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五話 狼煙を上げるもの ⑩

 順調に足を進めることの出来たチマたちは、前方の小さな光を確認し、警戒心を露わにした。

「チマお嬢はお下がりください。…ちと試すかユーベシ」

「承知しました」

 明かりを手に持ったユーベシは、“第三騎士団と第五騎士団”で用いられる光信号を使用し、作戦の成功を告げるのだが。相手側から返答はない。

 次いで第六独自の光信号を用いると、少しばかり不慣れな動作で光信号が返ってきて、第六の面々は顔を見合わせる。

「手が遅え。身内ではないが、こっちの事情を齧ってるやつだな。警戒しながら進むぞ」

「「うす」」

 チマを守りながら足を進めると、灯りに照らされたのはシェオとビャスであり、半ば身内であった。

「第六騎士団!?」

「おぉ、シェオとビャス坊じゃねえの。こんなところで…!」

 後方に王后と先王両陛下の姿を確認した第六騎士団の面々は、血相を変えて跪く。

「ご無事でしたか王后陛下!先王両陛下!」

「第六騎士団ですか。なるほど」

 探るように視線を巡らせた王后は、姪っ子の姿を見つけて、複雑な顔色を露わにした。

「楽にしてください。チマさん、こちらへ」

「はい。…皆様ご無事で、本当によかったです」

「ええ、貴女もね。…彼らに同行している、ということは王城に向かう心算でしょうか?」

「お父様とお母様、伯父様伯母様の救出が主となりますが、奪還も目標の一つですわ」

「…。………、マイは私たちが逃げるための時間を稼ぐため、殿となられました」

「でしょうね」

「チマさんを危険に晒すのは本望ではありませんが、義妹として可愛がってきたマイを助けられるのであれば、助けたいというのが私の心境です」

「お母様はそう簡単に命を落とすような、やわな生まれをしていませんし、私はアゲセンベ・マイの娘ですよ。お任せください」

(こんな可愛らしい姪っ子に、…)

 満面の笑みを作ったチマだが、付き合いの長い王后には作り笑いだと理解できてしまい、過酷な道を進ませてしまう自身の発言を悔いたくなった。

(ですが、きっと。あの二人の娘ならば)

「ならば護衛を務めてくれた二人はお返しします。こちらの護衛は、第一騎士団がいれば十分でしょう」

「感謝します、伯母様。…隠し通路の地図を製作しておりますので、…ここか…このあたりから脱出していただければ、アゲセンベ家の使用人と出会うことが出来るはずです。もしもの為の控えとして配置しておりますので」

「これを何処で?」

「昔に見たものを覚えていただけですよ。では私たちはお母様の救出へ向かいますので」

「……。ご武運を、アゲセンベ・チマさん」

「はい!」

「チマ、また顔を見せにいらっしゃい」

「危険を感じたら下がるのですよ」

「お祖父様とお祖母様もお気をつけて」

 祖父母に抱きついたチマは二人に撫でられ、僅かな時間を孫娘として振る舞った。

 要人を第一騎士団に任せることで、シェオとビャスはチマ御一行に合流する。

「チマ様!」

「無事でよかったわ、シェオ、ビャス」

「お、お嬢様もご無事で、っよかったです」

 感動の再会がてら、小さな会話を交わすのだが、二人の視線はナツへ向き警戒を露わにする。

「………人質ですか?」

「残念、外れよ。ナツはトゥルト家とは縁を切り、アゲセンベ家の養子として迎え入れたの。当主代理としてね」

「「………。」」

 頭を抱えた二人だが、戦力は一人でも多い方がいい、と無理やり納得し飲み込み。

「言っとくけど、私の妹になるんだから、意地悪したら許さないわよ」

「…はい。…事が終わったら努力します」

「よろしい。それで状況は?」

 問われたシェオは戦況を話し、チマは少しばかり考え込みながら、地図を手にする。

(ただ単に増援として出ていっても焼け石に水。私がいる分、お母様に負担が掛かってしまうかもしれないわ。…となると、挟撃を仕掛けられるのが一番なんだけど、数としてはイマイチ。離宮攻略の本営が…だいたいこの辺となると)

「なんか妙案はありますかね?」

「挟撃を仕掛けましょ」

「この数で、ですか?シェオの話しを聞く分には、この程度じゃ呑まれちまいそうなんですがね?」

「しっかりと作戦は用意してあるわ。ふふっ」

 チマは真面目な表情で地図を凝視する。


―――


 早朝、トゥルト派閥の面々は重い気持ちを引き摺りながら、武器を手にする。

 驚くほど士気が低いのは、戦う相手が同じ国の騎士と、常識外に強い公爵夫人だからだろう。

 上に従わなければ明日は我が身。然し、討つのは同国の、顔を見知った者。士気など上がるはずもなかろう。

 指示のもと陣形を構築し、離宮攻略の為に動き出すと、視線の先には夜眼族の女。

(…既に何人殺されたよ?)

(わかんねぇ…。俺はもう戦いたくねえよ…)

(でも、もう引き下がれねえし…)

 どんよりとした空気の中、指揮官号令の元駆け出し、戦いの火蓋が落とされる。

 ―――!!

 轟音と共に地面が揺れ、騎士や貴族たちは地震だと驚き怯えると、再度強烈な振動と爆発音が響き渡り地面が爆ぜる。

「な、何が!?」

 混乱するトゥルト派閥の統率は見事に乱され、慌てふためいていると、王城区域の壁を突き破りチマ派閥連合が勢いよく飛び出してくる。

「我々、アゲセンベ第六騎士団連合は逆賊トゥルト派閥を討つ!!命が惜しば、今直ぐ投降なさい!!」

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