「-……なんと、悪辣な事を」
「…我が国の兵を騙るとは、許せませんね」
隊長さんが話し終えると、こちらの代表二人は静かに驚きそして怒っていた。…一方、俺と班長は『原因』を考える。
「…?何か、気になる事があるのか?」
「…あ、はい。
その偽装した賊に、何か不自然な所はありましたか?」
「…ん?……っ!…今思い出してみると不自然な所が幾つもあった。だが、どういうワケかあの時は気付けなかったんだ」
「「「…え?」」」
「…間違いないですね。
-その賊は、『未』の闘士が率いています」
隊長さんの答えに、こちらの代表と俺はやや緊張した感じで班長を見た。…当然、彼女は確信を持って答えを口にした。
「…やっぱりか。…でも、どうやって?」
「多分、『獣』に現地部隊の人達を襲わせたと思う」
「…ちょっ、何だって?…奴らは、馬こそ連れていたがそれ以外は見てないぞ?」
俺達が話していると、隊長さんは割って入ってきた。…まあ、話についてこれないのも当然だろう。
「…あ、すみません。…えっと、要するに貴方達は気付かない内に『敵の技』を受け、怒りの感情を増幅されていたのです」
「…な、なんだと?」
すると、班長は簡潔に説明した。当然、隊長さんは冷汗を流し顔を青くする。…本当、恐ろしい事だ。
「…確かに、貴方達は凄まじい怒りに支配されていたな。…そして、恥ずかしい事に我々もそれに引っ張られ頭が熱くなっていた」
「…おそらく、それも技の効果かと」
「…っ!?」
「…確かに、私達も何故あんなに怒りを持ったのか不思議でした。…まさか、それも敵の策略だったとは」
班長が予想を口にすると、大隊長と副隊長も顔を青くした。…しかし、そうなると新たな疑問が生まれてくる。
「…いや、本当に『偶然』にもそんな恐ろしい技が解けて良かった」
「…ああ。下手したら、双方に甚大な被害が出ていたかもしれない」
「…いえ、偶然ではありませんよ」
一方、責任者達は最悪の事態が回避されて安堵していた。…すると、班長は何故か誇らしげに否定をした。
「…は?」
「…どういう事だ?」
「…技が解けたのは、彼のおかげです」
「…へ?」
そして、班長は俺の方を向いて唐突にそんな事を言った。当然、代表達はこちらを見るし当人である俺は驚いてしまう。
「…あれ?『聞いてない』の?
-雷の力には、まやかしを打ち消す効果があるのよ」
「……(…マジで?)」
『-ああ、そうだ。…そういえば、話していなかったな。
まあ、必要な場面がなかったからな』
直ぐに相棒に確認すると、相棒は頷いた後ふと思い出したようにそんな事を言った。…そういう大切な事、普通に先に言わないか?
『分かった。後できちんと教えてやろう』
そんな俺の気持ちを察した相棒は、真面目な顔で『授業』を約束した。…そしてまた、姿が見えなくなった。
「…どうした?」
「…あ、すみません。…えっと、大丈夫です」
「…?そうか」
肩を落としていると、隊長さんが不思議な物を見る目でこちらを見たので、とりあえず背筋を正して何でもないと返した。
「…とりあえず、事情は分かった。
-では、此処からは賊の対策を練ろうか」
「…まあ、賊の幹部が出て来たとなると簡単には帰らないだろうな。
むしろ、昨日のは『楔』だと考えるべきだ」
そして、双方の責任者は連中の対策を考える始めた。なので、俺達は既に打った手を話し可能な限り会議に参加した-。
○
-それからかなり経った頃。空は完全に暗くなり、砦はすっかり静かになった。…けれど、そんな事は関係ないとばかりに北門の外に怪しい集団が集まっていた。
『-…どうなってる?…何で、闘士達はおろか首都から来た部隊が居ないんだ?』
そいつらの纏め役は、『予定』とは違う状況に困惑していた。…相当、自分の技に自信があるだろうから当然の反応だ。
『…くそっ、面倒臭いっ!やっぱり、小賢しい策略より直接眠らせた方が早いっ!
