襲撃を受けたシェオとビャスは追っ手を払いながら、王城内を移動していく。
然し王城区域は非常に広いうえ、外部へ出るための通路は第三第五騎士団が制圧を終えており、逃げるに逃げれない状況へ陥っていた。
二人もそれなりに強いのだが、チマと離れてしまっているうえ、相手が人間。殺してしまえば問題なく突破出来るのだが、軍人ではない彼らに求めるのは厳しい決断であろう。
「第三第五騎士団及び、一部貴族の反乱。厄介なことになりましたね…」
「ぼ、僕は王城区域に、詳しくないのですが…、っ何処らへんにいるんでしょうか?」
「私も然程詳しくないのですが、………、先王両陛下の離宮と近い、…有り体にいえば王城区域でも深い位置に入り込んでしまいました」
「脱出は…っ無理そうですね…」
「不敬に当たる可能性はありますが、先王両陛下の許へ向かいましょうか。あの場であれば第一騎士団が警護に当たっています。事情を説明すれば、警護の協力という体で難を逃れることが出来るかもしれません。…何度か足を運んでおるので、顔を覚えられているといいのですが…」
「そ、そこは運ですね」
「!…隠れましょう」
二人は低木を盾に身を隠し、武装した貴族が通り過ぎるのを見送り、行動を移す。
―――
「まあまあ、賑やかになっていますわね」
王后の書類仕事を手伝っていたマイは、王城で騒ぎが起きていることを逸早く察知し、自身のサーベルを腰に佩いた。
「皆さん、此処は私が死守しますので、所定の手順で義姉様を離宮までお送りしてくださいまし」
「マイ…」
「大丈夫ですよ。こう見えても私は強いので」
「いや、それは知っているのですけれど…。無理は為さらず逃げてくださいね」
「ええ。私には夫に任せられている役割もございます故、この程度の障害は小さなものです」
普段ののほほんとした雰囲気は一瞬にして消え去り、獲物を狙う獰猛な狩人に豹変する。
「では行きましょう王后様」
王后に侍女として仕える有力貴族の婦人たちは、決められた手順で隠し通路を開き撤退を開始する。
全員が通路へ消えたことを確認したマイは、通路を固く閉ざし、扉を蹴破って外へと飛び出す。
「結構お早い到着ですね。あの子たちがいないのなら当然ともいえま――」
「アゲセンベ・マイ、王后の剣だ!数で押し、確実に討ち取れ!!」
「人の話は最後まで聞くべきですよ」
飛来する魔法に一切命中することなく駆け抜けたマイは、片手で握るサーベルを最低限の動作で振り抜き、第三騎士団の面々を血の池に沈める。
「知っていますか?カリントの王宮で生まれた女は、降嫁以外で王宮を出れません。然し、特例も存在します。―――」
仲間の死に怯むことなく、一斉に攻撃を仕掛けてきた相手を、いとも簡単にすり抜け、返しの刃で廊下を鮮血で染めた。
「夜眼剣術の免許皆伝、です」
マイが国を出たのは一〇歳のとき。歴史上最速で神聖スキル『刀神』を取得し、教わることの無くなったマイは、圧倒的な実力を以て、数を轢き殺す。
「さて、レィエさんと陛下の救援、義姉様の支援、どちらに向かうべきでしょうか」
第三騎士団を撫切にしたマイは、行き先に悩む。
―――
「ご同行を願えますかな?」
「…。」
王城のロォワの執務室に顔を見せたのは、トゥルト・チェズ。
既に城内の殆どが制圧されており、ロォワとレィエ、政務官数名で敵う相手ではなく、肩を竦めて投降をした。
(……こういった事態が起こるのであれば、年度末だと過信しすぎていた。自分で狂わせた本筋に、足を掬われるとは)
拘束され反旗を翻した騎士たちに連行されていれば、視界の端にゲームで見覚えのある仮面を着用した者がおり、臍を噛む思いで足を進めた。
(紛れ込んだ枝葉の一つは捉えた。残る片割れと『勇者』…堕ちることなかった琥珀を処理すれば、元の流れへと修正できる)
統魔族『
本来であれば、レィエに取り憑いているはずなのだが、…現在は別の者の身体を利用している。
(『正心』が勇者に討たれ、キーウイが解放された。『義憤』は封印の影響で分裂し、『盲愛』に鎮められ、復帰には幾らかの時間を要する。…繰り返しを行い、我々統魔族が力を取り戻すだけの猶予を作らねばならない。……戻ってもらうぞ、『諦堕』なき琥珀)
『均衡』はチェズへと歩み寄り、次の段階へと移るよう指示を出す。
―――
コソコソと王城区域内を隠れ進んでいたシェオとビャスは、夜の闇に紛れて先王の離宮へと向かう。
すると今現在、第一騎士団の一部にマイが混じって、第三第五騎士団と交戦中であった。
圧倒的数量差が見て取れるのだが、トゥルト派閥の士気が非常に低く、マイが多数をものともしない武力で押し返している。
とはいえ、チマと同じく夜眼族。短期的な爆発力であれば優秀なのだが、長期戦となれば厳しい現実が見え隠れし、第一騎士団が間を埋めていく。
(奥様と第一騎士団の援護に出ますよ)
(はいっ)
(殺し合いには気が引けますが、チマ様のご家族をお救いせねば向ける顔はありません)
(っ)
覚悟を決めた二人。
シェオは容赦ない一撃でトゥルト派閥の側面へ風魔法を繰り出し、錯乱状態へと陥った敵軍へビャスが切り込む。