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三話 学芸を踊る! ①

「さて、それじゃあ秋に行う学芸展の話をしましょうか」

 夏季休暇が終わり季節は秋の林檎月。授業が再開されてから数日が経って、生徒会室には生徒会役員たちが勢揃いしていた。

「学芸展って仰々しい名前ね。学問の催しをするのかしら?」

「ははっ、名前に反して緩い催しでしてね。生徒たちが自ら学んだ事の成果を公表し、それを家族が見に来るというだけです。学ぶ事も自由で、『料理の学び』や『装飾品の学び』という体で自主制作作品を出展販売する者もいました。それらに関しては、貴族の子供が多く通う場所ということがあって、厳正な審査が入りますけどね」

 バァナの説明にチマは頷き納得していく。

「基本的に各生徒毎が独自に班を形成し、複数人で一つの出展を行う形式だけど、それとは別に生徒会も何かしらの催しを行うこととが慣例となっているよ」

「出展自体はしなくても問題ないけれど、成績に加算されるので、参加しない人は殆どいませんね」

「大変にはなってしまいますが複数掛け持ちしてもいいのですよ」

 デュロら二年生が補足をした。

「そんなわけで生徒会の催しを決めたいのですが、今すぐにと催促しても良案が押し潰されてしまう可能性が否めません。今日は例年の催しを振り返り、参考とする時間にしましょう」

「そうね」「はいっ!」

「では資料を」

 三年生の役員たちが事前に準備をしていたようで、全員の前へと資料が渡され各々が目を通す。

「なんで学芸展で武闘会があるの…?」

「武闘派が多く生徒会に務めていた時期なんだろう。ダンスの方の舞踏会が無いのは、学芸展の最終日に設定されているからだね」

「ふぅん。学芸展のダンスでは困らないようにしたいわね」

「そうだね」

 二人の会話に事情を知らされていない生徒会役員らも状況を察し、抽選会が必要ないのだと胸をなでおろした。

「斜め読みすると芸術系、特にお芝居や演奏に偏っているわね。その学年が違うからなんら可怪しい部分はないし、今年もそういった方向で行くべきではあるけど」

「…、此方に視線を向けられると困るのだけどね」

 デュロは肩を竦めつつも、事実自身が表立って動く方が都合がいいとも理解している。

「演劇とかにしますか?」

(ゲームの進行をなぞれるのは大きいし、生徒会の面々は顔が良いんだよね。でも一つ罠があって、チマ様が生徒会に加わっているという点。少なくない変化は避けられない)

「昨年と被って連続してしまうけど良いのかしら?大まかに眺めると…出し物が連続したのは二回だけ、被せないという不文律があるのではなくって?」

「え?あっ、ホントですね」

「禁止されているわけではないのですが、毎年先輩方からやんわりと違う催しをしたいと提案されましたから、不文律があるのは確かでしょう」

「はい!発言をしてもよろしいでしょうか!」

「どうぞウィスキボン君」

 挙手をし、許可が下りれば立ち上がったリキュは立ち上がりハキハキと話し始める。

「野営会で行うことの出来なかったパンケーキ会をやるのは如何でしょう!大きな鉄板も、使わずのまま倉庫の肥やしにしてしまうのでは寂しいものがあります」

「成る程。良い案なんだけど、元の計画から考えるに生徒会外の者に多くの協力を願わないと出来ず、生徒会としての催しとしては扱い難い。ですので学芸展の日程に組み込めるか、教員室で相談してみましょうか」

「はっ!」

 バァナの返答に一同は頷き、パンケーキ会という意見には概ね前向きである。

 少しずつ吐き出された意見を皮切りに、侃々諤々と盛り上がっていけば、楽器演奏に決まりそうになった。

「あ、あの、私も良いですか?」

 そんな中で怖々おずおずと声を出したのはメレ。

「演奏だけでなく、歌唱や踊りも合わせませんか?生徒みんなが踊るのではなく…、デュロ殿下やチマ様、バァナ会長を中心にした組み合わせを、…舞台上で。皆様見目麗しく、人気が出るかなぁと思いまして」

「良いと思います!!」

(アイドルライブってことでしょ!イケメンと激カワのチマ様ならめっちゃ映えるって!)

 リンはノリノリである。

「舞台上で歌って踊るってこと?歌劇、というよりは音楽劇かしら」

「…はい」「ですねー」

「成る程。演劇要素がないのであれば昨年と被らないが」

「良いのではありませんか?私、殿下、チマ様、各学年からという体にすれば余計な邪推も振り払えましょう」

「はい、その心算の人選ですぅ…。ただ、デュロ殿下とチマ様が抜けてしまわれると、演奏面がやや弱くなってしまいますので私たちの練習は必須になります」

「鍛錬は欠かせませんね…」

 リキュはやや沈んだ表情である。

「私は問題ありませんが、殿下とチマ様は如何でしょう?」

「演奏から歌唱とダンスに変わるだけなら問題ないわ。私は然程体力がないから、予定の調整はしっかりとしてくれるなら特にね」

「私の方も問題ない。必要であれば演奏を披露することなく、努力が水の泡になりかけた知人も呼ぼう」

(結構上手くやってるのね)

 誰が、という事を察したチマは言葉を聞き流す。

「協力者を求めるのは良いのですか?」

「限度はあるけどね」

「外部の方でも?」

「多少は」

「承知しました!」

(悪いことをしないといいのだけど)

 悪巧む笑みに一抹の不安を抱きながら、生徒会役員は各々の役割を決める。

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