おいっ!』
『へいっ!』
すると、そいつは苛立ちながら部下に指示を出した。…どうやら、敵も一枚岩ではないみたいだな。
『-ひぎゃああああっ!?』
『なっ!?』
上から『見下ろし』つつ敵の内情を把握していると、門の錠前に仕込んでいた雷玉が数人の賊を襲った。…それを見た未の闘士は、とても驚いていた。
やはり、班長の予想通り奴は『闘う時』以外では氣を練っていないようだ。…だから、見え見えの罠に引っ掛かかるのだ。
『くそっ!?……そ、そんな、バカなっ!?』
そいつは、忌々しいといった様子でようやく氣を練り上げ手を上に上げる。…だが、少しして奴は更に驚いた。
まさか、技の効果が消えてるとは予想すらしていなかったのだろう。
『-うわああああっ!?』
その時、反対側の門から情けない悲鳴が聞こえて来た。どうやら、あっちに来た賊も上手く罠に引っ掛かったようだ。
『……あー、面倒臭いいいいっ!』
「…っ!」
すると、そいつは頭をがしかしと掻きながら圧のある低い声で叫んだ。…同時に、氣が一気に膨れ上がった。
『…っ!そこかあああああっ!』
そして、奴は上にいる俺に気付いたのか凄まじい形相でこちらを睨んで来た。更に、奴は瞬時に氣の鎧を纒い両足に大量の氣を込めた。
『おらああああああっ!』
「…っ!?」
直後、奴は門に向かって走り出しなんとそのまま門を駆け上がって来たのだ。しかも、いつの間にか手にも怪しい色の氣を纒っていた。
『喰らえやああああっ!』
「うわあああっ!
-なんてね」
『っ!?』
程なくして奴は俺の元にたどり着き、怒りのまま殴って来た。…当然、俺は慌てるフリをした後にニヤリと笑う。
『ちいっ!?』
直後、班長の風舞が素早く空へと逃がしてくれた。…あ~、怖かった。
『甘ぇよっ!
-夢羊っ!』
安堵していると、奴は叫ぶと共に手をこちらにに向ける。そして、奴が技の名を叫ぶと手のひらから深紫色の氣の羊が現れた。
「…っ!?」
直後、その羊は奴の手を飛び出し俺に向かって来た。このままでは、俺は深い眠りに落ちてしまうだろう。
「『甘いのは、どちらかなっ!
-雷掌っ!』」
『ンめエエエエエエッ!?』
『…なっ!?』
しかし、俺は素早く両手を前に出しそこに雷を集めて羊を受け止める。すると、羊は雷に包まれて悲鳴を上げた。
当然、それを見た奴は驚愕する。
「『…っと。
へっ!残念だったなっ!』」
『…くそが、調子に乗るなよっ!』
そうこうしている内に、俺は地面に降り立ちこちらを見下していた奴を煽る。すると、奴は更に怒り手を下に向ける。
『夢に喰われちまえっ!
-夢羊・群進っ!』
そして、奴は別の技を叫ぶ。直後、手から大量の羊が飛び出し頭上に落ちて来る。だが、羊が俺に当たる事はなかった。
「『-風壁・蓋』」
そう。俺の直ぐ近くにいた班長が、風の蓋で俺を守ってくれたのだから。…その気配に気付かないくらい、奴は怒っているという事だ。
『ちいっ!だが、いつまで持つかなあっ!』
けれど、奴は直ぐに追加の羊を生み出し落としてくる。すると、蓋は徐々に下がってくる。
どうやら、質量を使った攻めが弱点だと知っているみたいだ。
「『-よお~』」
「『ありがとうございます』」
呑気にそんな事を考えていると、不意に背後の地面に穴が空き栗蔵兄さんが出て来た。なので俺は礼を言い、兄さんが作ったデカイ穴に飛び込んだ。
そして、地中に作られた即席の抜け道を通って門から離れた場所に出た。
「『-お、来たかっ!』」
「『お待たせしましたっ!』」
すると、そこには既に仲間達が集まっており直後班長も合流した。…さて、いよいよ反撃の時だ。
俺は、門の方を向き気を引き締めた-。