「『……』」
だからなのか、抑えていた怒りがこみ上げ奴を睨み付けていた。…そして、今すぐにでもアイツをぶん殴るべく駆け出そうとする。
「『-寅よ、落ち着いて』」
「『ムカつくのは分かるが、無策で突っ込んだら痛い目見るぞ』」
すると、班長と金髪兄さんが駆け寄って来て俺を制止して来た。…っ!…確かに。
そう言われて、俺は少し冷静になる。それにまだ弟分を抱えていた事を思い出し、直ぐに彼を下ろした。
「『…落ち着いたな~?』」
「『…さぁて、どうするよ?』」
『-なぁに呑気にしてやがるっ!』
そして、残りの仲間達も集まってくるがそれを見た奴はまた腕を上げた。…くっ!?とにかく逃げないとっ!
「『大丈夫よ。
-風壁・蓋』」
けれど、班長は冷静に両手をそちらに向けて頭上防御の技を発動する。…っ!マジかっ!
「『ちぃっ!酉の技は本当に面倒臭ぇっ!』」
すると、蓋は巨大な拳を容易く止めた。当然奴は余計に苛立ちつつ腕を引っ込める。
「『申殿っ!手を抑えて下さいっ!』」
「『応よっ!』」
その時、班長は金髪兄さんに指示を出す。それを聞いた兄さんは、すかさず奴に向かって駆け出した。…なにを?
『なにするつもりかしらんが、無駄だぁあああっ!』
『-ぶひいいい~っ!』
当然、奴はそれを止めるべく複数の氣の猪を生み出し兄さんを襲わせる。…けれど、それは叶わなかった。
『戌殿っ!』
「『任せろっ!』」
『-わおおおんっ!』
班長は冷静な兄さんに指示を出す。すると兄さんは大量の大きな氣の犬を生み出し、猪達に向かわせた。
『ぶひいいいいっ!?』
『ちぃっ!?犬ごときに負けんなっ!』
当然、猪達は犬達を恐れて逃げ惑う。…そしてその隙に、金髪兄さんは奴の手の下にたどり着いた。
「『-氣力具現っ!陽光如意棒っ!』」
兄さんが技の名前を叫ぶと、彼の手に金色の棍棒が出現した。そして、兄さんはその場で踏ん張る。
「『巨伸変化っ!』」
「『えっ!?』」
「『マジか~っ!』」
「『…凄いっ!』」
兄さんな更に叫ぶと、棍棒は瞬時に極太の柱のような大きさとなり奴の馬鹿でかい手を簡単に貫いてみせた。
『馬鹿なぁっ!?』
当然、奴は驚愕する。…そして、勿論それだけでは終わらない筈だ。
そう考えるていると、班長は守りを消して更に氣を練り上げた。
「『-風渦砲っ!』」
『ぐおおおおっ!?』
そして、いつの間にか奴の頭上に居た班長は必殺技を打ち込んだ。すると、奴は徐々に態勢を崩した。
『くそおおおっ!』
けれど、奴は巨体な鎧を消し大きな氣の猪を生み出した。…くそ、なかなか頭が回るな。
『調子に乗るなよおおっ!
-猪達よ、行けぇっ!』
「『やれやれ、流石-亥-だけあって周りが見えていないようだな』」
そして、そいつは周りの猪達に攻撃させようとする。そんな敵に対して、冷静な兄さんは小馬鹿にしたような反応をみせた。
『はあっ!?………は?』
当然、奴は苛立つがいつまでも経っても猪達がこちらを攻撃しない事に気付き、ようやく周りを見た。
『な、な、な、なんで、猪達が…』
『わおおお~んっ!』
「『おお、-終わったか-』」
すると、あれだけいた猪達はいつの間にか姿を消しており犬達だけが残っていた。…つまり犬達は猪達を全て消滅させたのだ。
「『俺の犬達は皆強いからな。そんでもって連携も得意だから、あれぐらいの数なら簡単に全滅させられるのさ』」
『くそがっ!…っ!?』
『わおおおん~っ!』
兄さんの淡々とした自慢に、奴は悪態をつくが直ぐに慌てる事になる。何故なら、自分の乗る猪の足元にデカイ犬が四匹が居たのだから。
『ぷぎぃいいいいっ!?』
そして、直後全ての足を噛み付かれた猪は悲鳴を上げる。…っ!凄いな。ひと噛みであれだけのデカイ氣を破った。
『ぬぐおおおっ!?ば、馬鹿なっ!鎧だけでなく氣の獣さえも破られただとっ!?』
当然、猪は立っていられなくなり地面に倒れ奴は無様に慌てた。すると、それを見た班長は無言で俺を見る。…っ!
