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第二十二話『苦難の旅路』・壱

「-…ふう」

「お疲れ様」

 それから特に問題もなく、俺と正義兄さんは部隊の人達と協力して手早く連中を檻車に乗せていった。

「…お。丁度良いな」

 すると、冷静な兄さんは視線を動かさずにそんな事を言った。…どうやら、デカイ兄さんの方も『準備』が出来たようだ。

「よっと~」

 なのでそちらを見ると、デカイ兄さんは河から出て来た。…果たして、どんな技を見せてくれるんだ?

「『岩籠手』」

 期待しながら見ていると、デカイ兄さんは技を使う。すると、対岸付近にある岩から硬く大きな手が出現した。

「『よっ!』」

 そして、兄さんは気合いを入れて手を上に伸ばす。それに合わせて、岩の手も上に伸びていき穴を塞いだ。

「…いやはや、見事だな」

「…丑の技って、あんな事も出来るんですね」

「ああ」

「『ほっ!』」

 感心していると、デカイ兄さんは順調に岩の手て穴を塞いでいった。

 そして、日が西に傾き始めた頃に全ての穴は塞がれた。


「…ふい~っ!」

「お疲れ様です」

「お、ありがとうな~」

 一仕事終えた兄さんに、俺は大きな手拭いを渡した。すると、兄さんは笑顔でそれを受け取り水滴や汗を拭いていく。

『……』

 一方、一連の事を見ていた部隊の人達は未だに唖然としていた。…まあ、目の前であんな事を見せられたら誰だったああなるだろう。

「…っ!お、お疲れでしたっ!」

「いやいや~。まあ、ちょっとでこぼこするから勘弁な~。

 それと、もって二日と考えてくれ~」

 けれど、檻車の班長さんはハッとして頭を下げた。そんな彼に、兄さんは少し申し訳なさそうにした。…どうやら、あれはずっと使える物ではないらしい。

「…っ、分かりました。直ちに、報告して参ります」

 それを聞いた班長さんは、直ぐに本隊の元に駆け出した。けれど、少しして馬車の音が聞こえてきた。…そういえば、こちらの班長が氣の鳥で様子を確認してたな。

 多分、終わりそうな頃合いで知らせてくれたのだろう。


『-………』

「…っ、檻車の班は直ぐに昼餉の準備に取り掛かれっ!それが終わり次第、出発するっ!

