
「でも一度は自分の足でホーク―の街を歩きたかったから、迷惑かけるわね」
「お嬢様の為ですから問題ありませんよ」「っ、はい大丈夫です」「お気になさらずに。私たちは強いので」「。」
「ありがと」
ご機嫌に微笑んだチマは異国の地を歩む。
「…ごめんなさい、歩いてきたら結構な人集りになっちゃって…到着が遅れてしまったわ…」
「問題ないぜ!」
「うんうん。人集りが出来ることを想定して時間を設定してるし」
のんびりお散歩気分で進んでいたチマ一行であったが、夜眼族へ興味を示すパスティーチェ国民が多く現れ、半ら公務のような状態で学園へと辿り着いたのである。ここ数日、ジェノベーゼン学園へ遊学している事は新聞屋が報道し、登下校の際も通行人たちへ笑顔を振りまいていたので、気さくなお姫様だという噂が走り、囲まれてしまう事態へいたったのだ。
危害を加えようとする者はいなかったのだが握手やサインを求められたりと、リンは「…アイドルみたい」と呟くほど。…実際にアイドルか。
「予定では、公共の乗合車を使う予定なんだけど、大丈夫そ?」
「ドゥルッチェ王族の実力、見せてあげるわ」
そんな事を言ってのけるチマは、ドゥルッチェでの公務経験に乏しく、社交の場に出ることも少なかった引きこもり姫。この後の想像は難くないだろう。
―――
「………次、パスティーチェで遊ぶときは、……大人しく全員が乗れるだけの車輌を用意すべきね」
「……はい。」
「お願い…します…」
チマ御一行はあちらこちらで揉みくちゃにされ、ボウリング場へ辿り着く頃には疲労困憊であった。
「でも遊びは別腹、人生初の
「その意気だよチマちゃん!」
「だな!イケてるとこを見せてやるぜ!」
(…私も負けていられませんね。遊んだことはありませんが、なんとかなるはずです)
対抗心を燃やしたシェオは居住まいを但し、チマに格好良い姿を見せるために気合を入れる。
(前世ぶりのボウリング!あんまり得意ではないけど楽しみ~!)
「が、がんばりますっ」
一同はボウリング場で貸道具、レーンを二つ、ピン立て係の料金を支払い自分たちの場所へと向かう。