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第二十一話『新たな旅立ち』

 -首都に朝日が昇る頃。俺達は、首都の出入口たる門へと向かっていた。

 今日から、俺達は対策部隊と共に黄仁境へと旅立つのだ。

「…っ!うわ、やっぱり軍人は早いな」

 やがて、巨大な門が見えてくると既に対策部隊が整列していた。流石、軍人である。

「お、来たか。おはよう、闘士諸君」

『おはようございます』

 すると、大隊長である久保さんがこちらに来て挨拶をしてきた。なので、俺達も挨拶を返し大隊長と共に部隊の前に立つ。

「-おはよう、対策部隊の諸君っ!」

『おはようございますっ!』

 そして、大隊長殿は早朝にも関わらず元気な声で挨拶をする。当然、部隊の人達も凄い声量で返事をした。

「まずは、改めて我々の行程を確認するっ!

 副隊長、説明をっ!」

「はいっ!

 これより、我々は大陸の北東にある秘境『黄仁境』へ向けて出発するっ!

 まずは、羽倉の砦を目指しそこで二日間滞在する予定だっ!」

『はっ!』

 副隊長が行程を口にすると、隊員達は敬礼と共に返事をした。…実は、今日からの予定はなるべく迅速に進むのではなく少しゆっくりとなるのだ。


「滞在目的は、戦闘班の休憩と情報班の情報収集となるっ!」

『はっ!』

 まず、今日の目的地である羽倉の砦には夕方には到着予定だ。…けれど、恐らく順調には行かないだろう。

 -何故なら、確実に連中の妨害に遭遇するだろうから。

 これは、一昨日拠点に来た情報だが北東の主な街道で武装した集団が発見されたらしい。…しかも、人気のない夜中に。

 おまけに、その集団はこの国の兵士でないときている。

 これはどう考えても、連中の『足止め』だ。

 だから、ほぼ道中で交戦するだろうから砦である程度休憩しなければならならない。

 無論、ただ休むだけではなく疲労の少ない情報収集の班が砦にてとある調べ物をするのだ。

「-情報班っ!諸君らの目的は、乱世の記録を纏める事だっ!」

『はっ!』

 その情報班に、副隊長は任務を告げる。…その目的は、『敵』の事を少しでも識る為だ。


 まあ、連中が頭のおかしい集団なのはとても良く知っているが、それ以外の事はほとんど知らない。

 敵の大将がどんな経緯で作ったのか、何故敵の五人の闘士が加入したのかを、俺達は知る必要があるらしい。

『-そうしなれば、敵の過ちを否定する事も信念砕く事も出来ない。

 そして、それが出来なければその意思を継いだ者が生まれてしまう』…と、班長は言った。

「-以上だっ!」

「それでは、出発前の作戦会議は此処までにして出発の準備を整えよっ!」

『はっ!』

 そんな事を思い出していると会議は終了したので、俺達も指定された馬車に移動する。…本当は鍛練がてら並走するつもりだったが、向こうが『是非乗ってくれ』と言ってくれたので厚意に甘える事にしたのだ。


