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一二話 Aiutati che Dio t'aiuta. ⑥

 剣と槍による斬撃刺撃を紙一重で躱したチマは無廟むびょうかいの側面へと移動し、そのまま鎧の隙間を狙うように踏み込もうとするのだが、彼女を狙うように一本の矢が飛来して飛び退る。

(今まで見なかった遠距離武器?発射元は…いた)

「北方向に弓矢を使う魔物が出たわ!四腕四脚、計八肢の魔物よ!」

 周囲へ報告を済ませたチマは返答を聞くこともなく身体を屈め、放たれた矢の如く勢いで飛び出し、馬のような下半身をした魔物へと急接近する。

 然しながら敵もただ殺られるだけではなく、近接持ちの及び盾持ちがチマの進行を阻害すべく立ちふさがり、武器を振るう。

「見えているわ、そして見落とさない」

 ざり、と地面を抉らん程に利き足へ力を込め、近接持ちの股下を潜り抜け、弓持ちの首を刎ねた。

 地面に落ち、転がる頭部には蓮の花托のように無数の眼が並んでおり、人によっては嫌悪感を示す見た目であろう。チマとしても気持ちの良いものではないので、視線を逸らし追撃の為に踵を返した無廟の鎧たちへ向き直るが。

「す、隙だらけです」

「チマ様突っ込みすぎですよ!」

「そうだぜ」

 三人がサクッと討伐し残響炭へと変えていく。

「前衛三人だから遠距離持ちはなるべく早く倒したかったのよ。リンが回復を行えるとはいえ体力は温存しないと、…いつまで戦闘が続くかはわからないわ」

 一度呼吸を整え、周囲を見渡せばそこら中に残響炭が転がっており、戦闘の苛烈さが一目で理解できる。

「リンさん、その小さい怪我、なんですけど」

「直しちゃいますね、カイラ。お二人は…大丈夫そうですね」

「俺は厳しいお師匠サマに鍛えられてるからな!これくらい余裕だ!」

「おかげさまで戦闘にいくらか余裕があるわ。三人だけだったらもっと疲弊しているはずだし」

「役に立てたなら良かったぜ。俺としても三人がいてくれるお陰で乗り切れてるんだがな!はっはっは」

「ふぅ…、お師匠様ってどんな方なの?」

 地べたへ腰を下ろしたチマは、スパゲッテを見上げながら問う。

「俺の爺さん爺さん、高祖父こうそふなんだが、老人とは思えないくらいに強くて、俺に『勇者』があると見たら彼方此方の穢遺地に連れて行っては魔物の中に放り出されたんだ。死にかけると助けてくれるんだが、死にかけるまでは暇そうに見ているだけで、本当に厳しいお師匠だぜ…」

「もはや虐待ね。だけど、それでスパゲッテはこの強さと」

「まだまだひよこだって言われてるけどな!」

「ふふっ、なら私がスパゲッテを頼りになるんだって認めてあげるわ」

 スパゲッテは恥ずかしそうに、くしゃっとした笑顔で笑い首を掻く。

「ありがて。俺もさ、チマさんリンさんビャスの三人は背中を預けられる戦友だ!国が違うことが惜しいぜ」

「ドゥルッチェに移住してもいいのよ?」

「お師匠や色んな人にぶん殴られちまうよ」

「冗談よ冗談」

 戦場とは思えないほどに和やかな雰囲気で雑談をしていると、食堂に姿を見せる猫がチマたちの前に現れ、追ってこいと言わんばかりに何度も振り返っては駆け出す。

「…。追ってみようかしら?」

「猫ちゃんが逃げ遅れているのかもしれません」

「っ、必要なら助けましょう」

「だな」

 猫に誘われ四人が走り出した少し後、四人が休憩したいた場所に『正心』が現れては周囲を探る。

「この辺りが一番新しい戦闘跡だが…逃げられたか。…我が生み出せし同胞たちは妙に外へと向かっている、分裂して我々を撹乱しているのか?…愚かなり」

 仮面に手を置いた『正心』は、仮面の着いた『無廟の鎧』と視界を同調させれば、魔法銃を二梃構えた夜眼族と戦闘を繰り広げているではないか。漏れるような笑いを口に、勝利を確信してから別の対象へと移す。するとそこには覚えのある気配と、槍を携えた老人の姿。

「封印の地で暴れていた枝葉か……戦力を集中しなければ。来たれ我が大隊、永劫回帰えいごうかいき星霜せいそうは経た。睡中すいちゅう夢幻むげんは散った、さあ!今立ち上がれ!」

 仮面を着けた無数の魔物を生み出した『正心』は軍隊を形成してレッテの許へと向かう。

 『勇者』持ちなど眼中になくなったと言わんばかりに。

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