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一二話 Aiutati che Dio t'aiuta. ④

 学生寮まで足を運んだチマ一行は無人の寮を進んでいき、スパゲッテの槍を回収しチマの扱えそうな剣も拝借した。

「さて、これで危険へ飛び込む準備が出来たわけだけども、覚悟は良いかしら?」

「いいぜ。俺達が穢遺地で暴れている以上、学園外への被害は減るだろうしな。ははっ、イケてる男だぜ!」

「イケてる男よ、スパゲッテは」

「よっしゃ!」

「っ。ぼ、僕的にはお嬢様には逃げて欲しいのですが…」

「三人を置いて?それとも魔物共を引き連れて?」

「…。…、ですよね」

(チマ様は、チマ様だから。…未来は分からないけど、チマ様を守れるように立ち回らないと。絶対に来年までチマ様を連れて行くんだ)

 四人は覚悟を決め、寮の食堂から簡単な食べ物は腹に入れてから再び魔物が跋扈する学園へ向かう。


 スパゲッテ・スパ・バキュー。レベル47。槍聖【1/1】、槍術【20/67】、勇者【20/??】、身体能力強化【10/80】、敵性感知【5/43】。他。


―――


 基本的には死角が多くなる学有林区画を中心に立ち回りつつ、逃げ遅れた生徒を見かければ道中の簡単な護衛を行い、再び戦場へと戻っていく。

 チマはスキルがなくとも身体能力に優れているのだが、長期的な体力は持ち得ない。故に適度に姿を表しながら戦闘を行って休憩を挟む。

「はぁ…はぁ…、自分から言っといてこの為体…はぁ…、恥ずかしくなるわね」

「チマさんは戦闘スキルないんだろ?この強さは異常だぜ」

「はぁ…はぁ…夜眼族だからね。……身体能力には優れているのよ」

「周囲の魔物は大方狩れています。少しは休憩時間を用意できそうですね」

「よかったぁ…」

 壁に凭れ掛かったチマは、ズルズルと背中を擦って尻餅をつく。

「…っ逃げ遅れた生徒も、もういません。声とかを聞かない限り、っ戦いに専念していいと思います」

「そっちも良かったわ。…時期を見て屋内戦へ戦場を移しましょ、校舎への被害は否めないけれど軍が動いた場合、私たちが生き残れる確率が上がるし、魔物のほぼ全てが大柄で屋内戦では不利よ」

「そうですね。回復魔法持ちの私がいますからある程度の籠城も可能だと思います」

「…ただ」

「ええ、分かっているわ。『正心』と鉢合わせになるという裏目があることは覚悟しないといけないわ。最悪の場合は四人で対処も視野に入れないと。……だけどなんで仮面が外れなかったのかしら」

「。…チマ様は、何故、仮面が外れると?」

「そんな気がしたのよ。誰かが仮面を剥がして事態を収めたような気が。…可怪しいわね、そんな記憶あるはずないのに」

 すがめたリンがチマを観察するも不審な点はなく、このせいで知り合ったチマそのもの。

「統魔族の支配を受けた者は、『勇者』が仮面を引き剥がすことで支配権を奪えます。パスティーチェへ来る前に、とある方から教えていただきました」

「成る程。となるとビャスとスパゲッテなら、あの教員を統魔族から助けられると」

「そうなります」

 詳しいことを聞こうとしないチマにリンは安堵し、ビャスは視線を逸らした。

「数度顔を合わせた程度の教員だけども、私はパスティーチェ国民は救ってあげたいと思っているの。…危険なことだけど協力してくれるかしら?」

「当たり前よ、なんせ『勇者』だからな!」

「っお嬢様ならそう言ってくれると思っていました」

「なら時間を稼がなくっちゃね!夥しい魔物を打ち払うにはシェオとゼラの協力は必須よ!」

「おう!」「「はいっ!」」

 チマ一行は立ち上がる。勝利を目指して。


―――


 騎馬三人は鎧の魔物に追われながらジェノベーゼン学園の外郭道路を速歩はしらせていた。

「ちょっと馬さん!もっと走れないんですか!?」

「駄目。軍馬じゃない。だから―――」

 ゼラは場上で身体を反転させて小銃型の魔法銃を構えて引き金に力を込める。

「起動。」

 発砲音と共に銃身から放たれた弾頭は真っ直ぐに空を貫き、魔物の兜の内にある本体へと命中した。弾頭は魔力を有する対象へ命中することで内に仕込まれた残響炭が反応し、組織細胞を残響炭化させながら破片を飛び散らせていく。

 その破片の一つ一つは別の魔物へ命中し連鎖反応を引き起こす。

炭造弾たんぞうだん!?ドゥルッチェの騎士はなんてものをパスティーチェに持ち込み、市街地で使ってるんですか!?」

「これはパスティーチェで買った。問題ない」

(問題だらけだ…)

「狩り残しは私が、フーア!」

 風魔法の慈鳥カラスは身体の一部を吹き飛ばされた魔物の傷口へ突き刺さり、自爆で止めを刺す。

「ものの見事にお嬢様の姿をしたラザーニャが狙われていますね」

「纏まってくれて楽。だけど、この先にパスティーチェ軍」

「馬の体力は厳しそうですね」

「超えるのも無理」

「学園へ入りますか?」

 ゼラは首を横に振る。

「先の通り抜けた交通規制の反応。パスティーチェ軍とチマ姫様救出を行える可能性がある」

「そどれほどの確率ですか?」

「五分。チマ姫様を確保し差し出すのであれば、全力で妨害を行い捕らえていたはず。それをせずに衝突及び対峙の際に起こるであろう、チマ姫様への被害を見据え引いたことを考えると」

「半分はいけると」

「。起動。」

 肯いたゼラは団子になり始めた魔物の一団へ、炭造弾を打ち込み甚大な被害を押し付けては小銃型の魔法銃を投げ捨てた。

「炭造弾は二発しか手に入らなかったから、救出のために人手がほしい」

 後方の足は止まったものの、直ぐ側面から魔物がなだれ込んできては格子を突き破って襲いかかる。

「馬には悪いけど走らせる」

 あぶみに乗せた足で馬の腹を刺激し襲歩はしらせては、前方に構えるパスティーチェ軍へと一心不乱に向かう。

「御三方!こちらへ!後方の魔物を一掃いたします!」

 賭けに勝ったとゼラは口端を上げる。

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