 尚、御者は交代で休憩を取るようにっ!」

『…っ!はっ!』

 そして、部隊の人達も橋の様子を見て驚愕していた。けれど、大隊長が直ぐに指示を出した事で部隊は慌ただしく行動を始めた。

「…俺達も、移動中で昼飯ですね」

「だな」

「じゃあ、戻るか~」

 なので、俺達も馬車に戻り用意されていた昼飯を食べ始める。すると、程なくして馬車も動き始めた。


「-…はあ、まさかこんなに早くに妨害してくるとはな」

「…しかも、単なる力押しでなく頭を使った策で攻めるとは思いもしませんでした」

 そして、ある程度握り飯を食べ終えるた時ふと金髪兄さんが呟いた。さらに、班長も意外そうな様子でそんな事を言う。

「…間違いなく、『参謀』が居るな」

「…今まで遭遇した敵の闘士の中か、あるいは根城に居るのか~?」

「…多分、後者だと思います」

「…その根拠は?」

「…実家にある資料の中に、『闘士が軍師を勤めていた』という記録がないから」

「…なるほど」

 班長の根拠は、少し説得力があった。まあ、普通に考えて強い力を持つ闘士を後方に置いておくのは、凄くもったいない気がする。

「…なんにせよ、これから先は連中の妨害を警戒しないといけないな」

「…はあ、面倒臭いな」

『……』

 冷静な兄さんがそう言うと、金髪兄さんは深いため息を吐いた。…当然、俺達も同じ反応をしていた。


「…次は、どんな手で僕達を妨害すると思います?」

「…あんまり、そういうのは先に考えたくないな」

「まあ、想定外の事が起きるとパニックになるからな」

 ふと、弟分が予想を始めようとするが二人の兄さんは否定的な言葉を口にする。確かに、考えても仕方ない気もする。

 だが、無駄ではない気もするので俺はそっと手を上げた。

「…ん?どうした?」

「…じゃあ、せめて砦に居る時の『対策』を考えませんか?」

「…まあ、それぐらいなら良いか」

「確かに、ほぼ間違いなく攻めてくるだろう」

「…じゃあ、『予想』を出して下さい-」

 それから俺達は、連中がして来そうな妨害を予想しそれの対策を話し合った。…その最中、幸運な事に連中の妨害に遭う事もなくある程度対策が練れた-。



「-それでは、これより各班休憩に入れっ!」

『はっ!』

 空が暗くなる頃。俺達は、予定より少し遅れて羽倉の砦に到着した。それから、大隊長の指示で俺達と各班は指定された宿舎に移動する。

「-…良し。じゃあ、栗蔵兄さん以外は行動を開始しましょう」

「すまんな~」

 そして、部屋に荷物を置いて直ぐに俺達は『対策』を始める。ちなみに、デカイ兄さんは補強作業のせいで少し疲れていたので休んで貰う事にした。…さてと-。

 俺は、駆け足で指定された場所に向かう。ちなみに、今回は単独行動になる。

「-……」

 程なくして、俺は北門に着いた。当然、門は閉じていて外に出る事は出来ないが、それで良いのだ。

『-それでは、やるか』

 すると、暗闇の中に相棒が現れた。…本当、未だに夜に見ると怖いな。

『…やれやれ、相変わらずびびりだな』

(…悪かったな)

『…はあ。

 …さて、まずは雷を手に』

 相棒はため息を吐くが、直ぐに気持ちを切り替え指示を出した。なので、俺も真剣に雷を手に集める。


『-良し。では、先程言ったようにやるのだ』

「(分かった。)…雷玉・封」

 ある程度雷が集まると、相棒は次の指示を出した。…実は、作戦会議の途中で相棒はとある事を提案してくれたのだ。

「…っ!」

 俺は新たな雷玉を生み出し、それを大きな錠前に当てる。…すると、雷玉は錠前に吸込まれていった。

(…これで、良いんだよな?)

『ああ。

 -これで、奴らはこちらからの侵入を諦めるだろう』

 相棒に確認すると、向こうは自信満々にそう返した。…そう。俺の役割は、夜の間北門を破られないようにする事だ。

 ちなみに、俺達の入って来た南門では班長が似たような事をやってくれている。

(…だが、果たして連中は諦めるだろうか?)

『…まあ、奴らの事だから夜襲が無理なら別の手を考えるやもしれんな。

 だが、その対策も打っているのだろう?』

 だが俺は、少し不安だった。すると、相棒は同意しつつこちらを安心させるような言葉を口にした。


(…そうだな。しかも、対策は兄さん達がやってるから心配するのは失礼だ)

『そうだ。仲間を信じるのだ』

(ああ)

 相棒のおかげで不安は消えたので、俺は宿舎に戻ろうとした。…ん?

 その時、宿の方から班長の使いがやって来て俺の頭上をくるくると回る。

『ぴいっ!ぴいっ!』

「…っ!」

 更に、使いは飛びながら短く二回鳴いた。その瞬間、俺は臨戦態勢になる。…何故なら、今のは緊急の合図だからだ。

『ぴい~っ!』

 こちらの準備を感じた使いは、素早く主の元に戻り始める。なので、俺は素早くその後を追い掛けた。

『-おいっ!いい加減にしろっ!』

『嫌だねっ!何度でも言ってやるっ!』

 それから少しして宿舎に戻ると、その前では二つの集団が対峙しており代表と思われる二人の男が言い争っていた。


「何で、てめえ等みたいな余所者に俺達の宿舎を使わせないといけないんだよっ!

 てめえ等は、外で寝やがれっ!」

「ふざけるなっ!宿舎は軍の者のみならず旅人も利用出来る決まりだっ!

 決して、貴様達の所有物ではないっ!」

 しかも、片方は大隊長だった。…どうやら、現地の部隊と揉めているらしい。…はあ、連中以外にも厄介事が起きるとはな。

「…っ!仁っ」

 深いため息を吐いていると、離れた所で様子を見守っていた仲間達を見つけたので静かに駆け寄った。

「…なんか、面倒臭い事になってるな?」

「…ええ。戻って来たら、現地部隊と対策部隊が揉めてたからびっくりしたわ」

「…はあ、軍のいざこざに遭遇するとはツイてないな」

「…どうする?このままじゃ、俺達も部隊もろくに寝れないぞ?」

 仲間達も、不安だったりうんざりしたり休息の心配をしたりしていた。…そんな時、また相棒は姿を現した。

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