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一三話 新芽! ②

 チマとピッツォーリが雑談をしている中、部屋の外が賑やかしくなってきて、彼は席を立つ。

「アタシはそろそろ失礼しますね、楽しいお喋りの時間でした」

「楽しいお時間でしたので、また機会がありましたら歓談、ふふっ四方山話よもやまばなしに耽りましょうか、お喋り閣下」

「お喋り閣下ですか、…悪くありませんね。ではアゲセンベの姫様、お元気で」

「貴方もね」

 学友とは異なる、くだらない内容を気軽に話せる友人であるとピッツォーリを認識したチマは満足気な表情を露わに、バラの用意した茶で喉を潤す。

「外の声的にスパゲッテたちね。バラ、お菓子とお茶を人数分お願い」

「承知致しました」

 外で対処を行っているリンの華やかな声を聞き、扉が開かれるのを待っている間にゆったりとした態度へと切り替えた。

「チーマーちゃーん、元気?」

「ええ、元気よ。皆もどう?特にスパゲッテは怪我をしていたでしょう?」

「問題ないぜ!軍の医務官に丸二日拘束されて回復と健康診断されたからな!」

「良かった。皆も好きに腰掛けて頂戴、お菓子とお茶を用意させているところだから」

 腰を下ろしお茶を飲んだペリーニェは、すれ違った相手を思い出し。

「さっきのってさ、ピッツォーリ元首?」

「そうよ。面白い方でね、一時間も話し込んじゃったわ」

「そんなに!?政関わるのって大変なんだね〜」

「殆どが雑談よ」

「そう、なの?」

「ピッツォーリ元首がファールファ陛下と同い年で学園に通う以前から交友があったとか、美味しい食事処のお話しとかを聞かせてもらったのよ。気の良い小父おじさんだったわ」

 実際に雑談が大半で、チマがお喋り閣下と呼んだのはそれが切っ掛け。蔑称ではなく愛称や敬称に近い。

「そんなことよりも、ふふっ、美味しいと噂のお菓子を沢山用意したから遠慮なく食べてね。楽しいお茶会よ」

 バラとラザーニャが街へ繰り出し、購入してきた一級品のお菓子を並べれば、ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえチマは笑みを零した。

「本来なら数日多く学び舎で過ごせる予定だったのに、…本当残念。あなた達の賑やかさが恋しくなっちゃうわ」

「チマちゃんが帰っちゃうのは悲しいなぁ」

「もっと色々教わりたかったぜ」

「なんで教わる側なの…?」

 笑い声と共にお菓子を食む学友たちからの嬉しそうな悲鳴が響いては、チマも一口食む。

「おいしっ」

「チマさんって夏休み的なのでパスティーチェにやってきてて、戻ったらそのまま勉強再開なんだろ?大変だよな」

「何事もなく帰れればマシュマーロン領で休暇を過ごし、自宅でも二日前後を休める予定だから問題ないわ。スパゲッテもドゥルッチェあたりに遊学してみたら?歓迎してあげるわよ?」

「いや、間に合ってます…」

「ふふっ」「「あはは!」」

「まあでも、ドゥルッチェに足を運ぶことがあったら一報頂戴ね。私がパスティーチェにまた訪れる時は連絡するから」

「待ってるし、ドゥルッチェの建国祭には顔を見せる予定だから、忘れないでね!」

「皆を忘れられるわけ無いでしょ、到底無理な話しよ」

 チマたちは賑やかにお茶会をし、最後まで笑い合っていた。


―――


 部屋を出たペリーニェは、リンの隣に歩み寄っては耳元に口を寄せひそひそ話を行う。

(今度会う時に、チマちゃんとシェオさんがどんな感じで進展したか教えて?)

(分かりまし、わかったよ。ペリーニェにもいい人で来たら教えてよ?)

(いいよ〜。そうそう、ビャスくんとの報告も忘れないでよ?)

(それは恥ずかしいかなぁ)

(あはは、じゃあね。今度会う時はもっとお話しできるといいな)

(私もどう思ってたんだよね。護衛の時は気を張ってたし、ボウリングの時くらいだもんね?)

(うんうん。またねっ!見送りにはしっかりと行くからっ!)

