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一二話 Aiutati che Dio t'aiuta. ⑨

八貰臣はっせいしんキーウイ様、どうか安らかに」

 チマは遅れながら跪き自らの祖先へ礼を行うのだが、それと同時に脳内へと声が響く。

(キーウイが取り込まれ力の一部とされていたとは、『均衡きんこう』の策略は上手くいっているということか、面白胸糞悪い。確実に今回で終止符を打たなけりゃな)

(また声が…、貴方がキーウイ様が言ってた『盲愛もうあい』?)

(そ。俺ちゃんは統魔族を裏切って神族の勝利に大きく貢献した功労者『盲愛』ちゃん、愛の求道者ともいう、くひひ)

(うさんくさ…)

(そういわないでくれよ、俺ちゃんは『怠惰』の琥珀ちゃんに力を貸すって決めてるんだからさ)

(他の統魔族みたく、身体を奪って好き勝手する心算つもりなんでしょ。どうやって追い出したらいいのかしら)

(絶対そんな事しないって!アーダスちゃんに誓ってもいい!)

(最後の神アーダス様のこと?)

(そう!)

(…。よくわからないけど、誰かに悪さをするってなら絶対に許さないってことは忘れないで。…今はやらなくちゃいけないことがあるのだから)

 盲愛との会話を半らで切り上げ、チマは屋上から全景を見渡し敵の配置を探る。

(くひ、『正心』の奴、殆どの魔物を率いて一方向へと進軍してるじゃないの。これは好機だと思うんだけど)

(そうね、校舎を起点に後方に戦力が集中してる。…けど右側面にも大きな魔物が見えるから、左方向へ進んで逃がしてしまうのが一番ね)

(デカいのがいるとはいえ、大群に気取られる可能性がある左側は危ないんじゃね?)

(正面は抑えているパスティーチェ軍が多くいることが予想できる。今現在の私たちがどういう立ち位置かわからない以上、なるべく安全を取れる方へと進みたいの)

(しっかり考えているんだな、くひひ。ならさっさと行動したほうがいい、キーウイが開放された事は『正心』も感じているはず。悠長している時間はないぜ、『怠惰たいだ』の琥珀ちゃん)

(…チマ。私はアゲセンベ・チマだから)

(あいよ、チーマちゃーん)

(こいつムカつくわね…)

 若干の苛立ちを覚えながら、チマは屋上から身を乗り出し壁伝いに地上へ降り、倉庫へと向かう。


―――


(…!キーウイが解き放たれた?……、)

 仮面に手を置いた『正心』はチマに扮したラザーニャと戦闘を行っている無廟の鎧へと視線を移した。すると手投弾が炸裂する瞬間であり、『正心』との接続が無理やり剥がされる。

(『勇者』か?…枝葉の頂点では神族への呪縛は外せない、となると他にも獣還りに類する存在が?)

「呵々、どうした統魔!考え事でもしておったか?、儂相手に余裕じゃのう!!」

 巨躯『無廟の鎧』の頭を一薙ぎで斬り落とし、迫りきた他の魔物を突き刺し、齢一〇〇を超える御老体とは思えないほど機敏なレッテは『正心』へと肉薄し槍を振るい。然しながら槍は杖で叩きとされ、『正心』は距離を取る。

「人、いやなんじゃった?…枝葉、である儂から逃げよったな!」

「なにを」

「儂ゃ槍を使うて一〇〇年、土に眠った耄碌者もうろくもんにゃ荷が重かったかのぅ、クカカ!」

(………こいつはいつでも狩れる。いざとなれば再び目を覚ました時でも構わない。だが)

 いくつかの魔物を盾に『正心』は前線から離れる。 

「逃げよったな。…若造共!此処が正念場じゃぞ!!」

「さっさと道を開けてください!フーキ!」

(お嬢様から離れている影響から力の制御が出来ませんが、大量相手であれば!)

 荒ぶる風を圧縮し力の制御を無視して撃ち放てば、敵軍に命中すると同時に風の刃が扇状へ広がっていき、学園の土地ごと荒らしては魔物を微塵切りにした。

「はぁ、…キツイですね。……ですが道は出来ました」

 シェオが肩を落とし進もうとするとレッテが目の前に現れ顔を覗き込む。

「若いのによくやるのう!儂に着いてこい、仮面の統魔を討つぞ!」

「はい!」


―――


「猫ちゃんたちも一緒に行くわよ。ここは危ないかもしれないんだから」

「にゃー」

 アノーリとグイネを、リンとビャスが背負い、チマは猫たちに話しかければゆったりと立ち上がりチマの周りに寄る。

「向かうのは校舎を正面に左側方向、足を止めずに走り抜けましょ。私が先頭を、後方の警戒はスパゲッテ、送り届けたら統魔族の対処を行うわ。アレは戻って来るはずよ」

(屋上でなにかあった、けれどチマ様は何も言わない。けれど『正心』が戻ってくるのは、きっと本当。シェオさんもゼラさんもいない状態で上手くいくかはわからないけど、)

 「こんなところでは終わらせはしない」と意気込み、チマの後を追う。

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