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一二話 Aiutati che Dio t'aiuta. ⑩

「それじゃあここで。周囲に敵の気配を感じないし、もうパスティーチェ軍が見えるわ」

「ありがとうございます、アゲセンベ・チマ様。ご友人の皆様」

「さあ行って。此処は戦地、当事者以外は被害を負うべきではないわ」

 二人と猫たちが学園区画外へと向かうと姿を見つけたパスティーチェ軍が保護するために進み出す。

「此処が正念場、…正念場よ。シェオとは会えず仕舞いだったけど、成し遂げてみせなくっちゃね」

「シェオさんと会いたいですか?」

「会いたいわよ、当然でしょ。…………」

「どうかしました?」

「いえね、今までなら信頼しているって言ったのだろうけど、なんだかそれだけじゃない気がするのよ。なんなのかしら?」

(くひっ)

「え?マジで言ってるのか?」

「マジなんですよ…」

「あら、わかるの?」

「自分でお気付きになってください、チマ様」

 あまり恋愛事に詳しくないスパゲッテも呆れる鈍さのチマは、一度深呼吸をしてから校舎へ身体を向けた。

「いきましょうか」

「はい」「っはい!」「おう」


―――


「お一人で向かわれるのですか?」

「。」

「我々も部隊を分け協力体制を敷くことは出来ますが」

「パスティーチェ軍、いえ対緊急事態構成女王連隊プラエトリアニは国民を護るために動いて」

 ドゥルッチェ騎士式の敬礼を行えば、パスティーチェ軍人は一糸乱れぬ動きで敬礼を返し、校舎後方、レッテとシェオたちの方へと走り出す。


「お主シェオじゃったか、なんか可怪しな力の出し方をしとるが、随分と腕が立つのう!」

「どうも」

「弟子にしてやろうか?」

「仕える主、生涯を掛けて支える相手がいますので」

「残念じゃ」

「それにドゥルッチェの民ですし」

 風の慈鳥を飛ばし無数の魔物へ攻撃を仕掛ければ、仮残しを軍人たちが始末し、大物が現れればレッテが対処を行う。

 そんな中、巨躯『無廟むびょうかい』が多く現れ壁のように立ちはだかるのだが、側面から魔法銃の発射音と手投弾の爆発音が響き渡り。

「チマ姫様は?」

 ゼラが合流を果たすのであった。

「こちらに相手の大多数が進行し合流できていません。正面やジェローズ騎士のいた方面以外から逃げてらっしゃればいいのですが…」

「…。…ドゥルッチェ第一騎士団、ジェローズ・ゼラ合流する」

 無言の否定をした後にゼラも突入部隊へと加わり、掃討と進行を開始した。

「なんかようわからんがドゥルッチェの民が多いのう」

「相手の狙いである三人の内、二人がドゥルッチェ出身ですので…」

「『勇者』と獣貰。…まあスパゲッテがいるのであれば大事には至らないじゃろうが、統魔はちと荷が重いか。これもいい修練となろう」

 千切っては投げ千切っては投げを繰り返し、確実に足を進めていると地響きが伝わり、校舎の大規模に崩すほどの大きな魔物が現れ、拳で校舎を薙ぎ払う。

「瓦礫ッ!?防御魔法持ちは急ぎ展開を!それ以外の人員は急ぎ魔法や障害物の陰へ!」

 降り注ぐ瓦礫を目に、シェオはグッと拳を握りしめ脳内に魔法を想像する。

「全てを弾き返す暴風の防塁、フーイ」

 出来上がりしは軍全体を護るほどに広がった風の防御領域。砲弾とも思える勢いで降り注ぐ瓦礫を全て受け止めては弾き返し、パスティーチェ軍を護りきった。

「やるね」

「ども。そんなこと言っている場合ではありません!あんなのが出たのならば、お嬢様たちがあの場所にいる可能性があります!」

「。」

「急がねばな」

 三人を起点に突入部隊は全身全霊で突撃をする。

吶喊とっかんじゃ!!」

「「うおおおおお!!」」


―――


 キィィン。校舎内を四人が散策していると、目にも止まらぬ速度で突き進んできて『正心せいしん』が杖を振るい、ビャスが受け止めてからスパゲッテが反撃を行う。

 届かぬ矛先ではあったものの、杖で払った隙を突くようにリンが金箍根を伸ばして、チマが足を切り裂かんと飛びかかる。

「甘いわ」

 チマの剣を踏み落とし、リンの一撃は掠った程度で直撃とは言えない。

(こんなんじゃ駄目、さっき見たキーウイ様の動きを思い出し)

 ひらり舞う柳の葉のように『正心』の背部へ斬り掛かれば、服と薄皮一枚を裂くこととなる。

(今の感じ、)

「その動きィ!キーウイかァ!!」

「よくご存知で、これは避けられて?」

 口端を釣り上げ刃を振るうと、リンが根で足を払いビャスとスパゲッテが『正心』を取り押さえようと試みた。

小癪こしゃく!だが、甘いッ!」

 校舎内という閉鎖的な空間にも関わらず、壁から『無廟の鎧』が現れビャスとスパゲッテを狙い始め、チマの心と表情に焦りの色が広がりを見せる。

(拙い、拙いわ。ビャスとスパゲッテは取り押さえようと動いているし、リンも対処は不可能。武器が振り下ろされるまでは幾分の猶予もない)

(…――――。)

(なにかわからないけど!!使えるものは使わないと!!)

 心、いや魂の内側から殻を突き破って現れた、知り得ないが熟知している感覚。それを無理やり引き出せば。

 ―――――。

(これが、『絶界ぜっかい』、なのね)

 チマを中心とした極狭い範囲内にいた、彼女以外の存在は全て行動を無理やり停止と阻害させられた。その隙に床を蹴ったチマはビャスを押しのけ攻撃の軌道上から外し。

(もう一回の絶界は、立て直そうとするビャスの動きまでもを邪魔しちゃうから)

 床に片足が付いた瞬間に瞬間移動である『影歩えいほ』を使用しスパゲッテを狙う魔物の腕を斬り落とす。

「枝葉風情が!!」

「枝にはね、花も咲くし実も成るのよ!石炭なれはて風情!!」

 魔物の腕を斬ったチマは、ぐるりと身体を捻り回し魔物の首を落としてから、視線の先に数多現れた魔物を狩るべく駆け出した。

「そいつの事は任せたわ!私は、露払いに徹するから!」

 返答を聞くことも振り返ることもなくチマは駆け出し、続々と現れる魔物を一網打尽に突き進んでいった。

「私たちに目もくれないとは」

「いい度胸じゃねえの!!」

「ッ!」

 ビャスは壁から現れた魔物を倒し、三人で『正心』へと立ち向かう。

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