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第十四話『首都へ』・弐

 -それから、何度か休憩を挟みながら移動していると白の都に行く時に通った三差路が見えて来た。

 その頃には、太陽は西へと降り始めていたので移動をそこまでにし、その近くにある宿場町に泊まる事にした。

「-あ、来た」

『ぴい~っ!』

「っと。それで、どうだった?」

『ぴい~っ!』

「…ふうん?」

「どうした?」

 使いの答えを聞いた桃歌は少し怪訝そうな顔をしたので、直ぐに聞いてみる。…何となくだが、少し嫌な予感がしたのだ。

「…どうやら、ほとんどの宿が空いてるみたいね。

 まあ、でも直ぐに埋まるだろうからそこの宿に泊まりましょう。

 -そこで、ゆっくりと話すわ」

「「…っ」」

「分かった」

 無論、彼女も同じ予感がしていたのか近くの宿を指差しつつ、真剣な顔でそう言った。なので俺達も、真剣な顔で頷いた。


「-まずは、さっきあのコが教えてくれた事を話すわね」

 そして宿に入り、受付で宿泊の手続きを済ませそれぞれしっかりと休憩してから、男部屋の方で話を始めた。

「…実は、あのコはこんな事も言ってたの。

『-なんだか、宿の人達は元気がない』」

「…そう言えば、受付の人もなんか落ち込んでるようだったな」

「…ああ~」

「…どうしたんでしょう?」

「…桃次郎、何か聞いてない?」

『ぴぃ~っ!』

班長が聞いてみると、使いは窓枠の所から何かを話した。…それを聞いた彼女は、どんどん真剣な顔になる。

「…ありがとう。

どうやら、昨日この宿泊町に大所帯の輸送部隊が来たみたいね。

で、今朝とても寝坊して出発したようね」

「…はい?」

「…うーん?」

「…なあ、その輸送部隊ってあれだよな?」

「…間違いなく、例の催しに必要な物を運んでいる部隊でしょうね」

俺の確認に、彼女はそう返した。…なんでそんな重要な仕事をしている部隊が、寝坊なんてしたんだ?

俺なら、宿に人に叩き起こして貰うように頼んでおく。…いや、多分輸送部隊も同じ事をしている筈だ。


「…もう少し、情報が欲しいわ。

とりあえず、分担して調べてみましょう」

「分かった」

「賛成だ~」

「はい」

班長の提案に、俺達は即座に頷いた。…多分全員、少しばかり不安を抱いているだろう。

「では、どう分担しましょう?」

「私と仁は首都側を。栗蔵兄さんと智一は入り口辺りをお願いします」

「ああ」

「分かった~」

「はいっ!」

 そして、俺達は宿を出て夕暮れの宿場町に繰り出した。…さて、誰に聞くかな?

「まずは、あそこの土産屋で聞いてみましょうか」

「…その心は?」

「まず、未成年の私達じゃ酒場に入れないしそもそもまともな話を聞けない。

 それに、ご飯屋の人も外の様子を見てないだろうからね」

「なるほどな-」

なので、俺達は土産屋に入り土産物を選びつつ店の人に輸送部隊の事を聞いてみた。…するとどうやら、輸送部隊は随分と日が昇った頃に慌てて出発した事が分かった。


「-ありがとうございました~っ!」

「……」

「…やっぱり、おかしいよな?」

「…ええ。…こうなると、ご飯屋でも聞きたくなるね」

 そして、土産物を買って店を出た後彼女はまた真剣な顔でそう言う。…確かに、昨日の様子を聞かないといけない。

「…まあ、宿で出してくれるから食事の合間に聞くのは無理ね。

-…ん?」

「…どうした?」

 先程とは違うやり方を考えていると、町の奥の方からざわめきが聞こえて来た。…まあ、揉め事の気配はしないのだか少し気になる。

「…ちょっと、あっちの方に行ってみよう」

「…っ。……分かった」

 なので、そちらを指差しながら彼女に提案してみる。すると、彼女もそちらの様子を技で確認したうえで頷いた。

 そして、俺達は広場の方に向かった。


『-はいはい、慌てなさんなっ!

