年末年始休暇まで後七日といった学期末。
『休暇はどう過ごすか』、なんて話題で持ち切りの学校内。夏季休暇と比べると日数が短く、帰省するほどでもないと残る者もいれば、家族が王都へ上ってきて、数日の宿暮らしをするのだと語るものもいる。
さて、帰省をする者の中にはリンも含まれており、今回は交際報告を行う為にビャスが同行する。
恋人のご両親と会うのだ、失礼のない格好で好印象を持たれたいと、チマらが学校で勉学に励んでいる最中、シェオと共に街へ出ていた。
護衛の二人が抜けることに本人らは異議を申し立てたが、年末は何かと忙しく時間を捻出するのにも苦労する。
シェオが登城し細かな手続きを行う予定もあったのですか、序とばかりに同行を命じられたのだ。
「どういう、衣装がいいんでしょうか…?」
「…、奇抜な格好でないのなら問題なのでは?恥ずかしながら私も職務上の衣服以外は多く持ち合わせておらず、…店員のお勧めで何着か揃えてしまいましょう」
「は、はいっ」
顔を合わせない日はない組み合わせだが、こうして男二人が街へ出たり同時に行動することは稀だが、居づらさなどを感じる事はない。
一直線に服飾店へ向かい端的に店員の助言を貰い、迷うことなく購入を決めた。ここにバラやラザーニャでもいればもう少し時間が掛かったのだろうが、やはり男二人ということで買い物は蛋白に終わってしまう。
「他に何か必要な者は有りますか?短くない期間をお屋敷から離れ、リン様のご実家で過ごすのです」
「っ旅行用の日用品は、夏季に用意しましたので…大丈夫、かと思われます」
「それもそうですね。ならご家族へのお土産を用意しましょうか、出発までは時間もありますから日持ちするもので、果物の缶詰は…リン様のご実家が葡萄農家なのを加味するとイマイチ」
「おっ、お茶っ葉はどうしょう?」
「良いかもしれませんね。茶菓子は道中で購入するのもアリですね」
「なるほど…。ではお茶っ葉のお店までお願いします」
「承知しました」
ちなみにブルード領は限々鉄道が通っている田舎領地。
二人の思い描くブルード領は王都郊外の農耕地帯くらいの感覚であり、『少し寄り道すればそれなりの場所で買い物を出来る』と考えている、都会の住人だった。
そう、希望に沿った菓子折りを買うには、数駅手前か数駅先で降りる必要があることを未だ知らない。
―――
買い物を終えて向かうのは王城の貴族手続庁舎。王城の外郭区域に佇んでいる建物で、中央貴族が足を運び細かな手続きを行う場所だ。
今回はシェオが貴族になったことで寄付金とは別に支払う税金の各種変更手続、そしてシャラメ爵士家を表す爵徴の提出と登録を行う。
叙爵式は来年度の頭に行うことが決定し、それに備えた説明なども簡単に行われるのだとか。
一応のこと、ビャスも何れ爵士の地位を受け取る事になっているので、見学も兼ねて同行している。
淡々と書類へ記入を行い、レィエに相談し作成を手伝ってもらった爵徴を提出すれば、すんなりと手続きが終わる。
「爵徴の制作に何方からかの協力をしていただいていますか?」
「はい、仕え先で制作知恵を頂いています」
「そうなんですか。爵士の爵徴って梃子摺る方が多いので、問題がないことに驚いてしまいまして。良き家に仕えていらっしゃるのですね」
「ええ」
「それでは制作された爵徴は叙勲式にてお渡しいたしますので、期日までに制作費の納金をお願いします。手続き自体は
「えーっと…金額的に足りるので、この場でお支払いしても」
「構いませんよ。ではもう少しお時間を頂きますが」
「承知しました」
(あの歳で爵士を授かって、金子回りも問題ない…。優良物件なのでは!?)
受付の女性は納金の手続書類を取り出しながら、自身への連絡先を書き記し、シェオに手渡したのだとか。
「も、モテますね、シェオさん」
「貰っても困るんですけどね…」
貴続舎から出る際にも二人から住所と名前の記された紙を受け取っており、疲れた表情を露わにしていた。
「婚約者がいるって、っ伝えれば解決したのでは」
「公的に発表していませんので」
「…大変なんですね」
「ビャスの方がきっと大変ですよ」
「ぼ、僕は断る理由を、公言できますのでっ」
「お熱いことで」
「えへ」
これで学校へ戻れる、と廊下を進んでいると、正面からシェオの肉親であるバーニィ・キィスと、妙に人数の多い護衛が姿を見せた。
「これは奇遇。キャラメ爵士シェオ殿とこの様な場でお会いできるとは」
「久方ぶり、ですね。バーニィ政務官」
シェオが挨拶を簡単に済ませ、隣をすり抜けようと歩みを曲げると、護衛らが道を塞ぐかのように展開し、眉を顰めざるを得ない。
「どういうお心算で?」
「此処で会ったのも何かの縁、…どうだろうか、バーニィ家に来たいとは?」
「前にも、しっかりと、お断りを、お伝えしました。私はアゲセンベ家に仕える一従者として、これからも生きていく所存。政務官からの提案に肯く事は御座いません」
「残念だよ。アレの娘は混血故に脅威ではない、君が愛玩するのであれば多少の便宜もしてあげられると思ったのだけどね」
「何を?…ッ!?」
護衛の一人が踏み込みと同時に剣を抜き、シェオの首を狙って躊躇なく振りかざす。
キィン、と音を立てて防がれた刃に、護衛が目を丸くするも、割って入ったビャスはお構い無し。競った刃を叩き落とし、護衛の首へ回し蹴りを喰らわせた。
「た、助かりました」
「ぜ、全然遅かったんで。っどうします?」
目の前の護衛は一五人ほど。威力の制御をおざなりに、殺す覚悟で対抗すれば限々倒せなくもない相手ではあるが。
「撤退しましょう」
「。」
ビャスは小さく肯き、二人はジリジリと後退るのだが、相手は人数を活かして展開した。
同時刻。
王城の各所で第三第五騎士団による武装蜂起が発生し、トゥルト派閥の貴族らが政府機関を乗っ取るために動き出す。