雑多に現れる無廟の鎧をすれ違い様に斬り伏せ、窓を突き破って外へと出ると『
(上だ、上から来る!)
身体を空宙で捻り灰色の空を瞳に収めれば、幅広の剣を携え上空から迫りくるキーウイの姿。一瞬の間だけ身体を強張らせたチマだが、落下軌道を割り出し最低限の動きで着地と回避を行う。
(キーウイ様がなぜ!?)
(ありゃ
(笑ってる場合じゃないわよ!)
(言ったろ偽物だ。さっきの本物と比べりゃ雲泥の差がある)
(…そう)
チマが腰を落とし攻め込む準備をするが、相手はこれといった構えを取ることはなく、雑な踏み込みから荒い剣線を描くだけの木偶人形であった。
(なるほど、汚い剣術。でも速いわ、ねッ!)
制服の端を切り落とされながら回避し反撃を試みるも、幅広の剣で軽々と防がれ握り拳が迫りくる。
偽キーウイは大きく隙を晒したチマへ剣を振り下ろすのだが、柔軟性と運動神経が頭抜けている夜眼族相手、耳に僅かな切れ目を入れる程度しか被害を与えられない。
地に足をつけていなかろうと、上半身と下半身を異なる角度で捻ることで自在に身体を回すことが出来る猫に近い特徴を活かし、息を入れる間もなしに遠心力で剣を振るえば、鈍い金打ち音と共に両者の剣へ
(早すぎるわ、なにあれ)
(…。どっちもどっちだろうに。…だが、偽物のキーウイは夜眼の剣術を使っていないし、さっき使ってた技を用いれば良いんじゃないか?)
(絶界は範囲を調整しきれないし、出せるかどうかはわからない。だけど―――)
相手の踏み込み剣を振るう瞬間に、後ろへ逃げる体勢を見せつけては更なる深い踏み込みを誘発し、チマは影歩を使用し一瞬で姿を消し去ってから、偽キーウイの真後ろへ出現、胴を真っ二つにしてみせた。
(便利ね、これは)
(…。)
(なんか言いなさいよ)
(つくづくティニディア周辺の奴らは化け物だっておもってさ。『正心』をはじめ、数多くいた統魔族を一柱で封印していったのはティニディアと八の子らだけだぜ…)
(流石ご先祖様)
霧散し残響炭となった偽キーウイ、派典『
「剣、折れちゃったんだけど」
(形振り構わなくなったな、『正心』ちゃん)
超大型『無廟の鎧』は腕を振るい校舎を瓦礫の雨へと変えていた。
―――
チマが離れていってから
動きが悪くなった原因はといえば、チマの対処を行うため操っている教師とは別に魔物を操作してることなのだが、そんなことはお構いなし。
主に切り込むのはビャス。チマから多少離れていても、実力を遺憾なく発揮できているのは修練を欠かない証左。常に相手の視線に居続け存在感を示しながら、スパゲッテを動きやすくするため尽力していた。
一歩、二歩、頭部の動きに合わせて身体を進め、ドゥルッチェ騎士式の防御に長ける剣術で翻弄。重い杖の一撃は剣で受け流し、間合いに踏み込んだり、踏み込む
二人が駆け引きをしている間、死角になるであろう位置に足を進めるのはスパゲッテ。レッテに叩き込ま得れた槍術に、直感的に相手が嫌がるであろう場所取りを行って、『正心』が振り返ろうと隙を晒せばリンが一撃を叩き込む。
仮面に打ち込まれた一撃は『正心』の操る本体、学園の教員へ損害を蓄積させるだけの効果はあり、一瞬たじろいだ瞬間、『勇者』二人が動き出す。
近寄ってきた二人を薙ぎ払おうと杖を振るうのだが、それはリンの
「終わりだぜ『正心』!!俺達をナメたツケを払えってんだ!!」
「ッ!」
「!!」
二人が手を掛け力を込めた瞬間、仮面に触れる手には光が漏れて軽々と剥がれてしまう。
「よっしゃ!!」
「っや、やった!」
「大成功です!!先生の治療をしないと、カイラ!」
崩れ落ちた教員に駆け寄れば、身体のそこら中に怪我をしており、『正心』によって無理をさせられていたことがよく理解出来る。
リンは回復魔法で治癒をしながら仮面の方へと視線を向けると、裏面には無数の瞳がギョロギョロと動いており、血の気の引いた顔で指を指す。
「どうし、―――うおぁキッッッモ!!捨てるぞビャス!」
「え、あっはい」
二人が仮面を投げ捨てると、カランコロンと床を転がり、わずかに端が欠けるのだが完全に破壊するには至らず、小気味悪く動き始めた。
「ぶっ壊さねえと拙いかもしれねえ!」
スパゲッテが槍で突こうとした瞬間。校舎は大音を立てて超大型『無廟の鎧』によって上部を吹き飛ばされたのであった。