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第二十話『謁見』

 -刃龍の襲撃より、数日後。首都はようやく日常を取り戻したが、行き交う人々の顔には未だ不安が浮かんでいた。…まあ、祭りの日にいきなり平和が崩れかけたのだから、無理もないだろう。

「…本当、都を守れて良かったね」

「ああ。…それに、連れ去られた人が居なくて本当に良かった」

 けれど、俺達は前向きに考える。実際、会場以外の被害は都を守る二つの門だけで他の建物は無傷だった。

 それに、対策部隊を含めた首都にいる全ての部隊の奮闘によって、連中のほとんどが捕まり首都の市民や旅人も無事だった。…確か、大隊長殿の話だと敵の大将がいきなり帰った事で連中は混乱したり戦意喪失したんだったな。

 いや、本当敵の大将がこちらの『強さ』を見なければ都は甚大な被害を受け、多くの人が連れ去られていただろう。

「-これも、貴方達のおかげですね。心より感謝申し上げます」

『…っ!』

 すると、俺達に同行していた女性の役人が深く頭を下げ感謝を示した。なので、こちらは恐縮してしまう。


「さあ、間も無く『黄心宮』が見えて参りますよ」

 そして、役人は俺達が余計に緊張する事を口にした。…っ!あれが、王様の居る宮殿か。

 とりあえず、俺は馬車の窓から外を見た。…すると直ぐに、黄色のデカイ建物が視界に飛び込んできた。

『…っ』

 仲間達もあれを見たのか、ゴクリと唾を飲み込んだ。…やがて、馬車はでかい門を通過し敷地の中に入った。

 そして、それからかなり経った頃馬車はゆっくりと止まった。

「-お待ちしていましたっ!さあ、ゆっくりとご降車くださいませっ!」

 すると、直ぐに馬車の扉が開かれ恐らく正装らしきかっちりした服を着た男性が、降りるのを促してきた。…えっと、確か最初に降りるのは班長だったな。


「…っ!は、はいっ!」

 俺達が彼女を見ると、彼女はハッとして立ち上がる。…そんな彼女や俺達も、道着を正装風にした物を着ていた。オマケに、髪はかっちりと整えられており硬い靴も履かされていた。

「どうぞ、お掴まりください」

「…あ、ありがとうございます」

 当然、そんな靴に慣れていないので若干彼女の歩行ら不安だった。すると、役人の男性は彼女に手を差し出す。…多分、あの人は出迎えの玄人(プロ)なのだろう。

 そして、彼女は役人の協力でなんとか小さな階段を降りた。…次は、役人さんか。

「それでは、お先に失礼致します」

 すると、女性の役人はこちらに一礼してから静かに立ち上がる。…うわ、優雅な立ち振舞いだな。

「…っと。次は、オイラだったな~」

 役人さんが降りると、一番年長の栗蔵緊兄さんが緊張しながら立ち上がる。…この後は、確か年功序列だったな。

 -それから、俺達は馬車を降りてとても立派な宮殿に足を踏み入れた。…そして、とんでもなく広い廊下を進み一番奥にある部屋にたどり着いた。…その扉だけ、とても大きく荘厳な装飾が施されておりまた鎧を着けた兵士が守っていた。


「-かの者達をお連れ致しました」

「お疲れ様ですっ!」

「さあ、既に帝がお待ちですので中へっ!」

『…っ!』

 そして、部屋を守る兵士はゆっくりと両開きの扉を開けていく。…すると、中には立派な服を着た人達がいた。多分、この国の偉い人達だろう。

「-おおっ!待ちかねたぞっ!」

 更に、部屋の奥には金色の椅子に座る威厳のある男性がいた。…あの人が、この国で一番偉い帝なんだ。

『…っ!』

 とりあえず、俺達は部屋に入って直ぐにこの国の礼儀作法である『拱手』を行う。その後、役人さんの歩みに合わせて帝の前まで進み再び拱手をしつつ、片方の膝をつき頭を下げた。

「彼らが、この都を襲った賊の中心者共を撃退した勇敢な者達か。…報告は受けていたが、本当にどこにでもいる若者だな」

 すると、帝はじっくりとこちらを見て率直な感想を述べた。…まあ、当然の反応だな。


「まさか、諸君らのような若者がかの賊と人知れず戦っていたとは。…その礼も、この場でしよう。

 -大義であった」

『…き、恐縮です』

 帝が礼を述べると、他の偉い人達も小さく拍手をしてくれた。…当然、俺達は余計にびくびくしてしまう。だが、同時に嬉しいかった。

「…しかしながら、諸君らはどのように奴らと戦ってこれたのだ?」

『…っ!』

 すると、帝はふとそんな事を聞いてきた。…あれ?大隊長殿から聞いていないのか?