「『-風舞』」
彼女の意図を察した俺は、即座に頷いた。すると彼女は、即座に俺の後ろに移動し背中に手を当てながら技の名前を口にした。
直後、俺の身体は素早く宙に浮かぶ。
『くそっ!こうなりゃ、奥の-』
「『-雷拳っ!』」
『なにっ!?
-ふぐおおおおおっ!?』
そして、俺は何か言っている奴の眼前まで移動し雷拳をその顔面にお見舞いした。当然、攻撃は顔のど真ん中に命中しそのまま奴は後ろに吹き飛んだ。
「『っと。…あー、ちょっとスッキリした』」
「『いや、良い拳だった』」
「『良くやった』」
それを眺めていると、ゆっくりと地上に戻された。すると、兄さん達は褒めてくれる。…それにしても、まさか彼女が花を持たせてくれるとはな。
「『-…っ。皆さん、まだ気を抜くには早いですよ』」
「『…っ!ちぃ、頑丈だな…』」
彼女に感謝の念を抱いていると、当人は真剣な様子で注意した。…まあ、やっぱり今の俺の実力じゃ敵を倒すのには至らないよな。
『-良くも、やってくれたなぁ?早速、やり返してやるよぉっ!』
やはりというか、敵はぴんぴんしており凄い圧を放ちながらこちらに敵意を向けていた。…けれど、俺達はそんなに恐怖していなかった。
『-そこまでだっ!同志よっ!』
何故なら、龍の周りにあった真紅の玉は全て消えていたのだ。当然、敵の大将は亥の闘士を止める。…いや、有難いが本当に訳が分からないな。
『…っ!?……っ』
すると、奴は素早く龍の方を見て驚愕した様子になる。…そして、再びこちらを見て激しい敵意を送って来た。
「『残念だったなっ!
-余裕で倒せなくてっ!』」
『…くそ、があああああっ!』
更に、金髪兄さんが煽ると奴は今にもこちらに突っ込んで来そうなほどキレる。けれど、奴は心底我慢していた。…つまり、奴にとって敵の大将の言葉は『絶対』なのだ。
「『…恐ろしいわね。あんな粗暴な奴が逆らわないって事は、それだけ敵の大将は-強い-という事になるわ』」
「『…ああ。…まあ、辰の闘士ならば当然というべきか』」
それを見て、班長は敵の大将の強さを計り冷静な兄さんは納得した。…はあ、そんな奴と闘わないといけないのか。
『-敵対する闘士達よっ!まずは、貴様達に謝罪しようっ!
まさか、今の代の闘士達がここまでやるとは正直予想していなかったっ!』
避けらない闘いに若干震えていると、奴はそんな事を言う。…その声色は、なんとも愉快な物を見たような感じだった。
『…特に、寅の闘士よっ!』
「『…っ!?』」
そして、不意に奴は俺を名指しする。…おいおい、勘弁してくれよ。なんで、他の人より実力が劣る俺なんかを?
『まさか、目覚めてから今日までの短い間にそこまで星獣の力を引き出せているとはなっ!
-これは、-決着の刻-が楽しみだ』
「『……は?』」
『…ん?…ああ、そうか。お前は、他の者と違い星獣の事を知らないのか。
ならば、良く聞けっ!
辰の闘士たる俺は、寅の闘士たるお前を倒し真の最強となるっ!』
「『……っ!』」
すると奴は、一人で納得した後とんでもない事を言った。…要するに、俺は奴にとっての宿敵らしい。それを理解し、余計に震えた。
『故に、今日この場で決着を付けるにはあまりにも-惜しい-っ!
だが、俺はあまり-我慢強く-ないから夏が終わる時までにお前が俺の元に来なければ、躊躇なく今の世を-乱戦の世-に変えるっ!』
「『なっ!?』」
「『ちい、やっぱそうなるかよ…』」
しかも、奴はとんでもない『脅し』を宣言してきた。…最悪、過ぎる。なんで、俺が奴と闘わないといけないんだ?
『巳よっ!』
『…はい』
「『…っ!?』」
自身に課せられた宿命に困惑していると、敵の大将はもう一人の仲間に指示を出す。…当然仲間達はとても驚く。
何故なら、今の今まで二人目の気配に気付かなかったのだから。…単に、辰と亥の氣がデカイからってだけじゃないな。
『-っ!』
得体の知れない二人目に恐怖するなか、突如舞台から巨大な氣の蛇が出現し巨躯の亥を飲み込んだ。
そして、蛇はそのまま宙を舞う龍に絡み付き口を開ける。すると、亥の奴が口から現れ龍の背に乗った。
『-この借りは、我等の住処にて必ずかえしてやるっ!』
『ふはははっ!待っているぞっ!』
亥はこちらを指さしながら激しく宣言し、敵の大将は楽しそうにしながら龍を操り空の彼方に消えた。…すると、暗かった空は急速に明るさを取り戻すのだった-。