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一二話 Aiutati che Dio t'aiuta. ②

「逸ったわ…」

 痛む首を押さえながら、チマはリンたちと学園内を進んでいく。

「統魔族っていうと、数百年前に現れたっていうアレか?」

「数百年前?有史以前に祖先たる神たちと戦をし、大地に封じられた神敵でしょ?」

「いや、パスティーチェじゃ数百年前、カリントから夜眼族が流れ着いていた時、『女王とミタラ』の時代にも現れているんだ。『勇者』を討ち滅ぼすってな」

「…。まったく知らない情報ね」

「お師匠からは口外するなって言われてるから、国家機密とかだろうな!はっはっは!」

「口が軽いのは褒められないわ。けどパスティーチェは統魔族と戦っているのね?」

「ああ。女王に仕えていたミタラが当時の『勇者』と協力し迎撃、難を逃れたってさ。てっきりチマさんも知ってて俺に会いに来たとばかり思ってたんだが…」

「残念ながら偶然よ、とある画家の娘に誘われただけ」

(本当に全く知らない新情報。『正心』は色々言ってたけど、情報を纏めているだけの時間も、脳のリソースもないから記憶に留めておかないと)

 リンは周囲を警戒しつつ、窓の外で鎧姿の魔物が生徒を襲おうとしている瞬間を目にし、大急ぎで急行する。

 四本腕の大鎧。それは各々の腕に剣や槍、斧や棍棒といった武器を携えて、人へと襲いかかる。

 金箍根きんここんで地面を突き、勢いよく伸ばして突き進んでは懐へ入り、顎を目掛けて突き上げれば体勢を大きく崩して、ビャスが首を落とす。

「逃げてください」

「あ、ありがとうございます!!」

 一目散に逃げ去った生徒を見送ると、チマとスパゲッテが魔物の死骸から剣と槍を拾い上げる。然しながら相手は魔物、息絶えれば身体は霧散し残響炭を残すのみ。剣と槍も例外ではない。

「これからどうしましょ。相手の目的は私とビャス、スパゲッテを殺す事。頭に響く大きな声で国民へ語りかけてたから、人前に出れば捕まって差し出されちゃうかもしれない。………けど、パスティーチェ国民に被害が出ることは、もっと嫌よ」

 チマはパスティーチェの事を気に入っているが故に表情が翳る。

「チマ様を差し出した時点でドゥルッチェとの戦争は不可避ですよ。レィエ宰相もですが、東部沿岸貴族は黙っていないでしょう」

「そうなのよね、独立をしてでも戦争を始めるんじゃないかしら。…シェオとゼラがいれば未だ戦えそうなのだけど、合流は、できるのかしら」

「そ、その。っ時間稼ぎにしかなりませんが、…学園の中を逃げ回るのは?」

「…そうしましょう。襲われる生徒いるなら助けながらね」

「よしっ!なら寮へと向かおう、槍が必要だからな!」

「私の武器も欲しいわね、サーベルとかがあるといいのだけど」

 チマ一行は学生寮へと足を向けた。


「よっと!」

 四腕大鎧が剣を振り下ろしチマを狙うのだが、それをひらりと躱し膝蹴りで肘を折る。その後、落とされた剣を拾い上げて片手で構えた。

 兜の奥底に光る薄暗い無数の瞳でチマを見据えた魔物は、残る三本腕を用いて攻撃を繰り返すも最低限の切り払いと回避で当たることはなく、隙を晒した瞬間に兜と鎧の間に剣を突き刺して命を絶つ。

「ふぅ…のろいから一対一なら余裕ね。大丈夫かしら…いえ、大丈夫ですか、先輩?」

「は、はいっ!ありがとうございます、アゲセンベ・チマ様!」

「なら急いで学園外に逃げなさい、鎧の魔物に見つからないようにね。…送ってあげられたら良かったのだけど、残念ながらあの通り忙しいのよ」

 顎で指した先には数体を相手取り圧倒するリンとビャスの姿。

「そゆことです先輩。自分たちは学園内で魔物の相手をし、統魔族を討ちに向かいます」

「このくらい背丈をした無口な、魔法銃を携えた女性と、精悍な顔立ちで白手袋をした茶髪の男がいたら、今の言葉を伝えてくれる?」

「え?……あー、はい。魔法銃の女の人と白手袋の男の人ですよね?」

「そう。他の人にも伝えといてくれると助かるわ。さあ行って、魔物が出てくる前に、貴女を危険に晒したくないの」

「…はいッ!」

 女生徒は一礼し学園外へと逃げていった。

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