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一二話 Aiutati che Dio t'aiuta. ③

「なんで私はこうも間が悪いんですか!」

「まあまあ落ち着いて下さいよ、キャラメ侍従。学園内であれば教師がチマ様を守ってくれるのではないのですか?」

「あの仮面は、私の記憶が正しければ統魔族のもの。お嬢様を狙っている言葉を考えれば厄介なことになりかねません。私とジェローズ騎士が出ますので、ラザーニャはバラと共に此処で待機をお願いします。出方は分かりかねますが、パスティーチェの軍が動く可能性がありますので、必要次第では各部屋の捜査に協力してください」

 『正心せいしん』の演説を見たシェオはチマを救出するため白手袋とその予備を準備し車輌の鍵を取る。

「その、私も役に立てると思うのですが」

「といいますと?」

「少し待ってくださいね」

 ラザーニャは適当な布を被り一呼吸をしてから布を取ると、その姿はチマ、のような夜眼族の少女に姿を変えており、シェオとバラは目を剥いた。

「あ、あー…う、うん、声はこんな感じ?話し方を変えないといけないわね」

 スキルを用いたほんのりと違和感の見た目と、本人の技術による変声術を以ってチマに成り代わる。見た目に関しても普段から共に過ごしている者でなければ、よく姿の似た夜眼族の区別などつかないだろう。

「この力、使えるのではなくって?」

「…、チマ様なら『この力を使えるんじゃない?』ですね。…、統魔族がどう出てくるかわかりませんが、チマ様を狙っているのであれば囮も可能、ですが。危険が伴いますよ?」

「命を賭すほどではありませんが、恩義を感じておりますので、限々ぎりぎりまで同行します」

「助かります。…ただ、その声と見た目で畏まった話し方は止めて下さい。…怒りが湧きます」

「…。わかりました。ジェローズ様、私にも魔法銃を借りれますか?」

「。」

 重装備で合流したゼラへ魔法銃を借りようとラザーニャが提案をすれば一度肯き、小型の魔法銃を手渡す。

「スキルは?」

「無かったら借りませんよ。………、一〇年以上も握っていませんが…必要になった、なってしまったというだけです」

 シノビとして最後の任務を思い出しては眉を曇らせた。

「お嬢様とのお帰りをお待ちしております。…シェオ、命に変えてもお嬢様を救いな!」

「分かってます!」

 シェオ、ゼラ、そしてラザーニャの三人は宿を出て車輌へと乗り込む。


「車が全然進みません…」

「学園方面へ向けて交通規制がかけられていますね。ちょっと窓から屋根上に乗りますね」

 軽い身の熟しで屋根上にのったラザーニャは長蛇の列の先を眺めるも答えは見当たらず、一度車輌から降りては建物の小さな出っ張りを手掛かり足掛かりに登って、屋上から様子を確かめた。

(パスティーチェ軍、…対緊急事態構成女王連隊プラエトリアニ!?どういうこと!?なんでこんな短時間で『女王の鍵』を!?)

 壁伝いに車輌まで戻ったラザーニャは状況を伝える。

「前方、学園方面でパスティーチェ軍の特殊部隊構成が交通規制を行い、完全に通行を止めてしまってます」

「プラエトリアニ?」

「はい。よくご存知で」

「それはなんですか?」

「国家運営の危機に際して運用される特殊兵装を用いた精鋭部隊及び補助部隊とその装備を一纏めにプラエトリアニと呼ぶ。詳細は伏せられているけど神世技術武装を用いているとも。今現在の私は第一騎士団のジェローズ・ゼラではなく、休暇にパスティーチェへ遊びに来ているジェローズ伯爵家当主のゼラとして来ている。治外法権は使えない」

「?」

 シェオは長く話したゼラの言葉に疑問符を浮かべていた。

「このまま行っても追い返されてしまう。…というかチマ様が敵に狙われていてパスティーチェがどう動いているかわからない以上、このまま進むのは悪手ってことです。チマ様の隣に立つのならこういった知識も必要ですよ」

「肝に銘じます。…それでどうしましょう?」

「走ります?抜けられる道は割り出せますよ、…プラエトリアニといっても交通規制などを行っている部隊は一般の軍人に過ぎませんから見つかることはないでしょう」

「私は騎士の職に就いている」

「あ、はい。…そうですね?」

 ゼラは後方の公園を指差し荷物をまとめ上げる。

「ラザーニャ。」

「はい?」

「チマ姫様に変身。プラエトリアニと衝突する直前に、勇猛果敢なときの声を上げて」

「え?」

「いくよ」

「ちょ、ちょっと待ってください!路駐するんで!」

 車輌を道路脇に停めてはゼラを追う。


 パカラ、パカラ。と蹄音を響かせて三人と三頭は渋滞の間をすり抜けて猛進していく。

「これ!私、馬なんて乗れないんですよ!!」

「乗ってる。声を出すと舌を噛むよ」

 悲鳴めいた声を上げながら馬にしがみつくシェオの顔面は蒼白である。

「筋が良くってよシェオ。あと少しでプラエトリアニの交通規制に打つかるのだからシャキッとしなさい!」

 馬を乗りこなしているラザーニャは先頭へと躍り出て、大きく息を吸い込んだ。

「統魔族なんて、このアゲセンベ・チマが正面から討ち取ってあげるわ!私を差し出せなどと言ったこと後悔させてあげますわ!!」

「あ、貴女様は!?」「お待ち下さい、この先は!」

 パスティーチェ軍がチマに扮したラザーニャを止めようと静止の声を叫ぶのだが、三人は強行突破して穢遺地と化した学園へと突き進む。

(よく考えたら…これも外交問題になってしまうのでは?すみません、お嬢様!外交官になる未来は私が潰してしまうかもしれません!!)

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