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第二十三話『相対するは未』

『-っ!?』

 それから程なくして、奴は俺が居ない事に気付いたのか技を消した。それを見た班長も、風の蓋を消した。

『…バカな、どうやって逃げた?…ああ、本当に面倒臭いなぁ~っ!』

 当然、奴の苛立ちはつのりそれに合わせて刺々しい氣を感じる。…これは、むしろ殺気と呼ぶべきだろう。

『だが、俺を中に招いたのは失策だっ!』

 すると、奴は門から飛び降り砦の中に侵入して来た。そして、自らが生み出した羊に両手を向ける。

『-夢羊・散進っ!』

「『しまったっ!?』」

 奴が技を叫ぶと、羊達はクモの子を散らしたようにあちらこちらに向けて走り出した。このままでは、砦の中の人達が操られてしまう。

「『土壁・四方陣っ!』」

 だが、すかさずデカイ兄さんが周囲に四つの巨大きな壁を生み出し、羊達の行動を制限してくれた。


『-そうするしか、ないよなあああっ!』

『…なっ!?』

 しかし、奴はこちらの行動を読んでいたのか両手をこちらに向けた。…すると、羊達は俺達に向けて突進して来た。

「『まさか、偽装するなんてっ!?』」

「『どうするっ!?』」

「『…っ!丑殿、壁をっ!』」

「まかせろ~っ!

 土壁っ!』」

 だが、班長は直ぐに何かを思い付きデカイ兄さんに指示を出す。当然、兄さんは直ぐに土の壁を生み出した。

「『寅よ、雷玉を壁に封じてっ!』」

「『わ、分かったっ!

 雷玉・封っ!』」

 次に班長は俺に指示を出したので、言われた通りにする。…そして、直後羊達は壁にぶつかり軽い振動が起きた。

『-めぇエエえええっ!?』

 すると、早速封じた雷玉の効果が発揮され羊達の悲鳴が聞こえる。…いや、本当良く直ぐに思い付いたな。


『はああああっ!?合わせ技だとおおおっ!?』

『上手くいって良かったわ』

 それを見た奴も、心底驚いていた。…一方、当の本人は安堵していた。…まさか、思い付いたのではなく『思い出した』のだろうか?

「『…ああ、今のは-雷纒壁-という丑と寅の合わせ技だな』」

 そんな予想をしていると、冷静な兄さんが肯定してくれた。…多分、兄さんも思い出したのだろう。

「『前に、西条さんの家で闘士関連の資料を読んだ事があってね。

 その中に、今みたいな合わせ技が記載されたのがあって必要な時があると思い、記憶していたの』」

「『…マジか』」

「『…いや、それ二年くらい前の事だろ?良く覚えてたな』」

 彼女はなんて事ない風に言うが、俺は凄く驚いた。…そして、金髪兄さんが更に信じられない補足をしてきた。

「『…それに、良く咄嗟に思い出せたな。やはり、頼りになる』」

「『どう致しまして』」

「『-なああああにっ、落ち着いてやがるうううっ!』」

 そんなやり取りをしていると、奴は怒鳴り声を上げた。…確かに、奴の言う通り少し気を抜いていたようだ。


『ナメやがってえええっ!

 -夢羊・合一っ!』

 直ぐに気を引き締めると、奴はまた新たな技を叫んだ。…すると、壁の向こうに居る羊達が一つの大きな存在に変化していくのを感じた。

「『…こいつはまずいな』」

「『流石に、この壁では心許ないな。

 -だから、ここは俺が行こう』」

『…っ!?』

 そんななか、冷静な兄さんは唐突に自分に任せろと言った。当然、俺達は驚いてしまう。

「『…まあ、確かにお前なら大丈夫か』」

 しかし、金髪兄さんだけは落ち着いていた。一体、どういう事なのだろか?

『いけええええっ!』

 疑問を抱くが、奴は羊に指示を出した。…直後デカイ壁は、激しく振動する。どうやら、考えてる時間はないようだ。

「『では、準備するから少しの時を稼いで欲しい』」

「『…了解っ!

 まず、丑殿は二重の壁をっ!』」

「『応よ~っ!

