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七話 コンティニュー! ①

「ここがチマさんの、御屋敷?…改築中?」

 舐瓜月5月

 パスティーチェからの来訪者スパゲッテは、リフォーム中のアゲセンベ邸を眺めてから、正門を開き敷地へと入っていく。

「あっ!す、スパゲッテさん!」

「おぉ!ビャス!ちと見ない間に背が伸びて、イケてる男になってきたな!」

「っお久しぶりです、…久しぶり」

「おう、久しぶり!」

「む、迎えにいく心算つもりだったんだけど、ちょっと準備に手間取っちゃってごめん」

「いいよいいよ。ドゥルッチェの街並みを見て、プチ観光しながら来たからな!はっはっは!」

 ビャスはスパゲッテと握手を交わし、荷物の一部を受け取って、屋敷を案内する。

「っ知ってると思うけど、色々とあってお屋敷を改築中なんだ。…部屋は用意してあるから問題ないけど、作業区画には近づかないようにね、危ないから」

 トゥルトの反乱より五ヶ月、ドゥルッチェ王国は騒乱の時を過ごした。

 南北のトゥルト派閥だった多くの領地は、大元であるトゥルト・チェズが、チマによって討たれたことが原因で身の振り方を考え直さなくてはならず、一部は独立を宣言する程。

 加えて北方九金貨連合国が、弱ったドゥルッチェ王国へ攻め入ろうとする機運が高まり、国境沿いでは一触即発の睨み合いへと発展。

 ロォワとレィエが長年かけて築いた発展には、大きなヒビが入る結果となってしまったのだ。

 独立を宣言した領地へは、東西の領地が働きかけ、一先ず宣言を撤回。

 北方九金貨連合国は、連合内でも特に軍力を有するパスティーチェが交戦派を糾弾する形で事無きを得た。

「いやぁまさか、俺がパスティーチェの『勇者』として、ドゥルッチェ王国に留学することになるとは驚いたぜ」

「一年通うんだっけ?」

「ああ。女王陛下と議会からの命でな。寮にお偉いさんの遣いが来た時はマジで驚いた…」

「た、大変だったね。…、お嬢様がいれば喜んだと思うんだけど」

「行方不明、なんだろ?女王陛下から聞いたぜ…」

「うん」

「残念だが、チマさんにはチマさんの都合があるはずだし、仕方ないか。ドゥルッチェにいる間で帰ってきてくれるといいが」

 スパゲッテは少しばかり寂しそうな笑顔を見せ、自身とは縁遠いお屋敷を見上げ、足を踏み入れては目を丸くする。

「おおー、お屋敷って感じだ!」

「はは、語彙力」

 使用人たちに荷物を預け、ビャスの案内で執務室へ迎えば、少しばかりやつれたレィエが職務を行っていた。

「君がパスティーチェの『勇者』スパゲッテ・スパ・バキューくんか。お初にお目にかかる、アゲセンベ公爵と宰相職を務めている、チマの父レィエだ」

「初めまして!パスティーチェより留学に来ました、スパゲッテ・スパ・バキューです!よろしくお願いします!」

「ははっ、元気がいいね。君のことはチマからよく聞いているよ、向こうで仲良くしてくれた友人なんだって?」

「はいっ!どちらかと言えば俺、ちがっ私のほうが勉強を教えてもらったり、仲良くして頂いた立場であります!」

「友達のお父さんくらいの感覚で構わないよ。この屋敷ではね」

 気さくにする姿には、チマと似た雰囲気はあり、確かな血縁を感じたスパゲッテは、緊張を解きながら簡単な雑談をした。

「―――。これが女王陛下から預かってきた書簡でして」

「ありがとう。………ふむ」

 書かれていた内容は、『来たるべき時に向け、両国間の関係を強化するため、我が国の『勇者』を派遣する。』とのことで、レィエは小さく唸った。

(何もかもご存知という口ぶりだけど、…本当にファールファ女王は何者なんだ?)

「スパゲッテくん」

「はい!」

「君の力を、“ビャスと共に”振るってもらう可能性があるが、問題ないかな?」

「…承知しました。『勇者』スパゲッテ、ドゥルッチェ王国の為に槍を振るいます」

「ありがとう、感謝するよ」

 レィエから求められた握手を、スパゲッテは快く返して、満面の笑みを見せるのであった。


 シェオは収容施設へ足を運び、キィスとの最初で最後の面会を行う。

「おや、軍人以外の面会が来たかと思えば、キャラメ爵士ではないか。何か尋ねたいことでも?知っていることであれば答えよう」

 クーデターを引き起こした国家反逆罪の大罪人。彼との面会を行うことが出来る者は限られており、シェオはレィエのコネを用いてこの場に臨んでいた。

「貴方に聞きたいことなどありません。…報告に参ったのです」

「報告?」

「元バァニー家の家人がどうなったか、その報告です」

「死刑囚にお優しいことで」

「長子は王城内で遺体が発見されました。場所を鑑みると、第一騎士団との攻防で討死といったところでしょう」

「優秀な子ではあったが、チェズ様に心酔し、より良き国を目指す礎となるため働いていた。果敢に前線へと足を運んだのだろう」

「…。」

(やりづらい…)

「次子と正妻は、バァニー家の名を剥奪され僻地へ追放が決定されました」

「連座で処刑しないとは、何とも甘く判断。禍根が残るとは考えなかったのかね」

「知りませんよ。…ただまあ、今回は関わった者も多く、寛容な対応が多いとのことです」

「…連座制度の変更でも狙っているのだろうな」

「家族ではありませんが、使用人らは経過観察のち、問題がなければ釈放されるそうです。…報告は以上となります」

「感謝する、キャラメ爵士。それで私の処刑はいつになるのかね?」

 ペラリ、と捲られた紙の音。

 シェオは小さくため息を吐き出し、重々しく口を開いた。

「…明日、早朝ですよ」

「そうか」

 口を噤み、瞑目したキィスは深呼吸をし受け入れた。…そんな風に見える表情を露わにした。

「私は、…アゲセンベ・チマさえいなければ、このクーデターに成功していたと思っている。いや…いなければ確実に勝利の旗を掲げることが出来、処刑台へ登るのは王族であっただろう。地位と血統を旗頭に、政治を変えようとした我々が…その地位と血統の頂点にいる一人に、すべてを覆される。…本当にお笑い草だ」

「チマ様は否定なさりそうですがね」

「憎たらしいよ、本当に。…侮るべきではなかった」

「…。」

 この男は、真に自分の信じる政治を行うために、決起したのだろう。そしてそれは、別に道を信じる者たちによって砕かれ、散った。

「それでは失礼します、キィス様」

「ああ、報告と面会ありがとう、キャラメ爵士」

 キィスは、自身に三人目の息子がいることを、その生涯公言しなかった。

 父性なのか、羞恥なのか、どういう意図があったかは誰もわからない。

 だが、シェオの出自に傷がつくことはなかった。

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