「おはようペリーニェ。ふふっ、この前に教えてもらった喫茶店の従業猫、『ジャンボチャイティーラテホイップ』ちゃん、見てきたわよ。毛色は違ったけど大きさとかふてぶてしさとかが、我が家で飼ってるマカロと近くって、しばらくの間もふもふと遊ばせてもらったの」
「遊べたの!?いいなぁー、基本的に寝転がってるだけで遊んでくれないんだよね」
「私がお店に行ったら偶然起き上がってね、玩具を借りて目の前で動かしたら、仕方なさそーーーに手を動かしてくれたの。アレは完全に業務の一環ね」
くだらない話をしていれば、スパゲッテは頭に疑問符を浮かべながら猫の名前を思い出す。
「え、何?ジャイアントフラペチーノ?」
「『ジャンボチャイティーラテホイップ』ちゃんよ。とある喫茶店の従業猫で、営業時間内のほぼ全てを寝て過ごしているらしいわ」
「従業猫って言葉を初めて聞いたわ…、その長ったらしい名前も。…チャイティーは美味しいのか?」
「ええ、美味しかったわ」
「じゃあ今度行こうぜ!」
「残念。私は後三日しか学園へ通わないし、その後も渡航準備とかで忙しいのよ。だからまた、私がパスティーチェへ来た時にさそって頂戴な」
「そっか。もう帰っちゃうのか…」
「寂しくなるね〜」
学友たちは肯き、チマへと思い思いの言葉を掛けていく。
「未だ三日もあるのに、湿っぽくするのは早すぎるわ。今日も授業がしっかりあるのだから、集中しないと」
「チマちゃんが一番退屈そうだけどね」
「…、なんのことかしら」
ゆったりと瞳を反らしたチマを一同は笑い、賑やかな歓談へと移っていく。
(チマ様、本当にジェノベーゼン学園の皆さんと仲良くなったね)
(う、うん。っ最初からパスティーチェの人だったみたい)
最初の夜眼族だからチヤホヤされていた感覚とは異なり、同じ教室で勉学を共にする友人たちは、チマを一個人の友人として接し楽しんでいる。
『貴族』という存在が廃れチマへ気軽に接せられる彼ら彼女らだからこその関係なのだろう。
今現在のドゥルッチェとも、ゲーム内の姿とも異なるチマの交友関係を、リンは非常に好ましく思っていた。
「そろそろ授―――――」
「――――!?」
自身に割り当てられた席に着こうとした瞬間、チマとスパゲッテは以前にも感じた感覚に襲われ、チマは尻尾の毛を逆立て膨らませる。
「どうしたのチマちゃ」
「どいてッ!」
何も気が付かず近寄ってきたペリーニェを押し退け、チマは眼前に迫ってきていた仮面姿の教員を蹴り飛ばす。
「その仮面、模様は違うけど覚えがあるわ。『
「『義憤』?ほう、奴が動くとはこれ如何に。…我は『
「よくわからないわ」
「愚かな枝葉よ。…、裏切りを宿す獣返り」
距離を置いたチマの影から
「みんな!今直ぐに逃げなさい!こいつは、統魔族。一帯に緊急事態を知らせて頂戴!」
(『
脳内に響いてくる声を無視し、チマは素手での構えをとった。
「逃がすものか。神の枝葉は全て根絶やしだ。天上天下、全て我々が治める土地であり、我らが再び旅立つ安寧の揺り籠なのだ」
『正心』が杖を取り出して掲げれば、周囲の色は失われ穢遺地へと変貌していく。
「させないわよ!!“あの時”見たのよ、仮面を引き剥がせばいいってね!!」
歯牙を剥き出しの床を蹴ったチマは正面から突き進み、杖が振られた軌道を確かめてから進行方向を直角に曲げ、壁を足蹴に『正心』の仮面へと手を掛け力を込める。
「剥がれなさいよ!!」
「愚かな。『勇者』でもない枝葉が我々を剥がせるわけもなかろう」
「ぐっ!、かはっ――――!!?」
首根っこを掴まれたチマは地面に叩きつけられ、肺の空気を吐き出す。
杖先が自身に迫りくるも身体は動かず、相手を睨めつければ赤い棍棒が目にも留まらぬ速さで『正心』を押し退け、ビャスがチマを回収した。
(『正心』、全く微塵も知らない統魔族。狙いは『勇者』ってことだけど、どうすべき?皆を逃さないと)
「皆さん早く逃げてください!スパゲッテさんは特に!」
緊張状態にあり動くことの出来なかった生徒たちは、チマの状態に意識を向けるもビャスが守っていることから頷き合い、教室を飛び出し大声で危機を知らせながら走る。
「ビャス、チマさんは俺が担ぐ。あいつから目を離さないように撤退するぞ」
「っ!」
コクリと肯いてチマを預け、ビャスは剣を構えながら
「幾年前もそうだ、この地に
宣言するかのように声を荒らげた『正心』は杖で床を突き、大きく息を吸ってから声を上げる。すると。
ジェノベーゼン学園、チマたちのいる教室の上空に立体映像のような半透明で巨大の『正心』現れた。
『我は統魔族の戦士『正心』、蘇りし我は幾星霜より続けてきた『勇者』討滅を行う。先の戦のようにはならぬ、先ずは障害となる獣貰の枝族を払い確実に討滅する。然し然し、我に付き従い獣貰の枝族と『勇者』を差し出すのであれば、直ちに枝葉の一つ一つを焼き払うことはせん。熟考せよ、我は正統なる戦士!!』
首都ホーク―内へ『正心』の声が伝わり、国民たちは騒然としつつもイマイチ理解が及ばない。
獣貰の枝族、は
『勇者』も然り。スパゲッテは気軽に自身のスキルに『勇者』があることを周囲に伝えているが、国民全体で考えれば一握りも知らない。
大演説を終えた『正心』だが、周囲を見渡せば既にチマたちは姿を消している。
「まあ良い。これは戦だ。戦士は戦で敵を討つのだ」
杖を掲げ学園中を