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二話 統魔族! ④

 爵士の叙勲に際し必要な手続きを王城で行っていたシェオは、肩の凝る説明や山のような書き物を行って漸く解放されることとなった。

 今回の手続きで書類上は爵士の地位を持つシャラメ家の当主キャラメ・シェオとなり、貴族の義務として申告収入額から一定の割合で特定の機関への寄付が義務付けられることとなる。

 これは『奉仕の原則』と呼び、「国民は誰であろうと他人の為、より良き国家を築き社会奉仕を行う義務がある。」というドゥルッチェ王国憲章から発展した義務の一つとなっている。

 …まあ名目的には税金ではないのだが、爵位を有している以上発生する出費なので、税金であると批判し不平等を理由に撤廃を求める者もいなくはないのだが。それはそれ。

(手続きに梃子摺りましたね…。とはいえこれで私も貴族、新参者とは言えお嬢様が受ける誹りは減るでしょう。…一貴族として恥のない立ち振舞を心掛けねば)

 居住まいを正し書庫へと戻ろうとすると、通路の角から複数人を引き連れたバァニー・キィスが現れ、恭しく一礼をした。

「久しいね、キャラメ爵士」

「バァニー伯、お久しぶりです。市井でお会いした以来でしょうか?」

「そうなる」

 意味深な笑みで取り巻きを散らせると、キィスはシェオへ一歩寄り声を潜めた。

「どうかな、バァニー家に“戻って”くるのは?爵士を叙爵された今、一貴族として肉親たる私の許へ戻るのは悪くないと提案だと自負している。やはり長く貴族をやっている家であり、多くの者が傘下にいる派閥、何かと教えられる事が少なくない。父として頼ってくれも良い」

「…。」

 シェオは柔らかな笑みを作り一歩引いた。

「いやぁ申し訳ございません、バァニー伯。私には身に余るご提案ですので、謹んでお断りさせていただきます。陽の目に当たらぬ薄汚い場所の出身故に、恩義に背いてしまうこともあるでしょう。そうなった場合に泥を被ってしまうのはバァニー伯で、耐え難い苦痛となってしまうのは必定。…ですので私は密やかに、自分自身に出来る事に従事しようと思うのです」

「そうか。いや、そうですか。口惜しさも感じますが、無理強いをしては角が立ってしまいますから、私もここで引きましょう。ですが、もし気が変わったら気兼ねなくお尋ねくださいね、キャラメ爵士」

「是非」

 表情を作ったシェオは急いで彼らの許を去っていく。

「少し、遅すぎたか」

「別に必要ないのではありませんか?」

「必要で声を掛けたのではないさ。邪魔をされんように懐柔をしたかった、それだけの事」

「そうですね。本人は兎も角、あの女の対処に必要な人材は多いことに越したことはありませんから」

 キィス一行は自身らの職務を全うする為、踵を返す。


 書庫付近までシェオが歩みを進めると、デュロら一行と出くわし頭を下げて通路脇へ避ける。

「シェオ、爵士になったのだな」

「はい。デュロ殿下の護衛を務めた、その功績がったのですので、この場を以て感謝をお伝えしたく」

「受け取ろう」

「ありがとうございます、デュロ殿下」

「あの時は私に付き護衛に努めてくれたこと感謝するよ。その地位に恥じぬ行動を示すようにな」

「承知いたしました」

 その場で跪き最大の礼を示す姿は貴族であり、アゲセンベ家でよく鍛えられていることが窺える。

「して殿下。お嬢様にお会いになられたのですか?」

「ああ。帰ってきて登城したのにも関わらず、一直線に書庫へと向かったのだから、此方から足を運ばねばな」

「お嬢様が信頼し甘えておられる証ですね」

「ふっ、光栄と受け取るか。…頑張れよシェオ、私も応援してやるからな」

「ありがとうございます」

 男同士多くは語らず、差し出された拳を拳で小突いてから、過ぎ去っていくデュロの後ろ姿を見送った。どこか、一回り大きくなった気がする背中を。


「それじゃ今日はありがとうね、ミザメ騎士」

「いえいえ、チマお嬢様からのご依頼であれば第六騎士団は誰であろうとお供いたしますので!」

「頼もしいけど、騎士なのだからドゥルッチェの為に尽力して頂戴ね」

「はっ!」

 顔を出した数名の騎士へ手を振り笑顔を向け、チマは第六騎士団を後とする。

「帰り掛けに近くの祭祀殿に寄ってくれる?」

「構いませんが、王城内のでは駄目なのですか?」

「此処のは面倒じゃない」

「まあそうですが、どこでも同じな気がしてしまって…」

「気分の問題よ、気分」

 車輌の後部座席に腰を下ろしたチマは安全帯をきっちりと締め、神族に祷りを捧げる祭祀殿へと向かう。

「然し珍しいですね。チマ様は祭官からの視線を嫌がって、年一の敬祷もお屋敷で略式敬祷を行い終わらせてしまうじゃないですか」

「神学に触れたから一応ね。寄付金は足りる?」

「問題ありませんよ」

 「よかった」と呟いたチマは車窓から街並みを眺め、沈みゆく太陽に目を細める。

 異なる神が祖になる夜眼族ということで胡乱な瞳を向けられながらも神族への祈りを捧げ二人は帰宅する。

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