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一話 無事の帰還! ②

 マシュマーロン領から王都へ戻ってきたチマは、アゲセンベ家の蒸気自動車へと乗り込む。

「それじゃあメレとロアはまた学校で。ゼラも長い間ありがとう、また釣りでもしましょ」

「はいっ!」「それじゃまたー」

「。」

 メレとロアは旅客車を拾い、ゼラは迎えに来た騎士団の車輌へと乗り込む。

「リンはうちまで来るのよね?」

「はい、パスティーチェでの報告をおこないたいので。名目上は護衛ですし、明日はビャスくんと出かけますので」

「ご報告に行くって言ってたわね。…、返りがてら供物を用意しましょ。私からの気持ちも届けて頂戴」

「っよ、喜ぶと思います」

 使用人は微笑ましい表情を露わに車輌を発車させる。


「お父様!お母様!ただいま帰りましたわ!」

「チマ!大きくなったね!」

「お帰りなさい、チマ」

 勢いよく二人に飛びついたチマは、頬に口付けを行って両親を堪能する。

「パスティーチェはどうだった?」

「学園では多くの友達が出来ましたし、国民の方々にはよくしてもらいましたわ。ふふっ、ピッツォーリ国家元首や、女王陛下にもお会いしたんです」

「女王ファールファに?」

「ええ、一度は社交の場で。二度目は見送りの場にこっそりと」

 驚いていたレィエは、ちらりとリンへと視線を送り、何かがあったと悟る。

(あの女王との謁見、いや邂逅は非常に難しい。それこそただの遊学と観光に行っただけの相手に、自ら顔を見せることなど先ずない。統魔族に関する事象が発生したと考える方が無難だろうね、ブルード・リンがこちらへ来たのもその報告だろうか)

「ではゆっくりと土産話を聞こうかな」

「喜んで!」

「…、ところで彼女も付いてきているのだけど」

「ラザーニャは私の従者として雇うことにしましたの。良いでしょ、お父様?」

 可愛らしい娘のお強請ねだりに、レィエは満面の笑みで快諾した。


「先ずは何からお話ししましょうか。重要なことからですと…統魔族からの襲撃があり対処のため戦闘行為を行いまして」

(やはり、か)

「それは大変だったね。見たところ怪我はないけど、身体は大丈夫かい?」

「治療していただいたので問題ありませんわ」

(少なからず怪我はしたと。…)

 平常心を取り繕っているレィエではあるが、内心は穏やかではなく心の底からは怒りの熱が溢れ出している。

 チマが基本的な事を話し、他の面々が補足していくのだが、『盲愛』やキーウイといった彼女しか知り得ない情報は口外することない。

(統魔族の協力を得てた、なんて言えないわよね…)

 これに関してはチマに情報を共有していない者たちにも非があるのだが。

「――――、というわけでピッツォーリ元首から、名誉国民勲章をいただきました。パスティーチェでは国民と同等に扱ってもらえるそうです」

「パスティーチェが…、随分と気に入られてしまったようだね」

「見送りに列挙した国民の方々の熱気はものすごいものでした。本当に…」「はい…」「っですね…」

 シェオの発言にリンたちは頷き遠い目をした。

「なら今後は、今以上にパスティーチェとも仲良くしないとね。チマに良くしてくれる国家は優遇しないといけない」

「洒落になりませんよ…。……、お父様」

「なにかな?」

「実は私、パスティーチェへの外交職を務めるのも悪くないと思っていますの。デュロの手助けをするため政務に携わるのであれば、人気の多くあるパスティーチェへ向けるのが良いと思ったのです」

「ほう…。だけどそうなるとパスティーチェへ長く滞在する事が多くなってしまうね…」

「在外官となればそうなってしまいますわね。ですが私は役に立つと思いますし、私自身も悪くないと思ったのです。パスティーチェ情勢の影響を大きく受けるので、頭の隅にでも置いていただければ嬉しいです」

「…チマ。……こんなに成長するなんて、お父さんは嬉しいよ。だけど距離が出来てしまったようで悲しくもあるかな…」

「お父様ったら…、未だ未だ二年も三年も先にある話ですわ」

「直ぐそこだね…」

 悲し気な表情をみせたレィエへチマは距離を詰め、そっと頬を寄せた。

(私には、いや私たちにはそれまでにやらなくてはならないことがある)

(夏休みは終わった。ゲームと違って何がどう動くかはわからないけど、チマ様を護りつつチマ様と一緒に来年へ向かうんだ)

(先ずは再来年の建国記念祭。まあでも今できることをやっていくしか無いわよね、遠くばっかり見過ぎて転んでも面白くないもの)

 知る者と知らざる者の溝は思ったよりも大きい。

「そうそう!なんとマカローニがね、私を絵画に収めてくれましたの!」

 話題を変えたチマはラザーニャに絵画の布を外させるのであった。


―――


 帰宅よりも先に登城したゼラはロォワとラチェ、デュロが待つ歓談室に足を運び、慇懃な礼をしてから椅子に腰を下ろす。

「久しいねゼラ、休暇は如何だった?」

「カトラスフィッシュを釣り、チマ姫様たちと夕餉の一品として舌鼓を打ちました。やはり釣果を友と共に味わうのは楽しいと言わざるを得ません。あぁそうそう、来年への予行演習としてマシュマーロン領の浜でチマ姫様と釣りを楽しんだのですが、やはり筋が良く来年の野営会が今から楽しみで仕方ありません」

「釣りの話をしろとは言ってないのだが…」

 珍しく喋ったかと思えば本当に休暇を満喫して返ってきたゼラに、ロォワたちは呆れ半分である。

「。」

 肩を竦めたゼラは机の上に置かれている密書に視線を向けた。

「……全く以て、運が悪いというかなんというか。可愛い姪っ子は厄介者に狙われ続けているようだ」

「ただ今回はおまけだった。そんな気もする」

「狙われているのも事実、だろう?」

「。」

 デュロからの問いかけにゼラは肯く。

「チマ姫は、記念祭の事を考えると重要なお方。学校の護衛の増員、お屋敷の方への派遣も行いましょうか?」

「学校の方は周囲に気取られることなく増やせるのなら問題ない」

「屋敷は…レィエが嫌がるだろう。アゲセンベの従者らはかなり特殊だし、彼女がいる以上問題あるまい」

「「…。」」

 苦い顔をするラチェとゼラに対し、デュロは首を傾げた。

「そういえば報告漏れ。インサラタアのウォルドラ侯爵家嫡男をチマ姫様が布陣札で圧倒し、道具一式を勝ち取ってた」

「「「……。」」」

 男三人は天井を仰ぐ。

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