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五話 狼煙を上げるもの ⑫

 離宮のトゥルト派閥は、アゲセンベ家と第六騎士団の連合によって鎮圧され、進んで武器を投げた者と、最後まで抵抗をした者で大まかに分けられ拘束される。

「ごめんなさいね。投降をしたフリをして、寝首を掻いてくる方もいるかもしれないから、この騒乱が終わるまでは身柄を拘束させてもらうわ」

 投降組はやっと騒動から離れられるのだと安堵しつつ、悪くはしないと言ったチマに若干の不安も覚えていた。

(第六騎士団とアゲセンベ家の連合は、…強かった)(然し、トゥルト派閥の本戦力をどうにかできるものなのか?)(もう祈ることしか出来ない、か…)

 実際のところ、この連合軍の人数は多くなく、アゲセンベ家の警備は本職の騎士と比べてしまえば練度が低いのだから、彼らの気持ちが分からないこともない。

「わぷっ?!お母様!!」

 連合に指示を出しを行っていれば、返り血や土で汚れきったマイが走り寄って、力いっぱい抱きしめる。

「貴女って子は、こんな危険な場所まで…」

「大事な人たちと、これから背負う国を護るため、ですわ」

「まったく…」

 すんすんとチマの匂いを嗅いだマイは、少しばかりの安心感を得て、気持ちを切り替える。

「ところで……、なにをどうしてこうなったのですか?」

 振り返った先には、王城区域に空いた大穴。

 少なくないトゥルト派閥の者が爆発に巻き込まれ、命を落としており、彼らの心を圧し折った決定打となった行為だ。

「家と第六騎士団が有していた残響炭を、地下道で爆破させたのです。地上と地下の地図を大まかに脳内で照らし合わせ、シェオとビャスが戦闘を行った場所から、相手が陣を敷くであろう場所を割り出し、奇襲を仕掛けました」

「「「…。」」」

 第一騎士団の面々もだが、マイもドン引きしている。


(わかる。わかります。敵だった場合のことを考えちゃう、その気持ち。ゲームのチマは本当に厄介だったし…シナリオ的にはデュロルートで王位に着いて、それなりに上手く立ち回ってたし…)

 回復を担当し慌ただしく駆け回っていたリンは、彼女らの反応に心で頷きながら、一時の休息を行う。

(穢遺地と化している場所はないし、『均衡』の関わっていない、純粋なクーデターだったのかな?)

 警戒こそ続けているリンだが、それらしい相手と状況は見つけられず、地べたに腰を下ろし天を仰いだ。

「お疲れ様、リンさん」

「ビャスくんもお疲れ」

 受け取った水分を飲みながら、ビャスの様子を窺うリンだが、怪我はなく、戦闘で心を悪くした様子もない。

(さっきの戦闘で人を斬ってたけど、…大丈夫なのかな…?…少なくとも私は、良い気がしなかったんだけど…)

「?。…」

 視線に気が付いたビャスは、リンの隣へ腰を下ろし距離を詰め、周りには見えないよう手を繋ぐ。

「き、気持ちを悪くなったりしてない?っその、(人が)死んでるし…」

「ちょっとだけ」

(前世は人の生死が関わる場所に行こうとしてた、けども…。流石に戦場は堪えるね)

 殺したわけでなく、殺されそうになったわけでもなく。

 それでも他人の生死に関わったリンは、今までの自分では居られなくなってしまった、そんな気持ちが込み上げて、ビャスの手を強く握り返す。


「つまり、通路を使っての撤退は出来ないということですね?」

「はい。爆発の影響で通路が傷んでいると思いますので、隠れる目的に使用するのも危険かと」

 僅かばかり考えたリンは、第一騎士団へと瞳を巡らせ、頷いた。

「ならば、私と第一騎士団はアゲセンベ家当主代理である、チマの傘下に加わりましょうか」

「…逆ではないのですか?」

「丸投げするわけでも、責任を押しつける心算もありませんし、補佐も行います。安心して自分の未来を勝ち取るのですよ、チマ」

「はい!では第一騎士団の皆さんを加えた王城解放軍は、拘束された伯父さ…ロォワ陛下及び政務官の救助へ向かいま―――」

(拙いぞチマちゃん!!奴が来る!!)

「―――え?」

「そうはさせん」

 宣言を行おうとするチマ前には、仮面をした男『均衡』が姿を見せて、彼女へ手を伸ばす。

 咄嗟のことにも関わらずマイとシェオが反応をするのだが、軽々と受け止められ、風の槍は霧散し、サーベルは杖で叩き落される。

「ここは邪魔な枝葉が多すぎる。場所を変えさせてもらおう」

 コツンと地面を叩いた瞬間、チマと『均衡』の姿は消え去る。

「なにが、」

 そして、それと同時に、バァニー・キィス率いるトゥルト派閥が虚空から現れた。

「人使いの荒い…。チェズ様が引き入れていたのでなければ、一言文句も吐き出しただろう。…では、対処を行うとする。正門に第二第四ぼうとも迫っているのだから」

「バァニィィ、キィス!!」

 シェオの叫びは、反響した。

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