 まだまだ、貯蓄に余裕はあるからさっ!』

 すると、広場は市場のようになっており沢山の人がいた。しかも、どうやらそこに居る人達は皆宿泊町の住人だった。

『飼い葉と水、五十お願いしますっ!』

『こっちは、食料八十と水瓶二十頂戴っ!』

「…なんか、凄い量買ってるな」

「…多分、相当な規模の輸送隊だったのね。

 -やっぱりおかしいわ。それだけの部隊が纏めて寝坊するなんて」

「…だよな。…あっ、もしかしてご飯屋に聞きたいというのは、輸送隊の昨日の様子か?」

「…それもあるけど、私はもう一つの可能性を考えているの。

 -もしかしたら、輸送隊か町の中に連中の仲間が潜り混んでいるのではないかとね」

「…っ!…まさか、食事に睡眠薬でも盛られたと考えてるのか?」

「…いや、闘士そのものが潜り混んでいたと考えているの」

「…マジか。…その力の名前は?」

「-『未』よ。…そして、その技は相対を眠らせ無力化するの」

「……」

 彼女の言葉に、俺は何も言えなかった。…その後しばらく、俺達は黙ったまま市場の様子を眺めていた-。


『-はあ、これで安心だ』

『良かった~っ!』

 それから少しして、広場で買い物をしていた人達は自分の店に戻って行った。…さて、どの人に声を掛けるべきか?

「…っ!」

「お、おいっ!…っ」

 そんな事を考えていると、不意に班長は広場の右端に向かって走り出した。…なので、とりあえず俺もそちらに向かう。

「-ちょ、大丈夫かい?」

「…は、いっ!」

「なん…とかっ!」

 そこには、大きな壺を荷車に乗せようとする二人の男性とそれを心配そうに見る小売り店の店主が居た。

 恐らくあの二人もどこかの店の人のなのだろうが、どうして他の所とは違い二人だけなのだろうか?

「あの、手伝いますっ!

 -よっ」

「「…へ?」」

「…じゃあ、これ乗せますね。

 よっ」

「「…はえっ!?」」

 そして、二人の元に着くと彼女はそう言ってから壺を軽々と持ち上げ、荷車に乗せた。…当然二人はぽかんとしする。

 だが、俺も同じようにした時二人は状況を理解したのか心底驚いた。


「…す、凄いな君ら。一体、どんな手品を使っているんだい?」

「まあ、鍛えてますから。…っと」

「右に同じくです。…ふう」

 店主も驚きつつ、そんな質問をしてくる。…まあ、大人の男性でも苦労する物を軽々と運んでいるのだから、疑問に思うのは自然だ。

 だが、当然こちらもタネを明かさずに壺を乗せ終えた。

「…いや、鍛えただけでそんな事が。…っと、すまんね」

 すると、店主は突っ込みを入れてくるが直ぐに申し訳なさそうにした。…多分、こちらの素性に深入りしない事にしてくれたのだろう。

「いえ。

 それじゃあ、お店までお運びしますね」

「お店はどちらですか?」

「…っ!い、いや、さすがに旅の方にそこまでしていただく訳にはっ!」

「…そ、そうですよ。

 後は、自分達で何とかしますのでっ!」

 勿論、彼女は気にした様子を見せずそして二人にそう言った。…すると、そこで二人は我に帰り丁寧に断って来た。

 まあ、流石に申し訳なく思ったのだろうがそれくらいこちらも予想済みだ。


「…実は、お二人の務める店に聞きたい事があるのですよ。

 だから、これは情報提供料の前払いだと思って下さい」

「「…っ!」」

「…という事ですので、どうか気にしないで下さい。

 それに、このままだと道中や荷物を降ろす時に事故を起こしますよ?そうなれば、お店がどうなるか分かりますよね?」

「「…っ」」

 俺は、故郷での経験から忠告をした。実際、これだけの荷物を運ぶにはそれなりの人数が居ないと危ないのだ。

「…すみません」

「…感謝致します」

 すると、二人は心底申し訳なさそうにしながら俺達の手伝いを許可してくれた。なので、俺達は少し氣の量を増やし荷車の後ろを支える。

「…っ!」

「…本当に、凄いですね。

 では、出発しますっ!」

 当然、荷車は平らな状態になった。それを見た二人は、改めて驚いた。

 そして、俺達はゆっくりと出発した-。

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