「…ああ、実は指揮を任せている久保がこんな事を言ったのだ。

 -『彼らが何者であるかは、直接聞いてみるのが良いでしょう』…とな。『そうすれば、敵の正体も分かる』…とも、言っていたな。

『…っ』

 俺達の疑問を浮かべていると、帝は事情を話した。…なんでそんな事を?責任者が話したほうが、いろいろと早いだろうに。


「…分かりました。それでは、我々が何者なねかをご説明させて頂きます-」

 余計に困惑していると、何かを察したように班長は説明を始める。…まず、彼女は自らの名前を名乗った。

 すると、帝や偉い人達はびっくりする。やはり彼女の家名は、この国では有名なようだ。

 そして、部屋の空気が落ち着いたのを見計らい彼女は自分達の正体を告げた。

「-なっ、なんとっ!?諸君らは、あの伝説の者達だというのかっ!?」

『…そんな』

『…あの伝説の闘士が?』

 まあ、当然部屋の中は騒然となる。…てか、国の中枢の人達はちゃんと知ってるんだな。

「…っ。…すまん、取り乱してしまったな。いやはや、本当に驚きだ。

 -だが、間違いなく真実なのだろう。…そして恐ろしい事に、賊の中心者達も星の獣に選ばれた闘士という事だ」

『…っ!?』

『…そ、そんな』

「…あの練武場の被害を見れば、そうだと認めざるを得ないだろう?」

『…っ』

 帝の言葉に、信じられないといった顔をしていた偉い人達はハッとした。…そうか。連中の正体とその危険性を認知させる為に、奴らと同じ力を持つ俺達に話させたのか。

 実際、帝や偉い人達は間違いなく奴らがどれだけ恐ろしい奴らか理解した事だろう。


「…落ち着け、皆の者。

 確かに、奴らは間違いなく我が国の平穏を脅かす者達だ。だが、今目の前に居る若者達が必ずや討ち取ってくれるだろう」

『…っ!』

「…未だ未熟な身なれど、全身全霊で果たしてみせます」

『…右に同じく』

 帝が期待を込めてそう言うと、班長はしっかりと返した。当然、俺達も強い意思を込めて彼女に続く。

「…だ、そうだ。

 だが、当然諸君らに全てを任せるつもりは毛頭ない。…そうだな?」

「-…っ!その通りでございます。

 まず、対策部隊に貴方達の支援させます」

 すると、帝に話を振られた兵士は直ぐに提案を出す。…立派な鎧を着けてるから、多分軍の一番偉い人だろう。

「それが良いだろう。

 後、檻車を持つ輸送部隊も付けるのだ」

「…っ!なるほど、確かに必要ですね」

 更に、帝は別の役人に指示を出した。…あ、もしかして捕まえた下っ端を然るべき所に連行してくれるのか?


「…とりあえずは、こんな所か。

 そうだ。諸君らも、何か必要な物があれば遠慮なく言ってくれ」

『…っ』

「…では、一つだけお願い致します」

 そう言われるが、緊張しているせいか直ぐには思いつかなかった。だが、班長はまるで待っていたと思う程に素早く答えた。…あ。

「なんだ?」

「我々は、『黄仁境』を目指しています。その場所へと入る許可証を所望致します」

『…っ!?』

「…何故、かのような場所へ?」

 彼女がそう言うと、偉い人達はびっくりし帝は信じられない様子で聞いてきた。 


  -これは、奴らの襲撃の後に金髪兄さんに聞いたのだがどうやら件の春川女史は、黄仁境で余生を過ごしているらしい。…だが、その場所はまさに未開の秘境である上にとも危険な場所らしいので、間違って旅人等が入らないように国が入り口を封鎖しているのだ。


「-実は、こちらの寅の闘士の師となる方がそちらで余生を過ごしているようなのです」

「…な、なんと。あのような過酷な地で生活をする者がいると?」

「…いや、かの地は完全に調べた訳ではないのでもしや生活出来る場でもあるのでは?」

 困惑する帝に、軍の偉い人はそんな予想を口にすり。…てか、軍でも調査が出来ないってどんだけ危険な場所なんだ?

「…うーむ。…いや、諸君らの言葉を信じよう」

「…感謝致します」

「だが、直ぐには用意出来ないので少し待ってくれ」

「…はい」

「それでは、謁見は此処までとするっ!下がるが良いっ!」

『ぎ、御意っ!』

 そして、無事に謁見は終わり俺達は冷や汗を流しながら宮殿を後にした。

 それから二日後、拠点に宮殿からの使者が来て許可証を貰うのだった-。

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