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三話 学芸を踊る! ②

「ポピィ先輩プファ先輩」

「なんでしょう?」

「お二人が作詞作曲をなさってくれるじゃないですか、そこでお願いをしたいことがありまして」

「お願い。私たちも未だ素人、出来ることには限りがあるのですが…出来ることは致しましょう」

「大変なことだとは重々承知で、ですが!三人分の楽曲と全体曲を用意して欲しいのです。一曲一曲は短めで構いません、同じ楽句を繰り返し用いてもらうのも手段の一つかと」

「四楽曲…となると難しいので、楽章毎に担当者を変えて最終楽章を三人にするのは如何でしょう?」

「それって実質的に四曲作るのと変わらないのでは?」

「ははっ、気分的なものです」

「その辺はお任せしちゃいます。作詞作曲は分からないので」

 ポピィとプファに要望を伝えたリンは、自ら志願した監督として生徒会役員の間を駆け回る。

「私たち三人はどうしたらいいのかしら?」

「曲がなければ歌唱と踊りの練習もできないから待機だろう」

柿月11月は忙しくなりそうだから、身体を鍛えて待つとしましょ」

 活気づいている役員を目にチマとデュロは微笑みを零す。


―――


 アゲセンベの屋敷へ帰宅したリンは、レィエの帰宅を待って相談の時間を求める。

「どうしたんだいリン君?」

「実は学芸展の場でチマ様、デュロ殿下、バァナ様のアイドルライブをすることになりまして」

「正気かい?」

「正気です。…提案者はマシュマーロン家のメレさんなのですが」

「……。それで相談というのは?」

「実は記録媒体や演出を行える魔法道具を借り受けたいのです。学校にもそれなりな道具を確認できたのですが限度があって、…煙が出る物とかスポットライト、あとマイクは必要かと」

 椅子に凭れ掛かり考え込んだレィエは顎を撫でてから一人頷いた。

「スモークマシンとスポットライトはなんとかなるが…、マイクは拡声器みたく大きな魔法道具になってしまうが……、記録も含めてなんとかしよう」

「助かりますー」

「やることをやって、チマたちと学芸展を楽しむといい。せっかくの二度目の生なんだ」

「はいっ。…レィエ宰相の前世ってどんなだったんですか?」

「前世?面白いものではないよ。…、生み育ててくれた親を悪く言うのは忍びないのだけど、世間一般からすれば毒親と呼ばれる両親でね。娯楽を禁じられ、朝から晩まで勉強漬けの生活をさせられていただけさ」

「あー…。でもそうなるといつ『甘飾』をプレイしたんです?」

「大学に受かって上京したら一人暮らしを始めるだろう?そこで色々と羽目を外した際にテレビゲームにもハマってしまったんだ。今思えば、もっと上手くやれたと思わないこともないのだけど…、様子を見に来た母が部屋の様子を見て激昂、そこから口論に発展して短い人生を終えてしまった。孝行してやれなかったのが、前世の少ない悔いさ」

「気軽に語りますね」

「もう終わったことさ。語りたくないのであれば語らなくてもいいが、リン君はどうなんだい?」

「私は…親友だと思っていた相手に殺されちゃいました、雨の日に屋上から突き落とされて。それがトラウマで高所恐怖症と軽微な雨音恐怖症を患っています。関係ないんですけど、小さい頃に豆のアレルギーを持っていたみたいですが耐性を獲得し今では食べれるんです」

 暗くならないよう関係のない話しを差し込んで、リンはおちゃらけた。

「……私は未だ、いやきっと死ぬまで納得のできず、親友を恨んで生きると思います。まっ、重篤な精神疾患にならなかったのは救いでした、そうなったらここにはいませんからー。……だから両親、タタンの両親と村の皆には本当に感謝してるんです」

 暗く沈んだ表情のリンは居辛そうに身体を揺らす。

「次の長期休暇に、ビャスは当然として学校の友人たるチマも連れ帰省し、家族へ甘えてくるといい。子どもに甘えられて嬉しくない親はいないからね」

「レィエ宰相がそれを言うんですか…」

 本当に過去と割り切っていると思える表情でレィエは哄笑し、席を立っては部屋の扉を開ける。

「楽しみにしているよ、チマのキャラソンを」

「はーい」


 従者用の食堂でリンとビャスは向かい合い食事をする。客人扱いなのでチマたちと卓を囲むことができるのだが、基本的にビャスと顔を合わせることが多い。

「っ旦那様への相談は、どうだった?」

「チマ様の晴れ舞台でもあるから、快諾してくれたよ」

「良かった。…僕は生徒じゃないけど、手伝える事があったら言ってほしいな」

「うん、その時はよろしくね」

 寮よりも美味しい食事を楽しんでいれば、アゲセンベ家の使用人が寄ってきて。

「お嬢様の晴れ舞台って、学校でなにかする感じ?あっ、お邪魔して悪いね、お熱いお二人さん」

「あははー、照れちゃいますねー」「…。」

 リンは頬を染めて喜び、ビャスは照れながら背を丸めている。

「はは、食前なのにお腹いっぱいだね。お幸せに」

「どうもどうも。晴れ舞台の件ですよね、未だ発表されてないことなんで大っぴらには言えないんですが、学校の催しでチマ様に歌って踊ってもらうんです」

「へぇー、お嬢様が主役の…歌の劇か!そいつは面白そうだね」「お嬢様の舞台ですか、興味があります」「一般にも公開されるものなのか?」

 使用人たちは多大に興味を持ち、リンに詰め寄っては詳細を尋ねるのだが、決まっている事が少なすぎてなんとも言えず、彼ら彼女らの期待に沿うことは出来なかった。

「お楽しみということで」

「はいよ。楽しみに待ってるから教えて頂戴な」

 食事に戻っていった一同に、リンは胸を撫で下ろす。

「口は災いの元って奴だね」

「気をつけないと」

 二人は微笑み合って食事を再開した。

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