 ペリーニェはリンへ手を振り。

「ビャス!」

「はいっ!」

「俺はイケてる男だ、湿っぽい別れなんて言わねえ!『勇者』同士互いに頑張ろうぜ!」

「っはい!す、スパゲッテさんよりも強くなります!」

「そいつは無理だ。ビャス以上に修練を積んで最強になるんだからな!国は違うが困った事があれば頼ってくれていいぜ、弟分『勇者』」

「…。っ、はいっ!スパゲッテの、あ、兄貴…」

「へへ」

「えへへ」

 ガシッと握手を組み交わし、まばゆい笑顔を見せ合う。

(リンは夏季休暇中だったから遠慮してたのだけど、もっと連れて行っても良かったわね)

 友情を微笑ましく思いながら、来客詰めの疲労を発散するかの如くチマは長い伸びをする。

(チマ様はどうやって絶界や影歩を使ったかを語ってくれないし、こちらからも聞き難い。シェオさん曰く『一瞬だけ仮面を着けている姿が見えた』なんて話だし、何があったの?)

 リンの胸には一抹の不安が宿り、どうしたものかと考え込む。

「っさ、寂しくなるね」

「だね」

(とりあえずは様子見しつつ、情報はレィエ宰相に共有しとこ。…統魔族と交戦したなんて、どう報告したらいいんだろう…、本当に…)


―――


 船出の日。

 チマ御一行を見送りに来たパスティーチェ国民で港は溢れかえり、軍人や警官が対処に回るまでの騒動になってしまった。

「本来ならペリーニェたちと別れの挨拶でもしてから船に乗る予定だったのに…」

「何処から情報が漏れたんでしょうね…」

 ひらひらと手を振り笑みを贈れば、熱狂的な声援が湧き上がる。

 そんな中、港の建物の上に顔を薄布ヴェールで覆った女性が現れ、ゆったりとした所作で礼を行う。

「ファールファ陛下も見送りに来てくれるなんて、身に余る栄誉よね」

「え、女王陛下がいるんですか!?」

「ほら、あの建物の上に、…消えてしまったわ」

「残念です。一度くらいはお目にかかりたかったのですが」

「何れ会えるわよ。…そんなことより、リンとシェオはこれからが大変なんじゃない?」

「「う゛っ」」

 これからは船旅。行きの地獄を思い出し、二人は顔を青くした二人へ小さな笑みを向けたチマは、自身の心に宿った新たな目標、そしてそれに伴って踏み越えた感情へ向き合う。

(スキルを欲していた欲しがりな私はここでお別れ。次にパスティーチェへ足を運ぶ時は一回りも二回りも大きくなって、私自身に胸を張れるようになっているチマわたしだから。…愛おしいホーク―の都市と共に)

 心の新芽を揺らす暖かな風はパスティーチェで指し示された一つの未来。


―――


 ジェノベーゼン学園魔物襲撃事件後、レッテを中心とした退役軍人らが観測及び管理を行っていた穢遺地にて、穢遺地の領域範囲縮小と魔物の出現数低下が確認された。

「呵々。あの時、スパゲッテが封印されし統魔族を討ち滅ぼしたのじゃろうなぁ」

「となると…『勇者』がいれば統魔族を駆逐し、アタクシたちヒトの領域を増やせるということでしょうかね?」

「そんな事をすれば残響炭の産出量が減り資源不足となる」

「別の資源を探せばいいのでは?」

「坑道でも掘れと?」

「ええ」

「…埋蔵量を知らないとはいわせんぞ?」

「…。そもそもの話し、統魔族が目覚める条件がわかりませんよ?」

 ピッツォーリと軍最高顧問が言い争っていれば、ファールファが割って入る。

「あんなのがほいほい出てきてもらっちゃ、スパゲッテへの負荷も大きすぎるしのう。…見たところドゥルッチェの『勇者』もまだまだ未熟あおい、脂が乗るまで一〇年二〇年は育てたいわい」

「そこまで現役でいるつもりですか?」

「呵々」

 レッテは笑う。

「然し驚いたぞツォーリ。まさか私にクーデターを起こせと提案してくるとは思わなんだ」

「仕方ないじゃありませんか。私が国家元首として事態に関われば『アゲセンベの姫様は命を落としドゥルッチェとの戦争となる』なんて予見されてしまえば、こうする他ありません」

「私が委任された場合は『勇者』二人が失われ、パスティーチェからドゥルッチェへの感情が悪化する。…八方塞がりのような予見からよくぞ抜け出せたものだ」

「未来は一つではないということですよ」

「先々代も有していたが、難儀な力じゃのう」

「呪みたいなものですよ」

 微笑んだファールファは膝に飛び乗ってきた子猫を撫でてから菓子を一口食む。

「難儀なのは私だけではありませんし」

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