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一二話 Aiutati che Dio t'aiuta. ⑤

 パスティーチェ中央議事堂集合議会場。国政を担う議会員らが侃侃諤諤かんかんがくがくと白熱した議論を交わしている場所である。

 そんな議会の中にいる彼らの耳にも『正心』の声が届き、議会そっちのけで喧喧囂囂けんけんごうごうと議会員らが騒ぎ立てた。

(始まりましたか)

 ピッツォーリは自身の胸ポケットから宝飾のある金細工の鍵を取り出して、議会が静まるまで眺めている。

「緊急事態につき無礼の突入をお許しください。私はパスティーチェ軍、」

「第四大隊隊長だね、ご苦労さま。状況は?」

「はっ!ジェノベーゼン学園の上空に仮面をした者の姿が映し出され、獣貰じゅうせいの枝葉及び『勇者』の要求を行い、当学園を中心に穢遺地が広がり始めました。敵は統魔族、穢遺地から発生しているであろう魔物は『無廟むびょうかい』と予測されます」

「ジェノベーゼン学園、」

(“予見”された地点に於いて最悪の一つ。ピッケーリさんやアゲセンベの姫君無事だと良いのですが…。…、私は私の未来に背きましょう、最善を尽くすため)

 一度息を呑んだピッツォーリへ議会員たちの視線が集中する。

「皆さんが知っての通り、私にはこれといった才能が有りません。ただ家柄と優秀な父祖父曽祖父と脈々継がれてきた椅子に座っただけの案山子かかしです。ですから、私自身の失態でこれから椅子に座る子たちの未来を潰したくないのですよ」

「テリーナ元首、まさか貴方は!!」

「静かに。ですが部下の失態、その責任を取る形で席を降りるのであれば、私は納得できる。席を譲れる。……第四大隊隊長、そして将軍閣下、此処に鍵が一つあります。理解、できますね?」

 第四大隊隊長の後ろから現れた軍事最高顧問へと鍵を差し出すと、小気味よい靴音を響かせピッツォーリの前へ躍り出て鍵を奪い取る。

「緊急事態につき我々パスティーチェ軍はテリーナ元首を一時拘束し、本緊急事態の対処への全権を担う!敵は現代に蘇りし統魔族!守るべきはパスティーチェ国民全てだ!それには今後の戦火の火種となりうるドゥルッチェからの賓客ひんかくを、五体満足、一切のきず無く保護する必要がある!議会員たちよ、パスティーチェ軍に従え!!」

 思うところは多々ある議会員、然しシャランと音を立てて現れたファールファを目に、三人が手を組んでいることを理解する。

「鍵の使用が確認されました、対緊急事態構成女王連隊プラエトリアニの使用を許可します」

(陛下、未だ少し早いです)

「…。」

「「…。」」

「…、『女王の鍵』を今此処に使用しました!第四大隊隊長、各部隊に伝令を!」

「はっ!」

 各議会員たちは総統を中心に臨時指揮を形成し迅速に動き始める。

「損な役回りばかり、いつもすみませんね」

「今さらですよ、学園に通っていたときからじゃありませんか。…陛下の『予見』に背き、指揮を将軍に委ねましたがどうなるんでしょうね」

「握手でもしますか?」

「やめときます。アタクシにゃその度胸がありませんので」

 ファールファが椅子に腰を下ろし、ピッツォーリと慌ただしい議会場を眺めていれば、通路の方から賑やかしい声が響いては老人とロバが姿を見せた。

呵々かか、やっとるのう」

 編笠を被り色付眼鏡サングラスをした皺と傷だらけの小柄な老人は、自身より長い槍を担いで議会場を見渡す。

「レッテ翁!?」「貴方どうして此処へ?!」

 上擦った声を上げたのはピッツォーリと将軍。ファールファも驚きの表情を露わにしている。

「弟子である玄孫やしゃごから連絡があって、山を下ってきたのよ。あの様子じゃと、山で見張ってたら間に合わなかったんじゃろうな、呵々」

 レッテ翁。パスティーチェの歴史に名を残す怪傑で、九刃聖にも在籍していたことがある御人。そしてスパゲッテの高祖父であり師でもある。

 普段は『無廟の鎧』が現れる穢遺地の監視と掃討を行っている、未だに現役の一一〇歳だ。

扠々さてさてどう動いたらいい?」

 色付眼鏡を外したレッテは鋭い眼光で一同を見据える。


―――


「―――というわけで我々パスティーチェ軍はプラエトリアニを用いて穢遺地と化したジェノベーゼン学園から、市街地へと魔物が進めぬよう市民の避難と防衛を行っています。ドゥルッチェからの賓客であるアゲセンベ・チマ様に関しましても、我々は国土の守護を行うことを最たる任務としている為、戦争へ発展するであろう可能性を排除すべく救出作戦を計画中とのことです」

「やはりお嬢様は学園内に」

「脱出した生徒さん方がアゲセンベ・チマ様ら四人に助けられたと複数人証言なさっていますので」

 パスティーチェ軍と合流する事になったシェオら三人は、情報提供を受けて顔を見合わせる。

「まさかアゲセンベ・チマ様が逃げておられたのかと思い驚きましたよ」

「いやーすみません。私はチマ様の影をしている者でして、狙いがチマ様であれば囮になれると同行している次第です」

「我々としてはチマ姫様を最優先で保護したく、突入部隊に参加を願いたい」

「問題ありません。『道神』ジェローズ・ゼラへの協力は惜しむなと上から指示が回っております」

「助かる。ここは守備隊?」

「はい、突入部隊は―――」

 ドン、ドンと大きな物音を耳にした一同は視線を学園の方へと向け、統魔族の仮面をした巨大な『無廟の鎧』を確認する。それは何かを探すように頭を動かしており、ゼラは小さく唸る。

「ラザーニャ・ラザ・ベシャールメ」

「はい。なんでしょう、ジェローズ騎士」

「変身スキルは他人へも使用できる?」

「出来ます。離れると効果は切れますし、自身を含めて一人にしか出来ませんが。後、声は自前の技術です」

「突入部隊にはキャラメ・シェオが一人で向かえ。私はアレを討つ。…チマ姫様が学園内に残っているのは、周囲に被害を出さない為、だと推察できる」

「…承知しました。ご武運を」

「。」

 肯いたゼラは拳銃型の魔法銃をパスティーチェ軍から借り受け、自身の準備した魔法道具と共に巨大な『無廟の鎧』を見据える。

「それじゃ変装スキルを使いますので、交戦区域を広げないようお願いします」

「。」

 肯き再び。


 シェオが突入部隊へと合流すべく走っていると、見知った…という程に出会った記憶はないが、ピッツォーリの息子であったと思い出せる相手。彼は逃げ延びてきた生徒の確認作業を行っていた。

「貴女はアゲセンベ・チマ様の従者殿!」

「はぁっ、はぁっ、どうも…」

「そのご様子ですと彼女とは未だ合流なされていないのようですね…」

「ええ。お嬢様のことはご存じないですか?」

「内部で他の生徒を助けるために躍起になっており、侍従殿と護衛の騎士殿へ『自分たちは学園内で魔物の相手をし、統魔族を討ちに向かいます』と伝えてほしいと触れ回っているそうです」

「…成る程。言伝ありがとうございます、生徒会長閣下。私は突入部隊と共にお嬢様たちの救援へ向かいます。入れ違いになった場合はお伝え下さい」

「委細承知しました」

 シェオは一礼をし、走り去っていく。

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