(星を苗床にして育ち、星の寿命と共に種を黒き空へ飛ばす、そんな植物があった。名前はウィティウゥス、俺ちゃんたちの原種であり、星を呑む災厄でもあった)
(星にも寿命があるの?)
(…まあそれは置いておこう)
(…。ええ、そうね)
(…チマちゃんたちの基準だと、…だいたい一〇〇億くらいだから気にしなくていい。わかった?)
(一〇〇億年!?随分とお星は長生きなのね…。とりあえず進みましょう)
進行を行うチマに『盲愛』は僅かばかり呆れつつも面白がり言葉を続けた。
(そんな馬鹿デカい対象を食い物にする、とんでもない植物がいてそれが俺ちゃんたちの原種だったわけだ。気が遠くなるほどの昔に、何処かの星の命が尽き果て、ウィティウゥスの種が黒き空へと放たれ長い長い旅の終わりに、この神族が住まう星へと飛来した。果てしない空からの飛来物として神族らは興味を持ち、種の一つを回収し研究を行っていたんだが、回収しそこねた一つの種が地上に根を張り侵略を始めることとなったんだ)
(あー…、侵略的外来種っていうやつね)
(そんなところ。元々星を喰らうほどの化け物植物だが、当時の神族っていうのも今とは比べ物にならない力を有して地上を収めていた頂点種族、問題なく対処できていたんだ)
(ふむ。なら問題なさそうにも聞こえるのだけど)
(事件が起きた。星を苗床にするって言った通りウィティウゥスは寄生系の植物なんだが、研究の為に回収されていた種子が神族への寄生に成功してしまったんだ。そいつが神族の身体を苗床にして種子を生成、ばら撒くことで神族にも寄生できる新種のウィティウゥス、いや統魔族として活動を始めることとなる)
(…。)
(原初統魔族というのは俺ちゃんたちと違って、未だ未だ知能も発達していなかったんだが、短い期間で次の種子を作り出し散布する能力に長けていて、瞬く間に次の次の次の世代へ受け継がれ多くの神族の力を糧にしちまったんだ。原初統魔族ってのはウスノロで力も強くない存在だったから、気がついた神族によって滅ぼされたんだが…)
(もうその時には既に)
(そういうこと、神族の世は面白可笑しい事になっちまったんだ。そっからは自我が芽生えた統魔族と神族との大戦争。統魔族の全てを地中に封印することはできたけど、神々は誰一人として肉体を維持できず隔離の世で傷を癒やしている。んで地上を去る前に、神族たちが地上の管理者として生み出したのが神の枝族、チマちゃんたちってことだ。くひひ)
(…掻い摘んで話してくれたみたいだけど、かなり壮大な内容ね…)
(外来種ってのを駆除しようとしたら共倒れになっちゃいましたって、しょうもない話しだよ)
(…、ご先祖を悪く言われているようで気に食わないわね)
(悪い悪い)
チマは本を読み進めている体で考えを纏め、一つ質問を行う。
(『盲愛』はどうして神族に付いたの?最後の神アーダス様を懇意にしているようだけど)
(くひっ、聞いちゃう?長くなるぜ~)
(掻い摘んでお願い)
(俺ちゃんは統魔族とウィティウゥスの交雑から生まれた存在でな。誰も来ないような山中に根を下ろしのんびりと少していたんだ、今だとルーラー山脈って呼ばれる、あの山の中。星の支配とかどうでもいいし、…あんまり統魔族とも馴染めていなかった俺ちゃんが、一人面白く過ごしていた時に一人の神族が俺ちゃんの許へやってきて一言『まあ可愛らしいお花ね』なんて言うもんだから驚いた。当時は大戦争が始まる少し前だが、統魔族やウィティウゥスは神族からすれば憎き敵、そんな相手に掛ける言葉じゃないと関心を持ち、一目惚れしたんだ)
(それがアーダス様)
(御名答、ラブだぜ☆。それからアーダスちゃんと俺ちゃんは面白く大切な時間を過ごし、…戦争へと時間が進んでしまった。大好きなアーダスちゃんは神族で俺ちゃんは統魔族、敵対する関係にあったが傷付けようなんて気は微塵もなく、討伐されてしまうならそれもまた運命だと受け取る心算だったんだが、………アーダスちゃんから味方に加わってほしいと打診があって、もう即答!身体の一部を提供し、統魔族とウィティウゥスに対して有効な手段の礎となった俺ちゃんは、神々が地上を去る中でルーラー山脈の一角。出会い語らった場所に特殊な封印をしてもらったんだ。統魔族の動向を監視する為にさ)
(なるほど。見事な裏切り者ね。…貴方からは嘘偽りを言っているように思えないから、端折っている部分はあるにしても真実なんでしょうね)
脳内に同居している統魔族の『盲愛』が敵ではないことを確信したチマは、椅子に凭れ掛かっては目を伏せる。
(………。私は何をするべきなの?強大な相手である統魔族なんかに太刀打ち出来る気がしないのだけど)
(くひひ、チマちゃんはチマちゃんとして自分の思う、自分が必要だと感じる面白い事をすればいい。世の中は成るようにしか成らないから)
(難しい事を言ってくれるわね)
(そっちのが絶対に面白くなる。俺ちゃんからのラブ、受け取ってほしいんだけどな)
(愛の求道者だっけ?捧げる愛は一人、いえ一柱でありなさいな)
(いいこと言ってくれるじゃないの。だけど、アーダスちゃんは博愛主義だったから、俺ちゃんもそれに則るってわけ。ありがとねチマちゃん)
(こちらこそありがとう。一つ疑問が解かれたわ)
(どういたしまして。他には?)
(また必要な時に聞くとするわ)
(りょーかーい。じゃあ俺ちゃんはまた眠るから、聞きたいことがあったら起こしてね)
(おやすみなさい)
(おやすー)
脳内に響く声はなくなり、チマの身体は再び一人となり、知り得た情報を纏めながら神学書を読み進める。
(口外は出来ないわね)