目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

五話 狼煙を上げるもの ⑬

「また面倒なのが!第一とアゲセンベの皆さんと、第六!!チマお嬢がいなくなった混乱もあるが、目の前の対処を!!」

 キュルが声を上げ、連合の陣形を整えさせようとするのだが、隙を与えるほど悠長してくれるはずもなく、魔法を中心とした戦闘が開始される。

 風の防壁を作り出したシェオだが、戦力差と手数に砕かれて被害が出てしまう。

(拙い。目の前に集中しないといけないのですが!チマ様が―――!!)

(アレは『均衡』、…関わっていると思っていたのに!!)

(お嬢様をお助けしないと)

(殿下との約束が!!)

「「邪魔を」」「「するなァ!!」」

 四人は怒りを心頭に発し、キィスらへ向き直る。


 敵陣へ飛び込んだナツは、顔見知りであった者たちを容赦なく斬り、『剣聖』のスキルに違わない実力を発揮する。

「まさか裏切る、とは。妹ながら愚かなものですね」

「――。邪魔ですわ、トゥルト家の長子」

(絶界は理解が及びませんが、これなら―――)

 一歩踏み込んだナツは、目の前に立ちはだかってきた障害をすり抜けるよう、誰の目にも留まらぬ足運びで相手の裏を取って、躊躇のない一閃で首を落とした。

「さようなら。用意された路を歩くのは辞めましたの。……全員でもかかってきなさい、私は…アゲセンベ家の養女アゲセンベ・ナツですわ!!私を討たずして、この愚行は成し遂げられませんわよ!!」

「チマに問わなくてはならないことが、一つ増えてしまいましたね」

「…あ、アゲセンベ・マイ様」

ときの声を上げたのですから、無様を許すことはありませんよ」

「は、はい」

 明白に追いすがることすら出来ないマイの動きに息を呑みながら、ナツも戦場を斬り進む。


 歯牙を抜き出しにしたシェオは、大地を踏みしめて駆け出す。

「ビャス、リンさん、援護をお願いします!バァニー・キィスが討たれる前に捕縛し、チマ様が何処へ連れ去られたのかを聞き出さなくてはなりません!」

「え!?あっはい!!」「っは、はいっ!」

 後衛を務めるシェオが自陣を、ナツとマイが切り開いた後方を突き進む。迫りくるトゥルト派閥は、手加減のない風の刃で切り裂き、肉薄すれば徒手空拳で対処する姿は、普段とは違った荒々しさが混在している。

(シェオさんの頭に血が昇ってる…。お嬢様が悲しむ結果にならないよう、援護しないと)

(完全にブチギレてる、ゲームでもバァニー・キィスと相対する時はこんなだったけど…!)

 チマを連れ去られ、怒りを露わにしていた二人だが、自身らよりも感情を高ぶらせるシェオを見て、冷静さを取り戻し、キィスを捕縛するため動き出す。

「正面に敵戦力が集中しており、向かって右側面の戦力が手薄です。魔法で道を切り開くので、方向転換の準備を」

「「はいっ!」」

「フーキ!――ッ!」

 作り出された風の大球は、右側面の敵陣を圧し潰さん勢いで放たれ、一部の者は風の魔法で轢き潰され命を落とす。

 他者を殺めた事に、込み上げる吐き気に蓋をし顔を顰めながら、キィスへ肉薄するのだが。

「シェオさん、引いてください!」

「ッ!」

 ビャスの言葉と同時にシェオが進行を緩めると、彼がいたであろう場所には数発の魔法が飛来し、キィスを護るべく数人の護衛が前へ出る。

「始末し損ねた種が、こうして足に絡まるとは…。はぁ…」

「チマ様を何処へやった!?」

「知りませんよ。そもそもアレが誰なのか、トゥルト派閥でも無のある私にすら、説明されていない。知りっこない」

 煽るように肩を竦めたキィスに、シェオは青筋を立てて魔法を放とうとするのだが、強固な魔法の防壁に阻まれ、死角から魔法銃撃が射出され、彼の耳を掠める。

「最終通告とする。そちらから離反し、我々に加わるのであれば、チェズ様に彼女の処遇を君に委ねられるよう進言しよう。獣混じりの顔など大概の民衆には区別がつきませんから、他者を姿を変えさせて代わりに処刑させれば、室内飼いくらいは出来る」

「……。」

 キィスからの戯言を耳にしたシェオは、主であり婚約者を愚弄されたことに顔を歪め、返事をすることなく魔法を放った。

「私の種から生まれたとは思えない愚かさ。やはり市井の血が交じった者は、人として扱えん。…アレは管理されるべき、家畜。…始末しなさい」

「は―――」

 返事をしようとした護衛の首が宙を舞い、赤い天気雨が降り注ぐ。

「行ってくださいまし。…聞く耳に堪えませんので」

「はい」

 言葉を残したナツは足を止める事なく駆け抜け、魔法銃撃を剣で叩き落とし射手を斬る。

(あの方が裏切ったのは厄介ですが…)

 杖を構えたキィスはナツへ願いを定め、風の魔法で応戦するも決定打を与えられず、悪態をつきながら自身を睨めつける息子へと向き直る。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?