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五話 狼煙を上げるもの ⑪

「それでチマ様、なにをなさるんです?」

「隠し通路を爆破して、相手の足場を崩し、混乱の渦中に叩くの。ええっと、今ある残響炭的に最大爆発威力は…」

 チマは簡単な計算をしながら、残響炭の配置を考えていく。

「さっきのもですけど、残響炭ってそんな危険な代物なのですか…?」

「普通はしないわよ。ま、来年の蒸機学で勉強することなんだけど、残響炭を使い始めるようになった頃、いろんな場所で残響炭が爆発事故を起こすようになるの。特定のスキルを持つものが、わずかな間に過剰な魔力を掛けることで、融合崩壊反応を起こすから、それを悪用しただけ」

「「………。」」

 事情を知らなかった面々はドン引きである。

「学校で、そんな危険な事を教えるんですね…」

「直接的なやり方は教えないはず。危ないし。あくまで黎明期にそういう事故があったってことを学ぶだけ。やり方は推測と、ちょっと齧った魔法銃の知識よ」

 場所を定めたチマは、騎士たちに指示をして残響炭の運搬と配置、魔法道具を用いた接続を行わせる。

「これなら遠隔爆破も出来るわ。ユーベシ、指示を出したら起爆を頼むわ」

「承知致しました」

「急いで挟撃の準備に取りかかりましょ」


―――


「残響炭爆発ってのを指示したのはチマだろうな…」

「たぶん。魔法銃に関して前に教えてあげたから」

「アゲセンベの屋敷を躊躇なく爆破できるのも、チマ姫様くらいでしょうからね…」

「「…。」」

 王城へ車輌を進めているデュロらは、目立たないよう位置取りをして待機する。

「本当にもうひと騒ぎ起こすと思うか?」

「お屋敷の爆発規模、アゲセンベ家の所有する魔法道具や残響炭を考えると全力じゃない。チマ姫様なら効率的な爆発をできる筈だから、間違いなく王城の一角を爆破して騒ぎと混乱を引き起こす」

「その信頼はどうなんだ…。王城を奪還するのであれば、それくらいしてみせるか…?うーん…」

 デュロはチマを色眼鏡で見ている為に、小さく首を傾げる。

「。」

 鷹揚に頷き、理解者ぶっているゼラを面倒に思うデュロだが、彼女の予想は現実となり離宮方面から爆音が響き渡り、土煙が立ち上る。

「マジか…」

「では進めてください。混乱に乗じて逆賊を討ちますよ」

「はっ!」


 チマが上げた戦いの狼煙は、デュロら第一騎士団だけでなく、方々へ分散させられていた騎士や、トゥルト派閥を快く思わない勢力にも伝播した。

 奪還の狼煙である。


―――


「何が起きている?」

「王城区域、先王の離宮付近で大規模な爆発と、崩落が発生し現場は混乱を極めております」

「報告です!混乱に乗じ、王子殿下及び第一騎士団が姿を現しました!」

「王都に分散していた第二第四騎士団、それと宰相派閥と思しき派閥の私兵が正門に向けて進行を開始しました!」

「だ、第六騎士団とアゲセンベ家の顔ぶれが離宮付近にて姿を現しました!」

 三方からの同時侵攻に、チェズは顔を顰める。

(勢力をまとめ上げるのには最低でも、二日三日を要すると踏んでいたのだが…厄介な)

 三つの勢力は協力態勢を敷いているわけではなく、各々が正義を掲げ勝手に動いているに過ぎないのだが、チマの行った爆破が功を成し、連携して動いているように見えてしまう。

「目的は変わらん。王族を捕らえ、処刑することで貴族の世をドゥルッチェに齎す。正面の第二第四への対処は遅らせても、王族の全てを捕らえるのだ!」

「「「承知しました」」」

 伝令が踵を返すと、仮面を着けた男、統魔族が姿を現す。

「『諦堕』なき琥珀は感じ取れた、此方も動く」

「手が空き次第、正門へと向かってくれ」

「いいだろう」

(『諦堕』の琥珀さえ引き出し処理を行えば、正しき循環へと根が伸びゆく)

 嘲笑した『均衡』は姿を消した。


―――


 離宮攻略を行わされていたトゥルト派閥の面々だが、元の士気の低さと、意味不明の爆発、そして後方から王城の壁を突き破って現れたアゲセンベ派閥により、大半の者が恐慌状態へ陥っていた。

「負傷者は速やかに下がって回復魔法を受けなさい!―――ッ!」

「前に出過ぎですわ!」

「旗頭が前に立たずしてどうするものよ!」

「世話が焼けますわね!!」

 そして何より、トゥルト家の娘である、娘であったナツがチマを護るため立ち回っており、その姿が追い打ちとなって一部の者は武器を放り出し逃げ出していく。

「逃亡兵が出始めた、今ね。―――トゥルトに与するドゥルッチェ王国民!!今ここで干戈を収め投降するのであれば!!悪いようには致しません!!アゲセンベ家当主代理、アゲセンベ・チマが約束致します!!」

 張り上げられたチマの声は、騒乱とする戦場に響き渡り、多くの者の耳へと届き、荒み狂いつつある心へ染み入る。

「「…。」」

 スキルも持たないと多く知られるチマが、サーベル片手に前線へ立ち、敵である自身らに呼びかけ、立ち止まることを訴える姿も、彼らの心を揺り動かす材料となったのだろう。

「俺たちは投降する!」「もうこんなの嫌だ!!」「何が貴族の政治だ!!政なんて知ったことか!!」

 強いられるがまま、指示をされるがまま武器を握り、戦場へ押し出されていた者たちは、躊躇なく武器を捨て去り戦場を離れようとする。

「敵前逃亡など!許されるはずがないだろう!!」

 然し、指揮官は逃げようとする同陣営であった者たちへ、剣を振るった。

 そんな中、戦場にいた全ての者たちが無理やりに動きを止められ、行動がやり直させられる。

「味方を斬ろうなんて!!」

 金打ちの音と共に、指揮官の持っていた剣が弾き飛ばされ、チマがそこにいた。

 絶界と影歩の同時使用で、距離を詰め逃亡兵を守ったのである。

「恐怖支配なんて時代遅れなのよ!!」

 唖然とする相手の顔面を、チマはサーベルの柄頭で殴りつけ、蹴り飛ばしてみせた。

「投降するのなら今しかないわよ!!」

(あの、義姉バカ!!単身で敵陣中央に行くなんて、頭がオカシイのでなくって!?殿下とのお約束を守れなくなったら!どうするというのですか!!)

 突飛な行動をするチマに怒りを覚えるナツは、彼女の護衛を務めるビャスと共に敵陣を駆け抜け、迫り来ていた刃を斬り払った。

「お嬢様、前に、で、出すぎです」

「頭がどうかしていますわ!?」

 愚痴を述べると同時に、風の防壁が三人を包み込み、チマは口端を持ち上げる。

「信頼しているのよ、皆をね」

(…軽々と絶界と影歩を使ってみせたこの女、本当になんなんでしょうね…)

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