 二重・土壁っ!』」

 けれど、冷静な兄さんは動揺したりせず素早く氣を練り上げていく。一方、時間稼ぎを頼まれた班長も素早く指示を出し始める。


「『-っ!一つ目の壁が壊れたぞ~っ!』」

 そして、新たに二つの壁が生み出された直後何かが壊れた音がした。すると、デカイ兄さんは直ぐに報告した。

「『風界っ!』」

 それを受けた班長は、慌てずに風の結界を展開する。…だが、これだと羊の突進は防げないのではないか?

「『寅は、雷を纒い壁を殴ってっ!

 子は、氣の獣を壁に打ち出してっ!』」

「『…分かったっ!』」

「『は、はいっ!』」

 すると、班長は俺達にそんな指示を出したので言われた通りにした。…っ!?

 直後、殴った部分が外に向けてへこみそこから雷を纒ったつむじ風が発生した。

「『こ、これはっ!?』」

 一方、弟分が殴った場所からは普通の合氣弾より大きな塊が飛び出した。…一体、どういう仕組みだ?

「『丑殿っ!』」

「『応よっ!』」

 そして、すかさずデカイ兄さんは二つの壁を消した。…当然、直ぐに巨大な羊が姿を現すが同時に俺達の攻撃がそいつに向かって行く。


『-メええええエエっ!?』

『くそがっ!?だが、そんなちんけな技でこの技を打ち消す事は出来ないぞっ!』

 的がデカイおかげで、二つの技は綺麗に羊の顔面に命中した。しかし、奴が言うように羊は悲鳴を上げ足を止めるだけだった。

「『-良くやった。後は任せろ。

 追犬・合一っ!』」

 けれど、俺達はきちんと役割を果たす事が出来た。何故なら、ちょうど冷静兄さんが巨大な氣の犬を生み出していたからだ。

『なにいっ!?』

 そして、再び突進を始めた羊に向けて犬は勢い良く駆け出した。すると、程なくして二つの獣がぶつかり合う。

『ばうううっ!』

『めエエええっ!?』

「『…うわ、圧倒的ですね』」

 けれど、犬は直ぐに羊に噛み付き氣で出来た身体を喰い破る。…これは、決まったな。

『…くっくっくっ。あ~あ、やったなあ?

 -解っ!』

 だが、奴は突如兄さんを馬鹿にした態度になり解除の言葉を叫んだ。…すると、デカイ羊は消え再び大量の羊が現れた。

『…追犬・群列。…っ!』

 それを見て、冷静な兄さんもデカイ犬を消して大量の犬を生み出すのだが、犬達は少しふらふらしていた。…まさか、羊を取り込んだからなのか?


「『…さあて、覚悟しなああっ!

 夢羊・群突っ!』」

「『…やれやれ。…~~っ!』」

 そして、奴は勝ち誇ったように叫び羊を突進させた。…しかし、兄さんは冷静さを崩す事なく素早く息を吸込み手を挙げる。

「『-ご飯の時間だぞ~っ!』」

『っ!ワオおおおおんっ!』

『なっ!?』

 突如、兄さんがそんな事を言うと『眠そう』な犬達は寝ぼけたままバラバラに走り出す。しかも、どういうワケか犬達は正確に羊に向かっていた。…恐らく、嗅覚的な物を頼りにしているのだろう。

『めエエええエエっ!?』

『や、やめろおおおおっ!?』

 そして、また羊達は犬達の『ごはん』になっていく。…その光景は、奴の心に深い絆を負わせていた。

「『-さあ、終いだ。

 獣脚っ!』」

『…っ!?』

 当然、兄さんは足を犬のように変化させて素早く駆け出し、直ぐに奴の元にたどり着いた。

 直後、兄さんは拳を握りしめる。

「『せいやっ!』」

『ぐほあああああっ!?』

 兄さんに思い切り腹を殴られた奴は、気持ち良く後ろの門にに吹き飛んだ。…そして、門にぶつかった奴はそのまま前に倒れ再び起き上がる事はなかった-。


 -その後、俺達は待機していた二つの部隊と協力して闘士と下っ端達を拘束し牢屋にぶち込んでいく。…それが終わる頃には完全に夜がふけていたので、俺達はそのまま泥のように眠りに就くのだった-。

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