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六話 その先へ

 トゥルト・チェズ及びトゥルト派閥の引き起こした、王権打倒の企ては、多くの者の尽力によって防がれ、一旦の収束を迎えることとなった。

 本件解決の立役者であり、トゥルト・チェズを討ち取ったアゲセンベ・チマは、戦闘での負傷により療養に静臥せいがすると発表がなされる。


―――


 パスティーチェ。

「ドゥルッチェ王国でクーデター未遂、ですか」

「事件の解決には、あのアゲセンベ・チマご令嬢が活躍なさったとのことで、パスティーチェの民としては喜ばしい限りです。然し…」

「負傷でもなさったのかしら」

「はい…。重篤らしく…、不安で仕方ありません」

 ファールファは部下からの報告を聞き、彼の聞き取れない声で「やはり」と呟いた。

(パスティーチェが静観した場合、予見ではコインズが宣戦布告をし、の国は戦火に包まれてしまいます。……、パスティーチェの将来を願うのなら、私の選択は一つですね)

「我が国の勇者を招喚なさって。それと同時に、―――」


―――


 王城の一角。

「すまないね、シェオ。君に全てを話してあげられなくて」

「チマ様なら、シェオさんの小さな変化を見逃すことがないと考えて、秘密にしていたんです」

 事件の落ち着かない新年。シェオはレィエとリンから、自身らの事情をロォワらと同程度に打ち明けていた。

 彼らの前から立ち去ったチマは、表向きは療養という形で発表されているが、実際のところ行方不明であり、アゲセンベ家と一部の者にしか真実は知らされていない。

 バツの悪そうな二人に対して、シェオはやや曇った表情のまま考え込み、頷く。

「隠し通すことは…できなかったと思いますし、お二方の考えを尊重します。ですがチマ様の安全に関する事で、私に隠し事がなされていたことは納得しかねるとだけ、お伝えします」

「同じ力を持った者が、二人いて慢心していたのだろう。謝罪と反省をするよ」

「…。それで、予見のお力は、今後どういう未来を描いているのですか?」

「「…。」」

(しっちゃかめっちゃかにしちゃった結果でもあるんだけど…)

(ゲームの範囲は終わっているに等しい状況なんだよねぇ…)

「残念ながら、年末までの出来事しか見れていないんだ。元々、チマを救うために本来の道筋から変化させていたこともあって、先を読むことも難しい。我々で秘密裏に捜索する必要がある」

「左脚を失っている夜眼族。直ぐに見つかりそうなものなんですが…」

「暇を出している使用人たちにも探させているけど、全くと言っていいほど引っかからない。不思議なものだよ」

 三人が落胆していると、扉が叩かれデュロが入室する。

「叔父上、ゼラから密書が届きました」

「ゼラから?…そういえば彼女も行方不明だと聞いたけども」

「はい」

 周囲を見回し、魔法道具での密会を求めたデュロに、レィエは応える。

「ゼラは現在、チマと行動を共にしている、という内容でした」

「なに?」

「何処にいるか、何をしているかは記されていませんでしたが、時を見て王都に戻るとのこと」

「チマの様態は?」

 デュロは首を横に振り、密書を三人へ見せるが、これといった情報はない。

(あのチマは、私の娘としてのチマではなくゲームのチマだった、そんな気がする)

(ビャスくんのことを、ティラミって呼んでたし、両親やリン…いや私を拒絶していた)

「チマ様…」

「安心しろシェオ。ゼラが同行しているのなら、大概の障害は跳ね除けられる。無事に戻って来るさ」

「そう、ですね。…一つ、疑問なのですが」

「なんだ?」

「ジェローズ騎士の事をあまり知らないのですが、…どういう方なのでしょう?…パスティーチェに同行なさってくれた時も、ご自身のことは殆ど話して貰えなかったので」

「ふむ…。ゼラの事を問われると私も困るが、…口下手な釣り好きだな。うん」

「ジェローズ家は伯爵家としては平々凡々、両親も武闘派というわけでなく、魔法道具に精通した知恵者というわけでもない。そんなところにポンと生まれたのがゼラだね」

(ゲームには名前も出てこない。一度は転生者と警戒したものの、それらしい行動はなかった。…ただ強いだけの、釣り好きな騎士だ)

「ただ…野営会で釣りを楽しんで以来、チマにご執心でな。同じ趣味を楽しめる同性と巡り合えたことが、嬉しいのかもしれん」

「釣友と仰有っていた気がします」

 不思議な人だと結論付けて、四人は会話の内容を戻す。

「今後は余計な探りなどを控え、チマが療養している体で行動をするとしよう。表舞台に立つ際は、ラザーニャを使えば問題ないだろう」

「学校へ休学の手続書を取りに行ってまいります」

「頼んだよ」

 こうして、転生者が尽力していた一年が終わっていく。

 チマという重要なピースを失う、ゲームと似た終わり方で。

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