「-あ、おはようございますっ!どうぞ、宜しくお願いしますっ!」

「こちらこそ、宜しくお願いします」

『お願いします』

 そして、馬車の前にて担当の人と挨拶を交わし俺達は後ろに乗り込む。すると、大隊長と副隊長も乗り込んで来た。

「…っ!それでは、出発っ!」

 直後、外から甲高い笛の音が複数聞こえる。多分、準備完了の合図らしく大隊長は御者台にいる部下に指示を出した。

「はっ!…-」

 すると、部下は返事をした後笛を吹いた。そして、手綱を振るい馬に指示を与えると馬車は直ぐに動き出した-。



 -首都を出発して、かなりたった頃。そろそろ昼時となるので、馬車は街道の脇にある休憩場に止まった。…とりあえず、此処までは順調だな。

「さあ、皆で昼餉にしよう」

「ありがとうございます」

 少し安堵していると、大隊長がそう言った。なんと、移動中はずっと彼らと共にご飯を食べる事になっていた。

「あ、お疲れ様ですっ!」

 そして、大隊長と副隊長の後に続き馬車を降りると大きな箱を持った人が馬車の前で待っていた。

「お、ありがとう」

『ありがとうございます』

 その人から箱を受け取り、俺達は休憩場の中心に向かう。そこでは、既に他の隊員達が折り畳みの椅子に腰掛けていた。

「皆、ご苦労様っ!」

『お疲れ様ですっ!』

「それでは、これより昼餉と昼休憩を-」

『-っ!?』

 俺達も空いている椅子に座ると、大隊長は大きな声で指示を出す。…だが、その最中何処か遠くで何か大きな物が水に落ちる音がした。


「…?どうした?」

 当然、俺達は一気に臨戦態勢になるしそれに気付いた大隊長は緊張した様子になった。…どうやら、遂に『始まった』ようだ。

「…何か、『嫌な予感』がするので道の先を見て来ます」

「…なんだと?」

『……っ』

「念のため、皆さんは備えていてください。

 -それと、正義兄さんと栗蔵兄さんと智一は此処に残って」

「分かった」

「任せろ~」

「はいっ!」

「じゃあ、行きましょう」

「「ああ」」

 そして、班長は素早く班分けをした後素早く空に舞い上がった。なので、俺と金髪兄さんも迅速に駆け出した。

「-っ!?」

「…ちぃっ!もう来やがったっ!」

 それから少しして、道の先にある河に駆け付けると案の定連中がいた。…しかも、奴らは手に岩を持ち河を渡る為の大きな橋を壊そうとしていた。

「くそっ!全員、適当に岩を-」

「-『風界っ!』」

 すると、連中は慌てつつも橋の破壊を続けようとした。だが、次の瞬間奴らは上空から強襲する班長の技で捕らえられた。


「『風縛っ!』」

『うぐっ!?』

『か、身体が動かねぇっ!?』

 そして、間髪入れずに班長は風で奴らの動きを止めた。…相変わらず、見事な速さだ。

「『今の内ですっ!』」

「『応よっ!』」

「『ああっ!』」

 なので、俺達は迅速に奴らから岩を奪いそれを河や道に影響の出ない所に捨てていく。無論それと共に、連中を無力化する事も忘れない。

「『-良し、終わりっ!』」

「『こちらも、終わりだっ!』」

「…ふうっ」

 やがて、岩捨てと奴らの無力化が終わたったので金髪兄さんと俺は班長に報告をした。すると彼女は、連中に掛けていた技を消した。

「…くそ、少しやられてるな」

 直後、金髪兄さんは橋の被害を確認する。…残念な事に、数ヶ所に大きな穴が空いていた。

 これでは、人は通れても馬車が通るのは無理だろう。

「…とりあえず、報告に戻りましょう」

「だな」

「了解」

 悔しい思いをしていると、同じような思いを顔に出していた班長は気持ちを切り替え、仲間と部隊の元に戻り始める。

 なので、俺達もその後に続いた。


「-っ!良かった、大丈夫みたいだな」

「…まあ、雑魚しか居なかったからな」

「…どうした~?なんか、揃いも揃って浮かない顔だな~?」

「…それがですねー」

 班長は、簡潔に先程の事を報告する。…当然仲間達や部隊の人達は、困惑した顔になった。

「…参ったな」

「まさか、こんなやり方で足止めをしてくるとはな…」

「…どうしますか?確か、上流側にもこのくらいの橋がありましたよね?」

「…でも、それって馬車でもかなり時間が掛かる場所じゃないか?」

「…だが、そうは言っていられないな。

 とりあえず、橋にいる連中を回収しその後直ぐに出発しよう」

「…ん~」

 大隊長は速やかに決断し、部隊に指示を出そうとした。…その時、ふとデカイ兄さんが何か考えているような声を出す。

「…どうかしましたか?」

「…ん?…ああ、もしかしたら遠回りしなくても良いかもしれんと思ってな~?」

『…っ!』

「本当か?」

「ああ~。…んで、一つ聞きたいんだが連中の持ってた岩はどうした~?」

 大隊長の確認に、デカイ兄さんは頷く。そして兄さんは、こちらに質問した。…まさか、その岩を使つつもりなのか?


「…岩はすべて、道や河の邪魔にならない所に捨てます」

「なら、大丈夫だ~。いや、皆きちんと後の事を考えれて偉いな~。

 じゃあ、行こうか~」

 班長が答えると、兄さんは笑顔を浮かべて俺達を褒めてきた。そして、ゆっくりと橋の方へと歩き出した。

「…っ!檻車班、行動開始っ!他の班は、昼餉と小休憩の後合流せよっ!」

『り、了解っ!』

「…じゃあ、今度は俺がこっちに残ろう」

「では、私と智一もこちらに。仁と正義兄さんは部隊の手伝いをお願いします」

「はいっ!」

「「分かった」」

 大隊長が指示を出すと、ふと金髪兄さんは自らそう言った。それを聞いて、班長は新たな班分けを指示した。

 なので、俺達は直ぐに行動を開始した。

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